1日の米株式市場でダウ平均は46.73ドル安(-0.14%)と4日ぶりに小幅反落。予想を下回った中国7月の財新製造業購買担当者景気指数(PMI)やペロシ下院議長の台湾訪問計画報道を受けた地政学的リスクへの警戒感から売りが先行。月初で売り買いが交錯するなか、7月製造業PMI改定値が予想外に下方修正されたほか、7月ISM製造業景気指数が小幅ながら2年ぶりの水準にまで低下したため、景気後退懸念も上値を抑制した。ナスダック総合指数も-0.17%と4日ぶり小反落。前日に28000円目前まで上昇していた日経平均は米株安を受けて180.87円安からスタート。米中摩擦の悪化が警戒されて円高・ドル安が急速に進んだほか、中国上海総合指数や香港ハンセン指数も大幅に下落し、リスク回避の売りが広がるなか、日経平均は前引け直前には27530.60円(462.75円安)まで下落した。
個別では、ダイキン<6367>や信越化<4063>、任天堂<7974>、ファナック<6954>、SMC
<6273>、キーエンス<6861>などの値がさグロース(成長)株、FA関連株が大きく下落。東エレク<8035>やルネサス<6723>の半導体関連も弱い。景気後退懸念による原油先物価格の大幅下落を受けてINPEX<1605>、石油資源開発<1662>が大幅安で、三井物産
<8031>や住友商事<8053>の商社株も大きく下落。円高・ドル安進行を背景にトヨタ自<
7203>、デンソー<6902>の輸送用機器も軟調。決算を発表したJSR<4185>は一時ストップ安になるなど急落し、東証プライム市場の値下がり率トップとなっている。丸和運輸<9090>も決算を受けて急落。ほか、エノモト<6928>、ファイズHD<9325>、三越伊勢丹<3099>が決算リリースを手掛かりに大きく下落。
一方、全面安商状のなか商船三井<9104>、ファーストリテ<9983>、東京電力HD<9501>、ZHD<4689>、ベイカレント<6532>、ニトリHD<9843>が逆行高。また、決算が好感されたTDK<6762>と大塚商会<4768>はそれぞれ急伸し、住友化学<4005>、京セラ<6971>、ANA<9202>も決算を受けて買い優勢となった。
セクターでは医薬品、精密機器、機械を筆頭にほぼ全面安。一方、海運のみが上昇となった。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体91%、対して値上がり銘柄は8%となっている。
前日の引けにかけて騰勢を強めた日経平均は28000円に届くことなく今日は寄り付きから失速。このところ200日移動平均線上での推移が続いていたが、本日は一時同線を下回る場面が見られた。28000円を手前とした上値の重さが連日で確認されていた矢先の急失速であり、やはり28000円回復には材料不足の様子。多方面で指摘されているように、米国のハイテク・グロース株を中心とした7月の株価上昇はイベントや夏季休暇入り前の機関投資家による買い戻しが主体だったと推察される。
また、テクニカル面で日米ともに主要株価指数がいい水準まで戻してきたタイミングで、利益確定売りの口実とされかねない中国関連のネガティブなニュースも多く見られている。まず、ペロシ下院議長が台湾を訪問する計画と伝わっている。蔡英文総統との会談は3日に予定されているという。会談はいまだ流動的とはいえ、中国側は軍事行動も辞さないと強くけん制しており、米中摩擦悪化への警戒感が急速に高まっている。ウクライナ戦争に端を発したロシアを巡る地政学リスクもまだ沈静化していない中、中国とのリスクも高まるとなると、市場は素直に嫌気するだろう。7月のリバウンドに寄与してきた商品投資顧問(CTA)など足の速い向きが、足元の悪材料に反応して持ち高を転換させる可能性もあろう。
中国の景況感回復のペースが想定以上に緩慢だという懸念も強まりつつある。中国国家統計局が発表した7月の製造業PMIは49.0と、6月の50.2から低下し、予想外に活動拡大・縮小の分かれ目となる50を下回った。財新が発表する民間版の7月製造業PMIも50を上回りはしたが、50.4と前月の51.7から低下し、市場予想の51.5も下回った。新型コロナ感染再拡大に伴う行動規制再実施の影響が長期化し、生産、新規受注、雇用の伸びが鈍化している。欧米諸国がこれから景気後退を迎える一方、中国については、緩やかながらも対照的に景気回復へと向かうことが期待されていたため、このままでは世界経済のけん引役が不在となる。
さらに、中国については、建設活動の停滞を理由とした市民による住宅ローン返済のボイコット問題も深刻化している。英銀HSBCホールディングスは中国の不動産関連エクスポージャー120億ドル(約1兆6000億円)相当の約3分の1が劣化、または不良化していることを明らかにしたと伝わっている。開発業者に金融支援を行う基金の設立などが検討されているものの、銀行による融資縮小で経済活動が一段と停滞するリスクを孕み、こうした中国経済を巡るきな臭さが不透明感として相場の重石になっている。
米国でも市場の動きを中心に不透明感が強い。米10年債利回りは1日、2.57%と約4カ月ぶりの水準にまで低下した。現在、米連邦準備制度理事会(FRB)が誘導目標とする政策金利FFレートは2.25~2.50%に設定されており、長期金利が政策金利とほぼ同水準にまで低下している状況はさすがに行き過ぎている印象がある。市場は景気後退によりFRBが来年には利下げを迫られるとみているわけだが、記録的なインフレが続いている中、FRBは今後の経済データ次第では0.75ptの大幅利上げを続ける方針で、市場の見方との間に大きな開きがある。FRBがインフレを抑制したいと考えているにも関わらず、長期金利が政策金利並みの水準まで急低下していることで、むしろ緩和的な環境が作られるという皮肉な構図となっている。
前日に発表された米7月ISM製造業景気指数の項目をみると、「価格」が60.0と6月の78.5から大幅に低下し、「入荷遅延」も57.3から55.2へと低下傾向が続いた。こうしたところから、モノに関するインフレのピークアウト感はより確度を増したといえそうだ。しかし、いま問題視されているのは下方硬直性を有すサービス分野でのインフレ長期化であり、今回のISM景気指数の結果がインフレ懸念を大きく後退させたとは考えにくい。
となると、やはり政策金利の動向を巡って、市場の見方との乖離が大きくなりつつある現状をFRBが放置しておくとは想定しにくく、近いうちにこうした乖離を埋めるために、FRB高官から乖離修正を狙った発言が出てくると予想される。今晩には早速、セントルイス連銀のブラード総裁などの発言が予定されており、注目されよう。
後場の日経平均は節目の27500円を維持できるかが焦点になる。踏ん張れずにこの水準も下回ってしまうと、CTAなどの売りが加速するリスクがあり、その場合には一気に
27000円近くまで戻す展開も想定しておく必要があろう。
(仲村幸浩)
<AK>
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