―デジタル情報の所有権明確化で新たな経済圏創出、100兆円の巨大市場がすぐそこに―
ここにきてデジタル経済圏がにわかに存在感を高めており、米国株市場でも大きなテーマとして投資マネーの食指を動かしている。当然ながらこの潮流は海を渡って日本株市場にも影響を与え始めた。
ネット全盛時代の新秩序である「Web3.0」の概念が、これに関連する個別企業の株価を突き動かしている。ブロックチェーン やそれを礎とした「NFT(非代替性トークン)」、そして暗号資産、更に巨大なパラレルワールドとして横たわる「メタバース」、これらが織りなす新たな経済圏がグローバルマネーを圧倒的なダイナミズムで誘引し始めている。であるならば、経済の近未来を映し出す株式市場でも、これまでとは異なる観点で株価を変貌させる銘柄が相次ぐ可能性がある。今回のトップ特集では、バーチャル空間に発生したWeb3.0という巨大な新潮流を捉え、ビジネスモデルの開花を予感させる有望株を追った。
●加速的に膨張するWeb3.0の世界
インターネットが作り出す空間も時代とともに進化し、付加価値が高まっていく。Web1.0というのは、その初期で前時代的な技術やサービスにとどまり、ユーザー側からすれば情報を読み、取り込むための媒体に過ぎなかった。しかし、これがWeb2.0になると、ユーザー自身が情報を発信できるソーシャルネットワークとしての機能が加わり、IoT社会のなかでリアル空間との融合が日常化した。そして今、我々はWeb3.0に向けた殻を破る瞬間に遭遇している。Web3.0ではネット世界そのものが更にリアル空間に近づき、時にそれを超えていくイメージとなる。ブロックチェーン技術をベースに、デジタル情報の所有権などが明確化され、新たな経済圏が創出される。
国家や大資本企業などのサーバーが支配した中央集権型の経済ではなく、ユーザー同士が情報を含めた経済価値を自由にやり取りできる新たな世界である。その走りがビットコインなどの暗号資産の普及であり、デジタル情報の所有権証明書であるNFT市場が本格的に立ち上がることで、いよいよWeb3.0の経済圏は加速的に膨張していくことになる。
NFTは実物資産と紐付けることで権利の所在を明確化させ、デジタルコンテンツが唯一無二のものであることが証明されることで2次流通、いわゆる第三者への転売もしやすくなる。希少性の高いものは価格が高騰するなど、ビジネスとして利ザヤも追求することができるため、最近では米国だけでなく日本国内でも大手IT企業などが本格的に同分野に参入する動きをみせている。
●NFTとメタバース融合で強力な経済圏創出
そして、このNFT取引の場として、がぜん脚光を浴びることになるのが巨大なる仮想空間メタバース だ。メタバースとは、超越を意味するメタと、宇宙を意味するユニバースを組み合わせて作られた造語で、コンピューターの中に構築された3次元に模したバーチャル空間を指す。もう少し咀嚼(そしゃく)して表現すれば、ネット上にいるもう一人の自分(アバター)が、他の利用者と実社会さながらにコミュニケーションを楽しめる空間のことだ。
世界中の人たちが自由に好みのアバターを選び参加し、もう一つの現実世界を堪能することができる。ヘッドセット型のVRデバイスなどを使えばよりリアル感が増す。コロナ禍で同じ場所に人が集まりにくい環境となるなか、その代替としても一般的に認知され、普及が加速的に進んだ経緯がある。
商店街やオフィス、イベント会場などメタバース内の道路や建造物、空に至るまですべてを含んだバーチャル空間(=ワールド)を闊歩し、経済価値のやりとりも現実社会さながらに行われる。その際にNFTと結び付くことで、発展性が飛躍的に増すとみられている。暗号資産との相性も良い。暗号資産はブロックチェーンによって通貨の発行量が規定されているため、メタバース域内でインフレが生じないという利点もある。
米リンデンラボ社が開発・運営する「セカンドライフ」の発展形という見方もできる。セカンドライフは2000年初頭から運営されたが、現在は当時と比較してデバイスやネットワークの高度化、通信インフラ面で比べ物にならないほどの差がある。また、既にSNS社会が存分に浸透しているというデジタル文化の発展も、メタバースが大きくクローズアップされる背景となっている。メタバース市場規模は28年に100兆円に迫るとも言われている。
そうしたなか、米国では、旧フェイスブックのザッカーバーグCEOがメタバースでのアバターを使ったコミュニケーションサービス開発に意欲を燃やしており、昨年10月に社名を現在のメタ・プラットフォームズ
●NFTとメタバースの関連銘柄をマーク
東京市場に目を向けてみると、Web3.0関連銘柄は多岐にわたるが、NFT事業では昨年独自のNFT取引所を開設したGMOインターネット <9449> のほか、昨年デジタルアートの流通市場を運営するスマートアプリ(東京都港区)を買収し今年2月にもサービスを開始するSBIホールディングス <8473> 、また楽天グループ <4755> も本格参戦の構えにある。マネックスグループ <8698> やサイバーエージェント <4751> 、セレス <3696> なども虎視眈々である。
一方、メタバース関連では、昨年いち早くバーチャルライブ配信アプリ「REALITY」をメタバース事業として経営資源を投下し育成方針を示したグリー <3632> をはじめ、メタバースファッション事業に本腰を入れるシーズメン <3083> [JQ]、ボイスデータから唇の動きを生成するミドルウェアを開発しアバター向けで需要を捉えるCRI・ミドルウェア <3698> [東証M]、メタバース型バーチャルイベントサービス「ZIKU」の提供を行うシャノン <3976> [東証M]、次世代マッチングサービスとして「就活メタバース」をリリースしたポート <7047> [東証M]などが積極的だ。
メタバースのプラットフォームを担うゲーム関連企業の存在も見逃せない。米ゲーム会社バンジーの買収を発表したソニーグループ <6758> や、ニンテンドースイッチという戦略商品を地球規模で普及させた任天堂 <7974> 、更にスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> 、コナミホールディングス <9766> 、カプコン <9697> 、バンダイナムコホールディングス <7832> などもマークしておきたい。
そして、今回のトップ特集では、今後中長期的に株価の居どころを大きく変える魅力を内包した7銘柄を厳選した。
●Web3.0ではこの7銘柄が新星の輝き放つ
【C&Rは業績躍進続きメタバース事業も入口に】
クリーク・アンド・リバー社 <4763> は映像やゲーム、Webコンテンツなどの制作代行事業を主力業務とし、クリエーターの派遣ビジネスも手掛ける。VR分野にも積極的に踏み込み、会社側もメタバース事業への入り口に立っているとの認識だ。昨年12月に建築士及び工務店と注文住宅を建てたい人の双方をVR空間で結びつけるVR住宅展示場を開設している。また、VR/NFTアーティスト・せきぐちあいみと専属契約を結んでいることもポイント。22年2月期は4期連続で2ケタ増収を確保し、営業利益は前期比31%増の32億円を見込んでいる。また、今期で12期連続増収となり中長期にわたる成長トレンド継続は目を見張るものがある。株価は年初から調整を強いられたが、1月中旬と下旬に2点底を形成。中勢2000円台での活躍が有力視される。
【アステリアはブロックチェーン先駆で存在感】
アステリア <3853> はソフト開発会社で、ブロックチェーンなど先進技術分野に早くから経営資源を注ぎ、独自ノウハウを育成している。ノーコードのデータ連携ツール「ASTERIA Warp」は導入社数9500社を超え同社収益の屋台骨を担う。一方、モバイル向けコンテンツ管理システム「Handbook」も好調だ。投資事業にも積極的で、同社が筆頭株主となっているエッジAI開発企業がSPACとの合併を経てナスダック市場に上場、含み益拡大と技術連携に期待がかかる。また、NFT技術を有するJPYC(東京都千代田区)とは昨年4月に資本・業務提携を行った。22年3月期営業利益は前期比4.1倍の34億円を見込み、前期に続く過去最高利益の大幅更新となる。株価は75日移動平均線を足場に上放れ前夜の感触だ。
【壽屋は3DCGアバターで企業価値急拡大】
壽屋 <7809> [JQ]はフィギュアやプラモデルの企画・製造・販売まで一括して手掛ける。VR技術を活用してバーチャル空間で快適な生活を送るためのアバターを開発。3DCGデータブランド「アバターちゃんシリーズ」で需要を捉えている。業績は急拡大途上にあり、21年6月期に営業利益が前の期比4.3倍の9億8700万円と大幅な伸びを達成し、一気に過去最高利益更新となった。更に22年6月期については、そこから一段と飛躍し前期比72%増の17億円を予想。連続で大幅に最高利益を更新する見通しにあり、要注目の企業といえる。株価は5200円台にある75日移動平均線近辺でもみ合う展開にあるが、ここは上昇トレンド転換に向けた踊り場とみておきたい。
【モバファクはNFT販売の「ユニマ」に脚光】
モバイルファクトリー <3912> はスマートフォン向けゲームを手掛け、位置情報機能を使った「位置ゲーム」で優位性を持っている。このほか着メロの開発・配信なども行っている。昨年7月に動画・楽曲・アートなどデジタルデータをNFT化し販売までをワンストップで行えるNFT販売用プラットフォーム「ユニマ」を開始し、マーケットの注目を集めた。新市場区分では「プライム市場」を選択、25年12月期までに連結EBITDA30億円の達成を目指し継続的な取り組みを進めている。株価はここにきて800円台のもみ合いを上放れ4ケタ大台乗せを達成するなど強調展開にある。目先の押し目形成場面は狙い目となりそうだ。急騰習性があり、昨年4月には1800円台まで買われた実績がある。
【エスユーエスはバーチャルキャンパスで先駆】
エスユーエス <6554> [東証M]はITや機械・化学・バイオ分野など開発系の技術者派遣のほか、ERP導入などのITコンサル、システム開発事業などを展開する。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)投資が活発化するなか、ERP導入ビジネスが好調なほか、XR事業にも注力している。京都芸術大学と共同で、アバターで教員と高校生・受験生が交流できる「バーチャル・オープンキャンパス」を開催するなど、メタバース分野におけるノウハウや実績で先駆する。業績も好調だ。22年9月期営業利益は前期比3.1倍の6億100万円を見込み、これは過去最高利益更新となる。株価は1月末から2月にかけて急動意をみせたが、その後反落。値動きは荒いが900円近辺は拾い場となっている可能性がある。
【メディアドゥはデジタル出版革命の担い手に】
メディアドゥ <3678> は電子書籍 の取次で国内最大手だが、出版不況が言われるなかにあって電子書籍についてはコミック中心に成長路線をひた走る状況にあり、同社はその象徴となっている。14年2月期以降、前期実績(21年2月期)まで売上高、利益ともに目を見張る伸びを続けている。22年2月期も伸び率こそ鈍化するものの営業利益は前期比13%増の30億円と2ケタ成長を確保する見通し。デジタルコンテンツの資産化に焦点を当て、NFTを使ったデジタル特典付きのコンテンツ(出版物)の販売を開始している点は注目される。株価は1月28日に2300円台まで売り込まれ昨年来安値をつけたが、その後はリバウンド局面に。依然底値圏に位置しており、押し目は買いで対処したい。
【シンワワイズはNFTの生成・販売で新境地】
Shinwa Wise Holdings <2437> [JQ]は美術品の公開オークション の企画・運営などを行い業界最大手に位置する。オークションハウスとしてアート市場に投資マネーを呼び込むため、投資サロンやアートファンドの組成などにも取り組む構えをみせている。NFTの生成・販売事業に傾注し、昨年10月には国内初となるNFTアートオークションを開催し成功を収めるなど積極的な布石を打っている。昨年に同業大手のアイアートを子会社化したことで、業容拡大効果も発現。21年5月期に営業損益が2億1100万円の黒字と4期ぶりに赤字脱却を果たしたが、22年5月期は一段の利益成長が見込める。株価は需給思惑で動きやすい。1月20日に300円台を割り込み昨年来安値形成も、ここにきてジリ高歩調にありマークしておきたい。
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