東京市場が祝日だった間の10、11日の米株式市場では、ダウ平均が535.10ドル高、27.16ドル高と上昇。10日は米7月消費者物価指数(CPI)が予想以上に減速したことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げペース減速への期待が高まり、大幅に上昇。一方、11日は、米7月生産者物価指数(PPI)も予想以上に減速したものの、FRB高官らの発言を受けて長期金利が大きく上昇したことで、買い先行で始まったが大きく失速した。ナスダック総合指数はそれぞれ+2.89%、-0.58%だった。重要インフレ指標を無難に通過した目先の安心感から売り方の買い戻しなども入り、日経平均は432.41円高とギャップアップでスタート。朝方から買いが先行した後はこう着感を強めたが、高値圏での推移が続き、前引け直前には一時28500円を超える場面があった。
なお、8月オプション取引に係る特別清算指数(SQ)算出値は28525.62円だった。
個別では、東エレク<8035>、ファナック<6954>、キーエンス<6861>、信越化<4063>、ダイキン<6367>などのハイテク株や値がさ株が大幅高。アリババ株の一部売却を発表したソフトバンクG<9984>は急伸。村田製<6981>、安川電機<6506>、京セラ<6971>
も高い。エムスリー<2413>、ベイカレント<6532>、JMDC<4483>、メルカリ<4385>のほか、ラクス<3923>、Sansan<4443>、マネーフォワード<3994>などグロース(成長)株は全般強い動き。三菱商事<8058>、住友鉱<5713>、ENEOS<5020>など資源関連株も堅調。業績予想を上方修正し、自社株買いも発表したホンダ<7267>や、4-6月期営業利益が市場予想を上回った住友不動産<8830>、SMC<6273>、パーソルHD<2181>が大きく上昇。業績予想を下方修正も、市場予想を上回る水準にとどまったコーセー<4922>はあく抜け感から買われた。
一方、業績予想を、市場予想を下回る水準にまで下方修正したブリヂストン<5108>、資生堂<4911>、7月既存店売上高が冴えない結果となった良品計画<7453>は軟調。
業績予想を上方修正した富士フイルム<4901>は買い先行も失速して下落。ガンホー<3765>、ブレインP<3655>、PHCホールディングス<6523>、ディー・エヌ・エー<2432>
などが決算を材料に大きく売られ、東証プライム市場の下落率上位に並んでいる。
セクターでは電気機器、精密機器、石油・石炭を筆頭にほぼ全面高。一方、ゴム製品が下落した。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体87%、対して値下がり銘柄は11%となっている。
祝日明けの日経平均は600円を超える大幅反発で6月9日に付けた28389.75円を超えてきた。日足チャートでは7月20日以降のもみ合いから上放れる形となっており、商品投資顧問(CTA)など短期筋の追随買いを一段と誘い込みやすい状況だ。一方で、28500円を意識した上値の重さも見られている。
米7月の消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)は共に予想を下回り、市場ではインフレピークアウト期待が高まっている。しかし、指標の減速要因の大半はエネルギー価格であり、食品価格などはむしろ上昇ペースが加速。住居費などの下方硬直性のある分野のインフレもほとんど減速していない。
一時1バレル=90ドルを割り込んでいたNY原油先物価格は足元で90ドル半ばまで回復している。代表的な商品市況の総合指数であるCRB指数も7月14日をボトムに下値切り上げの上昇トレンドに転換。こうした背景から、7月のインフレ指標は大きく減速したものの、8月分以降は高止まりが想定される。また、7月雇用統計では平均賃金の伸びは予想に反してむしろ加速していた。「インフレピークアウト→利下げ減速」までを織り込むのは時期尚早といえよう。
米連邦準備制度理事会(FRB)の高官からもけん制発言が相次いでいる。インフレ指標の発表後、米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は「インフレとの闘いで勝利を宣言するには非常に程遠い」と指摘。「政策金利は更に引き上げられた後、インフレが2%に低下するまでは維持される」とも発言し、来年の利下げを織り込む市場を強くけん制した。市場とFRBが想定する今年末の政策金利予想にもかなり開きがあり、いずれ、市場の楽観は修正される可能性がある。
ここしばらく落ち着いた動きだった米10年債利回りは、前日、2.89%(+0.1pt)と大幅に上昇した。これに伴い、期待インフレ率の指標とされる10年物の米ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)を差し引いた実質金利は8月に入ってからの上昇基調をやや加速させている。米国で業績予想の下方修正が進むなか、予想一株当たり利益(EPS)は切り下がっており、株価上昇には投資家の期待値を表す株価バリュエーションのPER(株価収益率)の上昇が欠かせないが、実質金利の低下に歯止めがかかり、上昇に転じてきているなか、そうした展開は見込みにくいだろう。
市場関係者の多くは、足元の株式市場の上昇はベアマーケットラリー(弱気相場の中の一時的な上昇)に過ぎないとみている。ただ、機関投資家の多くが夏休みに入るなか、市場参加者が限られ、相対的に個人投資家や短期売買のみを目的とした投資家の動きに左右されやすい地合いが続いている。このため、相場に乗り遅れることを嫌った個人投資家の買いや、CTAなどの短期筋の追随買いで足元は上方向に振れやすい状況だ。来週末に控える米国版SQ(特別清算指数)までは売り方の買い戻しが相場を下支えしそうだ。
一方、4-6月期の決算発表が一巡したばかりだが、行動制限が長期化している中国の景気回復が遅れていることで、7-9月期決算に対する懸念が早くも台頭してきている。
こうした状況において、株式の持ち高を「アンダー」から「ニュートラル」に修正することはあっても、「オーバー」にまで引き上げることは考えにくいだろう。今は夏休み入りしている多くの機関投資家が、休暇明けに積極的に株式を買ってくることは想定しにくく、日経平均は今の28500円が上限とも考えられよう。
(仲村幸浩)
<AK>
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