12日の米株式市場でダウ平均は189.55ドル高(+0.55%)と5日続伸。今晩発表予定の5月消費者物価指数(CPI)の改善期待から買いが先行。今晩から開催される連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ停止の思惑も強く、ハイテク株を中心に買われ、終盤にかけて上げ幅を拡大した。ナスダック総合指数は+1.52%、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は+3.31%とそれぞれ3日続伸。米株高を引き継いで日経平均は234.95円高からスタート、半導体などハイテク株を中心に買われた。序盤は高値もみ合いが続いていたが、前場中ごろから騰勢を強めると一時32995.35円(561.35円高)まで上値を伸ばした。ただ、心理的な節目を手前に前引けにかけてはさすがに騰勢一服となった。
個別では、レーザーテック<6920>、アドバンテスト<6857>、ルネサス<6723>の半導体関連が軒並み高で、ソシオネクスト<6526>は目標株価引き上げもあり急伸。ファーストリテ<9983>、ソニーG<6758>の値がさ株、三井物産<8031>、三菱商事<8058>の商社、クボタ<6326>、コマツ<6301>の建機、マツダ<7261>、日産自<7201>、デンソー<6902>の輸送用機器なども大幅高。メルカリ<4385>やベイカレント<6532>のグロース株も高い。トヨタ自<7203>は全固体電池を搭載した電気自動車(EV)の投入計画が好感された。ソフトバンクG<9984>は米Open AI社の経営者との面会報道を手掛かりに急伸。
決算や上方修正などが業績関連ではアクシージア<4936>、萩原工業<7856>、トーホー<
8142>が急騰。高水準の自社株買いと配当方針の変更を発表したセイノーHD<9076>はストップ高比例配分となっている。
一方、郵船<9101>、川崎汽船<9107>の海運は続落。外資証券の原油価格見通しの引き下げを受けてINPEX<1605>、石油資源開発<1662>が軟調。月次動向を受けてMonotaRO
<3064>は大きく下落。ほか、決算を受けてアセンテック<3565>、グッドコムアセット<
3475>、鎌倉新書<6184>、学情<2301>、ラクーンHD<3031>などが大幅安となっている。
セクターでは輸送用機器、卸売、ゴム製品が上昇率上位に並んだ一方、海運、パルプ・紙、鉱業が下落率上位に並んだ。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体68%、対して値下がり銘柄は28%となっている。
本日の日経平均は大幅続伸、上げ幅は500円を超え、大台の33000円に迫る勢いを見せている。週明けの米株式市場でハイテク株を中心に株価が大きく上昇したことが追い風になっているもよう。しかし、それだけでは前日終値水準からの500円超もの上げ幅はさすがに説明しづらく、本日の岸田首相の会見を先取りするような動きが先行していると思われる。
一方、日経平均は4月半ば以降のわずか2カ月で5000円程も上昇しており、スピード違反の様相は「ここに極まれり」といった気がしてならない。東証のPBR是正要請やバフェット効果など日本株の上昇を説明する後付けの理由はいくつがあるが、果たして5000円超もの上昇を正当化する材料なのだろうか。たしかに東証からの是正要請を受けて、企業から株主還元の積極化など動きが出ているが、自社株買いの一過性方策に頼る動きが多く、事業の構造改革といった持続的なPBR向上につながる方策を発表している企業は少ない印象を受ける。
こうした中、期待先行でPBRはすでに日経平均で1.90倍・1.33倍(指数ベース・加重平均ベース)、東証プライム全銘柄でも1.30倍にまで上昇している。すでに割安感は十分すぎるほどに解消されている。また、予想PERでは日経平均は19.9倍・14.8倍(指数ベース・加重平均ベース)、東証プライム全銘柄で15.2倍であり、こちらも、もはや割安感はなく、むしろ、割高感を否めない水準だ。
ちなみに、大和証券でも日本株の割高感を指摘している。同証券のチーフストラテジストである阿部健児氏はTOPIX(東証株価指数)の株式益利回りと米10年債利回りのスプレッド(利回り差)が2%台と、過去10年の中央値である4%を下回っていることを理由として挙げている(スプレッドが小さいほど株式が割高であることを意味する)。
個別をみても、例えばソシオネクスト<6526>やアドバンテスト<6857>は割高感が強く、正直、筆者個人としては、ここまでの株高は正当化しにくいと考えている。たしかに生成AI(人工知能)という新たなカタリストが出現し、これがもたらす業績へのインパクトがまだ正確には計ることができないうちに割高と一蹴するのは間違っているかもしれない。
しかし、まずソシオネクストはアドバンテストと異なり、生成AI向けの恩恵がそこまで大きくはないはずだ。また、成長分野向けに特化しているとはいえ、バリュエーションのプレミアムとしては高過ぎる印象が拭えない。また、アドバンテストは生成AI関連の筆頭格として挙げられているが、先週、世界半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)が今期の設備投資計画が予想レンジの下限近くになる見通しとしたことについてはどう捉えているのだろうか。生成AIブームは米エヌビディアの好決算を契機に始まったが、そのエヌビディアを大口顧客として持つTSMCから先行きに対して強気の見方が出てこないのは何故なのだろうか。
こうした中、両社の今期予想PER約45倍というのは正当化できるのだろうか(むろん、アドバンテストなどは信用需給が売り長になっていることもあり、ソシオネクストを含めて空売りは推奨しない。)。
ほか、商品先物取引委員会(CFTC)によると、6月6日時点での投機筋の円ポジションの売り越し幅は10万4817枚と前週からさらに拡大し、今年最大の売り越し幅を更新している。ただ直近の3年間の動向を振り返ると、10万枚の売り越し水準をボトムにその後は買い戻しに転じる傾向が見られている。
今晩の米5月消費者物価指数(CPI)では改めてインフレ基調の鈍化が確認される見通しで、明日結果が公表される米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが一時停止される見込みだ。政策金利見通し(ドットチャート)ではターミナルレート(政策金利の最終到達点)が引き上げられる公算が大きいが、引き上げ幅は0.25ポイントの利上げ1回分程度にとどまる見通し。また、金利先物市場はすでに7月会合までに利上げが1回行われることを既に7割以上の確率で織り込んでいる。
足元の株高を受けて、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長がタカ派なコメントを発する可能性もあるが、米金利の先高観は後退している、もしくは大方織り込み済みと思われる。となれば、日米金利差拡大に基づく円安・ドル高も期待しづらい。
日本株を巡る支援材料が少なくなってきていることには留意しておきたい。こうした中、個別では大型株でなく、依然として出遅れ感の強い新興株や中小型株に着目すべきと考える。
(仲村幸浩)
<NH>
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