1日の米株式市場でダウ平均は5.14ドル高(+0.01%)と小反発。一部小売り企業の低調な決算を失望した売りが先行。2月ISM製造業景況指数の支払い価格の上昇や米連邦準備制度理事会(FRB)高官のタカ派発言を受けた長期金利の上昇も売り圧力となった。ただ、ダウ平均は月初に伴う新規買いを支えに小幅ながらプラス圏を回復。他方、金利高が重しでナスダック総合指数は-0.66%と続落。一方、日経平均は48.29円高からスタートすると、朝方に一時27617.80円(101.27円高)まで上昇。引け後に発表された米セールスフォースの好決算を背景に時間外取引のナスダック100先物が強含みで推移していたことや為替の円安が支援した。しかし、午前中ごろからナスダック100先物が下落に転じたことが重しとなり、日経平均も下落に転換。27500円割れからの押し目買いで引けにかけては下げ渋った。
個別では、レーザーテック<6920>、東エレク<8035>、ルネサス<6723>の半導体関連のほか、TDK<6762>、ローム<6963>、新光電工<6967>、三井ハイテック<6966>のハイテク株、メルカリ<4385>、リクルートHD<6098>、マネーフォワード<3994>、ラクス<3923>のグロース株などが全般下落。新株予約権の発行が嫌気された大幸薬品<4574>が急落。第3四半期決算は堅調ながらも海外事業の収益性改善の遅れが重しとなった伊藤園
<2593>は買い先行も伸び悩んで失速。
一方、前日の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の上振れを背景とした中国関連株への買いが続き、日本製鉄<5401>、JFE<5411>、神戸製鋼所<5406>の鉄鋼や、住友鉱
<5713>、三菱マテリアル<5711>、DOWA<5714>の非鉄金属、三井物産<8031>、三菱商事<
8058>、丸紅<8002>の商社などが上昇。23年度スポンジチタン値上げ決着報道を材料に大阪チタ<5726>、東邦チタニウム<5727>が急伸。業績予想を上方修正したイーレックス<9517>、エアトリ<6191>、月次売上動向が好感されたKeePer技研<6036>、外資証券のレーティング格上げが観測されたダイセル<4202>なども大きく上昇した。
セクターでは電気・ガス、証券・商品先物取引、精密機器が下落率上位となった一方、非鉄金属、鉄鋼、繊維製品が上昇率上位となった。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体の47%、対して値上がり銘柄は47%となっている。
前日の米国市場では、米10年債利回りが昨年11月以来となる4%まで一時上昇したことを嫌気し、株式の売りが優勢となった。ナスダック総合指数は遂に200日移動平均線を終値で割り込んでおり、S&P500種株価指数も200日線割れ目前の水準で取引を終えている。S&P500指数も同線を割り込んでくるようだと、株式市場の調整色が強まりそうだ。
前日の米長期金利の上昇の背景としては、ドイツの消費者物価指数(CPI)の前年比の伸びが予想に反して前月から加速したことに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)高官からタカ派発言が相次いだことが挙げられる。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅について0.25ptか0.50ptかについて「オープンマインド」と発言し、利上げ幅の再加速に含みを持たせた。また、アトランタ連銀のボスティック総裁は政策金利を5.00-5.25%に引き上げた後は、2024年もしばらくその水準で維持する必要性について言及。
ボスティック総裁が提言した金利水準については、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)の5.45%よりは低いが、今年だけでなく来年以降も高水準の金利を据え置く可能性について言及した点は、年後半からの相場の回復を期待する市場関係者にとってはネガティブな影響を与えたと考えられる。
インフレの鈍化が進んでいた欧州でも、前日のドイツだけではなく、一昨日に発表されたフランス、スペインのCPIも予想を上振れており、ドイツやフランスの10年債利回りは年始からの下落を埋めて昨年末に付けた高値を更新している。欧州ではインフレ再加速よりも、スタグフレーション(物価高と景気後退の併存)の様相が濃かった昨年対比での景況感改善を好感する動きの方が足元では優勢で、欧州株価指数の堅調推移が続いている。しかし、労働者のストライキ勃発が散見されている欧州でも、次第にインフレ再加速を懸念する動きが反映されてくる可能性はあろう。
話は米国に戻るが、前日の米国市場での注目点は他にもいくつかあった。米供給管理協会(ISM)の2月製造業景況指数が公表されたが、景況感は47.7と1月(47.4)より小幅に改善も、引き続き景況感の縮小を意味する50割れとなり、市場予想(48.0)も下回った。また、項目別では新規受注が47.0と1月(42.5)から大きく改善したが、依然として50割れの状態で、経済活動の縮小が続いていることが示された。一方で支払い価格の項目は51.3と1月(44.5)から大幅に上昇。景気の後退と物価の高止まりというスタグフレーション的な組み合わせ結果となったことはネガティブだろう。
小売企業の決算も冴えない内容だった。ホームセンター大手のロウズと百貨店のコールズの今期ガイダンスは低調な見通しとなったほか、前期第4四半期実績も想定以上に弱い結果となり、両者の株価はそれぞれ下落した。米国では10-12月実質国内総生産(GDP)改定値での個人消費の大幅下方修正や、2月消費者信頼感指数の低下、ウォルマート、ホーム・デポ、ダラー・ゼネラル、TJX、ディラーズ、ターゲットの低調な小売決算など、マイナス材料が増えてきている印象だ。
物価の高止まりとそれに伴う高金利の長期化による景況感の悪化が消費者心理を冷やしていることが示唆されていると考えられ、米国経済の唯一の下支え役ともされてきた個人消費に陰りが見られてきている点は、今後の業績悪化と景気後退を深刻化させる可能性があり、注意すべき点と考える。今晩の米国市場でもベスト・バイ、コストコ・ホールセール、メーシーズの小売決算があり、内容を見極めたい。
今後も、今週末の米2月ISM非製造業(サービス業)景況指数、来週のパウエルFRB議長の上院議会での証言、来週末の米2月雇用統計と、金利動向に大きな影響を与えそうなイベントが多く控える。昨日一時4%を超えた米10年債利回りの一段高が警戒される中、3月の日米金融政策イベントを消化するまではグロース株の調整が続きそうだ。それまでは、3月末の配当・優待の権利取りを狙ったバリュー・高配当利回り銘柄を中心とした物色のほか、中国経済の回復期待を通じた中国関連株やインバウンド関連株の強含みが予想されよう。
(仲村幸浩)
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