27日の米株式市場でダウ平均は237.40ドル安(-0.66%)と14日ぶり反落、ナスダック総合指数は-0.54%と続落。米連邦公開市場委員会(FOMC)を無難に消化した安心感から買いが先行。4-6月期国内総生産(GDP)などの経済指標が軒並み予想を上回り、景気後退懸念が緩和したことも寄与。一方で年内の追加利上げ観測が再燃し長期金利の上昇が警戒されると売りに転換。また、日本銀行が本日の金融政策決定会合で政策修正を議論するとの観測報道もグローバルな資金フローの変化に対する警戒感を誘ったようで終盤にかけて下げ幅を広げた。日経平均は日銀の政策修正への警戒感から為替の円高が進むなか売りが先行し、446.74円安からスタート。ただ、昼頃に予定されている金融政策決定会合の結果公表とその後の植田総裁の会見を見極めたいとの思惑も働き、その午後は一進一退が続いた。
個別では、ソニーG<6758>、ソフトバンクG<9984>、ファーストリテ<9983>、ファナック<6954>などの主力株が全般売られている。為替の円高を嫌気して日産自<7201>、マツダ<7261>、SUBARU<7270>、デンソー<6902>などの自動車関連が下落。決算を材料に日野自動車<7205>、フューチャー<4722>、オムロン<6645>、システナ<2317>が急落し、ルネサス<6723>、富士通<6702>も大幅安。一方、日銀の政策修正観測を背景に三菱UFJ<8306>、りそなHD<8308>、第一生命HD<8750>、T&DHD<8795>などの銀行・保険が上昇。米インテルの好決算を受けてイビデン<4062>はハイテク株安のなか逆行高。
決算を材料にフタバ産業<7241>、アマノ<6436>、シンプレクスHD<4373>、ブルソース<
2804>、日清粉G<2002>が大きく上昇し、パワー半導体が好調な富士電機<6504>も大幅高となった。
セクターで電気機器、精密機器、医薬品を筆頭に全般下落。一方、銀行、海運、保険、陸運の4業種のみが上昇している。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体の79%、対して値上がり銘柄は17%となっている。
本日の日経平均は大きく反落。昨晩の米国市場の取引時間中、日本経済新聞社が、今回の金融政策決定会合において日本銀行がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正案を議論すると報じたことが要因だ。先週末に今会合では政策修正はないとする観測報道が出て、それまでくすぶっていた政策修正への思惑が一度大きく後退していただけに、今回の報道はサプライズだ。前日の米株式市場もハイテク株を中心に中盤までは大きく上昇していたが、日銀の観測報道が出たあたりから急速に上げ幅を縮め、結局、主要株価指数は揃って下落。米ダウ平均の連騰記録もついに終わった。
ただ、落ち着いて考えれば、日銀の政策修正は悪いことではない。もともとデフレ体質からの脱却という構造的な変化を、海外投資家は日本株買いの一つの理由として挙げていた。だとすれば、今回の動きはそうした構造的な変化が起こりつつあることを日銀が認めはじめたという証拠でもある。そもそも、世界各国の中央銀行が急速なペースで利上げを続け、日本も数十年ぶりのインフレに直面して少なくともデフレでない状況に至っているのであるから、YCCという世界を見渡しても異例の政策は修正してしかるべきだろう。マイナス金利政策を続けているだけでも十分に金融緩和的であるため、これを引き締めへの転換と解釈するのも拙速な判断だと考える。
そのため、政策の修正ペースが緩慢であれば、本日のリスク資産の売りも次第に落ち着いてくると思われる。本日売っているのも短期筋が中心だろう。今回の一件を通じて、次第に構造的な変化を見越して長期目線の実需筋が本腰を入れて買いを入れてくることも考えられ、短期筋の売りが落ち着いた後には日本株の強い動きが復活してくる可能性などもあろう。
一方、これはやや長めの時間軸で見た場合の話で、短期的には注意が必要と考える。というのも、日本と並んでマイナス金利政策を採用していたスイスが金融引き締めに転じた時もサプライズをもって受け止められていた過去の経緯がある。先進国の中では最後の砦ともいえる金融緩和を継続していた日本がいよいよ政策転換に舵を切りはじめたとすれば、それなりのインパクトがあろう。円は低金利通貨としての立ち位置が固まっていたため、低金利で借りた円を売って高金利の通貨を買うキャリー取引などにも影響を与えそうだ。
また、以前から、日銀が政策修正した場合の生保などの日本国内における機関投資家の投資行動の変化について海外では議論されていた。すなわち、国内機関投資家は米国債など海外債券の大口投資家であるため、日銀が政策修正することによって国内長期債券の利回りが高まれば、国内債券への回帰によって自国(海外)債券が売られ金利が上昇することを懸念していた。実際、こうした懸念を反映してか、前日は軒並み市場予想を上回った経済指標を背景に大きく上昇していた米10年債利回りが、日銀の観測報道が伝わったあたりからさらに急伸し、7月7日以来の4%乗せとなった。
このように、短期的には様々な所で世界的に資金フローの変化が起きる可能性がある。政策修正が小幅なものであれば波乱は小さいだろうが、変化幅が大きいか、あるいは将来の追加的な政策修正への思惑を高めるような結果となれば、こうした資金フローの変化は起こりやすいと考えられる。短期的には世界全体のマーケットの動向を注視する必要があろう。
ただ、今までの植田総裁の発言内容からして政策修正はかなり慎重に漸進的に進められるだろう。マイナス金利の修正などはさらに先のことと考えられ、依然として金融緩和的な姿勢を強調すると思われる。そのため、日経平均がここからさらに大きく崩れる可能性は低いのではないかと考えている。
仮に追加的な政策修正への思惑が高まり、市場の動揺が収まらない場合には、上述したような円キャリー取引の巻き戻しなど、資金フローの変化が起きることで一時的に為替の円高がさらに進むことが予想される。これは短期的には日本株への逆風となろう。一方、日米金利差は絶対的な水準でみれば依然として大きい。また、国内機関投資家の自国債券への回帰が起こって米国金利が上昇するケースも実現すれば、日米金利差は今の水準を維持するか、もしくはむしろ拡大する可能性もあるため、為替の円高の進展余地はさほど大きくはないとも考えられる。このため、いずれにしても日本株の調整は短期かつ軽微にとどまるのではないかと予想する。
個別については、目先は相場のボラティリティー(変動率)が高くなりやすいと考えられ、流動性リスクが大きい中小型株や新興株はやや厳しい局面が予想される。米経済のソフトランディング(軟着陸)期待や米ダウ平均の連騰劇を追い風に買われていた景気敏感株も、為替の円高余地が残されているなか、目先は手掛けづらさが意識されやすい。直近の半導体企業の決算はまちまちで、車載向けを除けば全体的に悪い内容が目立っているため、ハイテク株も買いづらいか。残るは消極的な観点から、景気や為替との連動性の低い内需系ディフェンシブセクターへの投資が一考に値しよう。
(仲村幸浩)
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