21日の米国市場でのNYダウは50.63ドル安と4日続落。中国恒大集団の経営問題への懸念がくすぶるなか、米連邦公開市場委員会(FOMC)結果公表を明日に控えた警戒感から、ダウは上昇して始まったが結局下落に転じた。テスラやアップルなどのハイテク株の一角には押し目買いが入り、ナスダック総合指数は0.22%高と3日ぶりに反発したが上げ幅は限定的となった。
まちまちな反応のうえ戻りが限られた米国市場の動きを受けて、本日の日経平均は94.98円安の29744.73円でスタート。前日の急落後とあって自律反発狙いの買いから下げ渋る場面も見られたが、祝日を前に様子見ムードも強く、前場中頃には265.83円安の29573.88円まで下押しした。その後、押し目買いから急速に下げ幅を縮小し、一時は28.39円高の29868.10円と上昇に転じる場面もあったが、祝日を前に利益確定売りも出て、前引けにかけては改めて下げ幅を3桁に拡げた。
個別では、前日同様に資源関連株や中国経済との結びつきが強い銘柄を中心に厳しい売りが続いており三井物産<8031>、丸紅<8002>、日立建機<6305>、ファナック<6954>、オークマ<6103>など、商社、建機、機械関連などの主力株で大きく下げている銘柄が多い。また、リスクオフの円買いによる対ドルでの円高進行を受けて日産自<7201>
やデンソー<6902>などの輸送用機器関連の一部も売られている。そのほか、レーザーテック<6920>や東エレク<8035>、アドバンテス<6857>などの半導体関連株もさえない。
一方、日本郵船<9101>や川崎汽船<9107>などの大手海運は押し目買いから反発。傘下の米地銀MUFGユニオンバンクの個人・中小企業部門を売却すると発表した三菱UFJ<8306>が大きく上昇しているほか、任天堂<7974>、ファーストリテ<9983>、第一三共<4568>なども買われている。業績予想や配当予想を上方修正したアイホン<6718>、オーケストラ<6533>はそれぞれ急伸し、第1四半期(6-8月)が2桁増益となった日本オラクル
<4716>などと並んで値上がり率上位に入っている。
セクターでは卸売業、機械、食料品などが下落率上位となっている一方、不動産業、海運業、鉱業などが上昇率上位に並んでいる。東証1部の値下がり銘柄は全体の78%、対して値上がり銘柄は17%となっている。
前日の660円安に続き、日経平均は本日も一時は3桁の値幅を伴った下落となっている。急速にクローズアップされてきた米中の不透明要因の存在が大きいのだろう。
中国恒大集団を巡る問題については、一部で中国版リーマンショックになるのではとの警戒する声がある一方、中国政府が何らかの形で手を差し伸べるとの見立てから、波乱には至らないとの見方が現状は支配的だ。しかし、中国恒大集団は、主力債権銀行少なくとも2行に対して20日期限の利払いを行わなかった。また、次に注目される支払い期限は23日とされており、前日に当たる今日この段階に至っても、まだ中国政府からはアクションがない。最終的には政府がどうにかしてくれるという楽観論に傾きすぎている市場の支配的なムードも含め、中国政府のだんまりにはやや不気味さを感じる。
最近、習近平政権は中国経済をけん引してきたテクノロジー企業などへの締め付けを強めているが、こうした背景には“共同富裕”という習政権が強く掲げている大きな目標がある。そして、この共同富裕を達成するにあたっては、格差拡大の大きな要因とされている不動産価格の上昇、これを是正することが喫緊の課題となっており、こうした動きが、今回の中国恒大集団の資金繰り悪化につながったとも指摘されている。
だとすれば、格差拡大の元凶の象徴のような存在にも見做されかねない中国恒大集団を果たして中国政府は救済してくれるのだろうか。もちろん、世界経済が混乱してショックが大きくならないよう、万が一の際には何かしらの形では出てくるかもしれないが、市場が思っている程までにそこまで優しく手を差し伸べてはくれないかもしれない。現状は、マーケットに大きなショックがもたらされる可能性は低いとみているが、中国政府が具体的に言動に出るなど、問題収束の兆しや全貌が見えてくるまでは、警戒感を強めておくに越したことはないだろう。
また、中国のことばかりがクローズアップされているが、米国にも注目すべき材料が目先豊富だ。まずは明日に結果公表を控えるFOMC。最新の米8月雇用統計の数値が予想外に悪かったこともあり、今回のFOMCでの量的緩和縮小(テーパリング)決定の可能性は一段と遠のいた。このため、波乱はないとの見方が主流だが、今回は政策金利見通し(ドットチャート)が公表されるため注目度は決して低くない。前回6月は参加者18人のうち7人が2022年中に利上げがあると見込み、3月時点の4人からかなり増えた。今回、22年の利上げを想定するメンバーが7人からどれだけ増えるかが注目されている。
サプライチェーン(供給網)の乱れなどを背景に世界的なインフレ懸念が根強くくすぶる一方、新型コロナウイルス変異株(デルタ株)の拡大を受けて足元では世界的な景気不透明感が強まっている。こうしたなか、22年内の利上げを支持するメンバーが想定以上に増えるとなると、景気減速懸念が一層強まり、インフレと景気減速が併存するスタグフレーションへの警戒感が高まりかねない。市場が神経質になっている最中、波乱要因となりかねないため、一時的な相場下押しに用心しておきたい。
テーパリング決定に加えて、22年内の利上げ支持者が増える可能性も低いとみている向きが多いようだが、その根拠とされている米消費者物価指数(CPI)の伸び鈍化の一方で、一部の乱高下した品目を除いて計算したクリーブランド連銀公表の「刈り込み平均」指数についてはまだ明確な鈍化の兆しが見られていない。“一時的”ではなく“恒常的”なインフレにつながりかねない住宅価格や帰属家賃の上昇も鈍化していない。米バイデン政権はガソリン価格や食品価格の高騰を受けて、価格を不正につり上げていないか各業界への監視を強める動きなどもみせている。こうした政権への配慮などから、22年内の利上げ支持者が予想以上に増える可能性などもテールリスクとして注意しておきたい。
さらに、米国の債務上限引き上げを巡る問題。財務省はデフォルト(債務不履行)
を回避するための特例措置が10月中に尽きる可能性を警告しており、債務上限の凍結は急務となっている。しかし、与野党の交渉はこう着状態にあり、解決の目途はたっていない。デフォルトなど誰にとっても最悪の事態でしかないため、過去の経験からみても最終的には解決するとは思われるが、こう着状態が無駄に長引くと、相場の売り口実とされかねないため、注意が必要だ。
8月30日以降、日経平均は目を見張る上昇っぷりを見せてきた。業績による裏付け、米国対比でのバリュエーション割安感など株高を根拠づける要因は多く、次期政権への期待に基づく先高観も依然根強い。中長期では良い買いだと私自身個人的にも思っている。ただ、上述した背景から、短期的には一段の下押しも想定されるため、米中の各種不透明要素に解消の兆しがみられるまでは、安易な押し目買いは控えた方がよいだろう。 <AK>
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