8月31日の米株式市場でダウ平均は280.44ドル安(-0.88%)と4日続落。8月ADP雇用統計が予想を下回る伸びにとどまったため、大幅利上げ観測が後退し、寄り付き後は一時上昇。しかし、クリーブランド連銀のメスター総裁が2023年の早い時期に政策金利を4%以上に引き上げるべきとタカ派姿勢を表明したことで長期金利が上昇すると、下落に転じた。ナスダック総合指数は-0.56%と4日続落。日経平均は294.53円安と大きく28000円を割り込んでスタート。エヌビディアやAMDに対して人工知能(AI)向け半導体の中国輸出を停止するよう米当局から通知があったとの報道を受け、時間外取引のナスダック100先物が下げ幅を広げるなか、ハイテク株を中心に売りが広がった。
香港ハンセン指数も下落する中、下値模索の展開が続き、一時27606.22円(485.31円安)まで下落した。
個別では、アドバンテスト<6857>、スクリン<7735>などの半導体関連株や、村田製<
6981>、イビデン<4062>、TDK<6762>などのハイテク株が全般大きく下落。ソニーG<6758>、ファーストリテ<9983>、ダイキン<6367>といった値がさ株も大幅安。景気後退懸念から三菱商事<8058>、丸紅<8002>の商社株や、郵船<9101>、川崎汽船<9107>の海運、住友鉱<5713>、DOWA<5714>の非鉄金属などが安い。三井金<5706>はレーティング格下げもあり大幅安。ACCESS<4813>は赤字決算が嫌気されて急落し、ラクーンHD<3031>は順調な第1四半期決算ながらも地合いの悪化から利益確定売りが優勢となり、急落。鋼材値上げの受け入れが伝わっているトヨタ自<7203>はEV電池生産への投資報道もあったが、コスト増への懸念から大幅安。
一方、鋼材値上げが好感されて日本製鉄<5401>が上昇。業績予想を上方修正した菱洋エレクトロ<8068>、ゲーム子会社の中国テンセント子会社などへの第三者割当増資実施が材料視されたKADOKAWA<9468>はそれぞれ急伸。レーティング格上げが観測された日本ゼオン<4205>も大幅高。積水ハウス<1928>は外資証券の目標株価引き上げを受けて急伸。円安進行を支援要因にスズキ<7269>、三菱自<7211>の自動車株の一角が堅調。第一三共<4568>、アステラス薬<4503>の医薬品、コナミG<9766>など景気動向に左右されにくいセクターの一角もしっかり。
セクターでは鉱業、海運、卸売を筆頭にほぼ全面安で、建設、鉄鋼の2業種のみが上昇。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体86%、対して値上がり銘柄は12%となっている。
日経平均は寄り付きから300円近い下落幅でギャップダウンでのスタート。その後も下げ幅を広げ、弱い動きが続いたが、27500円近辺に位置する200日移動平均線を手前に下げ止まっている。200日線の下には75日線、100日線が距離を詰めて並んでおり、これらを下回ってしまうと売りに拍車がかかりやすいため、注意が必要なタイミングだ。
前日、米10年債利回りは3.19%(+0.08pt)まで上昇。米クリーブランド連銀のメスター総裁が、インフレ沈静化のため、来年の早い時期までに政策金利を4%超の水準にまで引き上げ、当面高水準を維持する必要性を示し、2023年中の利下げはないとの見解を示した。経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演以降、FRBのタカ派シフトがより鮮明になり、市場のムードが一変していたが、今週に入ってからのFRB高官らの発言が拍車をかけている。
景気後退懸念が米長期金利を幾分低下させるとはいえ、来年からの利下げ転換期待が覆えされ、今月からは量的引き締め(QT)も2倍のスピードに引き上げられていく中、金利のじわり上昇圧力は否めないだろう。一方で、FRBがインフレ抑制への決意を改めて強調したことで、期待インフレ率の指標である米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は8月24日を直近高値に低下基調にある。これに伴い、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利は9月1日、0.71%(+0.15pt)と前の日から大幅に上昇した。
金利先物市場では、政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートについて、2023年の5月前後にはFRBが利下げに転じるとまだ予想している。今後の景気の減速ペース次第ではあるが、当面、高金利を維持すると主張しているFRBの姿勢と比して、まだ市場の織り込みは十分でないともみられる。FRBのインフレ抑制決意と景気後退懸念から期待インフレ率に低下圧力がかかりやすい一方、FRBのタカ派姿勢の織り込み余地から名目金利に上昇圧力がかかりやすいことを踏まえると、実質金利は今後も上昇しやすいだろう。実質金利の上昇を通じた株価収益率(PER)低下主導の下げ相場には注意したい。
後場の東京市場は軟調が続きそうだ。日経平均は200日線が位置する27500円が心理的な節目とも意識されるため、目先は売り一巡感が台頭しやすいが、明日の米8月雇用統計を前に積極的な買い戻しは期待しにくい。今晩の米8月サプライマネジメント協会
(ISM)製造業景況感指数を見極めたいとの思惑もあり、もみ合いが続きやすいだろう。
(仲村幸浩)
<AK>
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