前週末21日の米株式市場では、NYダウ平均は終日堅調推移となり、123.69ドル高(+0.36%)となった。中国政府が採掘取締りを改めて表明したことを背景に、暗号資産相場が再び急反落したことが重しとなったが、過去最高を記録した5月マークイット総合PMIや、バイデン政権によるインフラ計画進展による景気回復期待が下支えした。一方、暗号資産の急反落や住宅価格の上昇を受けたインフレ懸念の再燃を背景にナスダック総合指数は下落に転じ、0.47%安となっている。
まちまちの米株式市場の動きを受けた、週明けの日経平均は前週末比105.51円安の2
8212.32円でスタート。始値を安値にすぐに上昇に転じると、そのまま上値追いの動きとなり、一時は28584.18円まで上値を伸ばしたが、28500円前後では戻り待ちの売り圧力が強く、その後は急失速。上げ幅を大きく縮小し、結局、前週末終値とほぼ同水準で前場を終えている。
個別では、公募増資による新株発行を発表したすかいらーくHD<3197>や、暗号資産の荒い値動きから先行き不透明感が警戒されたマネックスグループ<8698>、5月の月次売上の減少が嫌気された西松屋チェーン<7545>、などが売られた。また、金融庁が子会社のSBIソーシャルレンディングに業務停止命令を出したとの報道を受けてSBI
<8473>が下落したほか、婚活アプリ「Omiai」での会員情報流出の可能性を発表したネットマーケティング<6175>はストップ安売り気配となっている。
一方、業績及び配当予想の上方修正や新規設備建設が手掛かりとなった大有機化<4187>が大幅高を演じた。4月の受注残高が好感されたマルマエ<6264>は一時5%超上昇し、4月の月次売上高が買い材料視されたミスミG<9962>も上昇した。
売買代金上位では、ソフトバンクグループ<9984>、任天堂<7974>、ソニーグループ<
6758>、東京エレクトロン<8035>、キーエンス<6861>、レーザーテック<6920>など、値がさハイテク株やグロース(成長)株が冴えない。一方、トヨタ<7203>、三菱UFJ<8306>、日本郵船<9101>などの景気循環株の値上がりが目立つほか、リクルートHD<6098>、日立製作所<6501>などが上昇している。
セクターでは、海運業、鉱業、空運業、銀行業、石油・石炭製品などが上昇率上位となった。一方、医薬品、情報・通信業、小売業、証券・商品先物取引業、精密機器が下落率上位に並んでいる。東証1部の値上がり銘柄は全体の62%、値下がり銘柄は33%となっている。
寄り付き直後に前週越えられなかった28500円の壁を超え、一時は250円以上も上値を伸ばした日経平均だったが、その後は急失速して、ほぼ前週末終値と同じ水準で前場を終えている。28500円を超えたことで売り方の買い戻しを誘発することも期待されたが、やはり、この水準では戻り待ちの売り圧力が大きいようだ。
今年に入ってからの日経平均の価格帯別累積売買高をみても、27000円~28000円の範囲内では商いが膨らんでおらず、真空地帯となっている一方、28500円処は、29500円や29000円に続いて商いが多い。明確な買い材料が出てこない限り、当面この水準では、一時的に28500円を上回ることができても、戻り待ち売り圧力から押し返されそうだ。
米長期金利の上昇が一服しているにもかかわらず、値がさハイテク株やグロース株の冴えない動きが続いているのも、気掛かりだ。「インフレ加速・長期金利上昇」を巡る市場の懸念はいったんは落ち着いたものの、警戒感は拭えないようだ。今週末には、米連邦準備制度理事会(FRB)が物価指標の中で最も重視しているPCEコアデフレーターの発表が控えていることも、背景にあるかもしれない。
一方、5月第2週(5/10~14)から前週にかけて相場はかなり荒れたことで、種々のショックに対する耐性も付いてきている様子。ビットコインをはじめとした暗号資産相場は、前週末に改めて急反落した後、24日未明まで下げ幅を拡げる動きが続いており、この先も、株式市場への影響などへの警戒は必要だろう。ただ、前週末の米株式市場では、暗号資産の急反落を受けてナスダックなどは下落に転じたものの、ハイテク株全般の下げ幅は限定的だった。ビットコイン価格との連動性の高い電気自動車大手のテスラも、1%安と、それまでの下落分が大きいこともあるが、下落率が軽微にとどまった。
そのほか、上述した根強いインフレ懸念についても、一旦は落ち着きを取り戻しているのは間違いない。前週に公表された4月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨は、一部のメンバーが将来的なテーパリング(量的緩和の縮小)議論の開始を示唆する内容だったが、それを受けて直後に1.7%近くまで上昇した米10年物国債利回りは、その後1.6%台前半にまで低下。上昇が続いていた米10年物ブレークイーブンインフレ率(期待インフレ率の指標)もようやく低下に転じてきている。
また、前週末には、米フィラデルフィア連銀のハーカー総裁が、債券購入プログラムの縮小に関する議論を早めに始めるべきだとの見解を示したが、その後も、米長期金利の動きに動揺は見られない。「インフレは一時的」とし、頑なに金融緩和の継続を強調する米連邦準備理事会(FRB)に市場はこれまで懐疑的だった分、インフレに柔軟に対処し得る姿勢をむしろポジティブに捉えているようだ。
実際、上値が重いのは確かだが、一方で、前週末の米株式市場がまちまちだったなか、今日の日経平均が一時28500円を上回るまでに上昇したことも興味深い。上述したように、暗号資産相場やインフレ、長期金利などを巡る懸念が一時後退したことや、FRBの柔軟な姿勢変化をポジティブに捉えていることが、売り方の買い戻しを一部誘っているのだろうか。
日経平均が3日間で2000円を超す急落を見せた5月第2週(10~14日)には、海外投資家は現物株・先物の合算で1兆円弱売り越し、そのうち6割ほどが将来的な買い戻しを伴う先物だった。しかし、前週の先物手口をみても、海外勢の売り方の買い戻しは一部のみで、ほとんど見られていない。残る売り方の買い戻しを誘い、日経平均が28500円を明確に突破し、その先の29000円、3万台を回復するには、ワクチン接種率の一段の進展など新たな材料が必要そうだ。
<AK>
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