23日の米株式市場でダウ平均は219.28ドル安(-0.64%)と5日続落。連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ観測の高まりを受けて売りが先行。欧米の6月製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値が市場予想を下回ったことで景気後退懸念が強まったことも重荷になった。金利は低下したがハイテクも売られ、ナスダック総合指数は-1.01%と反落。米株安を受けた日経平均は134.46円安からスタートすると、ロシア情勢の不透明感も背景に売りが先行し、寄り付き直後に388.82円安まで下げ幅を拡大。ただ、為替の円安進行や国内での半導体業界の再編を巡る材料を背景に個別株物色が活発となるなか、日経平均も急速に買い戻されてすぐにプラス転換した。一方、その後は戻り一服感から一進一退が続いた。
個別では、産業革新投資機構の買収が伝わったJSR<4185>がストップ高買い気配のままとなっており、本一件を受けた思惑から東応化<4186>、大有機化<4187>が急伸し、ほか、トリケミカル<4369>、ADEKA<4401>、フジミインコ<5384>、住友ベークライト<4203>など半導体部材関連の銘柄が軒並み高となっている。信越化<4063>、SUMCO<3436>、レゾナック<4004>、新光電工<6967>など時価総額の大きい関連株でも大幅高が目立つ。郵船<9101>、商船三井<9104>、川崎汽船<9107>の海運をはじめ、神戸製鋼所<5406>、INPEX<1605>、コマツ<6301>、安川電機<6506>、住友化学<4005>など景気敏感株の上昇も多い。
一方、ソシオネクスト<6526>、レーザーテック<6920>など半導体の一角が大きく下落。先週末に崩れた丸紅<8002>、三井物産<8031>などの商社株も冴えない。また、Appier<4180>、ラクス<3923>、オプティム<3694>、SREHD<2980>、ANYCOLOR<5032>のグロース株の下落率が全体的に大きく目立っている。
セクターで海運、化学、鉱業が上昇率上位に並んだ一方、電気・ガス、情報・通信、銀行が下落率上位に並んだ。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の54%、対して値下がり銘柄は42%となっている。
週末の間にロシア情勢の不透明感が一時にわかに強まった。国防省との確執を深めていた民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が24日、プーチン政権に対して武装反乱を起こした。首都モスクワに向けて部隊を進め、一時情勢は緊迫化した。しかし、プリゴジン氏は流血の事態回避に向けて緊張緩和策を講じることでプーチン大統領と合意し、その後ワグネルの部隊を撤収。結果的にプーチン政権に対する反乱はわずか一日で収束した。
反乱を起こしたプリゴジン氏は隣国ベラルーシに亡命した。ロシア大統領府は事態収拾に向けた取引の一環としてこの出国を認め、同氏とワグネル戦闘員に対する反乱罪での刑事訴追に向けた手続きについても、これを取り下げることをプーチン大統領が自ら保証したという。
今回の一件でロシア軍およびプーチン政権の弱体化が明らかになった。これがウクライナ戦争の早期終結につながれば何よりだが、実際のところ話はそう簡単でないだろう。一段と追い込まれたプーチン大統領が理性を失った暴挙に出るリスクなどが逆に増したともいえる。地政学リスクに関する先行き不透明感の強まりは今後の相場の重荷になりそうだ。
一方、週明けの東京株式市場では日経平均が寄り付き直後に一時400円近く下落したが、すぐに切り返してプラス圏に浮上するなど底堅い動きを見せている。地政学リスクを口実とした短期筋の売りが早々に買い戻されたもようだ。先週末にかけて需給悪化を想定した先回りの売りで日経平均は33000円を一気に割り込んでいた。これに続こうとした悪い流れを早々に断ち切ろうとする前場の底堅い動きは日本株の先高観が依然として根強いことを示唆しており、ポジティブな印象を受ける。
一方、月末にかけては年金基金のリバランス(資産配分の調整)目的の売りがまだ実際に発生する余地が残されている。また、今四半期における日本株の上昇率は記録的な大きさになっていることから、そのリバランス売りの規模の大きさも懸念され、目先は上値追いや押し目買いには慎重になるべきだろう。
さらに、ロシアのクーデターの一件でかき消された感があるが、実体経済の悪化も気がかりである。先週末に発表された欧米の6月製造業の購買担当者景気指数(PMI)
は揃って市場予想を下回った。米国6月製造業PMIは46.3へと5月(48.4)から大きく低下し、景況感の拡大・縮小の境界値である50を大きく割り込んだ。ほぼ横ばいを見込んでいた市場予想(48.5)も大幅に下回っている。また、欧州の6月製造業PMIも43.6へと5月(44.8)から低下、こちらも横ばいを見込んでいた予想(44.8)を下振れた。
また、サービス業についても、欧州は6月が52.4と5月(55.1)から大幅に低下し、予想(54.5)を大きく下振れている。米国は54.1と予想(54.0)にほぼ一致したが、こちらも5月(54.9)からは低下した。サービス業はどちらも50超えが続いているが、両国ともに製造業の悪化の印象を打ち消せるほどの内容とは言いにくい。
先週はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、市場予想が織り込んでいる回数よりも多い、年内2回の追加利上げを再表明したほか、英イングランド銀行(中央銀行)とノルウェー中銀が0.5ポイントの大幅利上げに踏み切るなど、改めて世界的な金融引き締め長期化に対する懸念が強まった。一方で、今回の欧米PMIの結果のように、グローバルな景況感の悪化も続いている。経済減速下での利上げ長期化は高い確率で景気後退を深刻化させると思われ、今後の株式市場の展開には注意しておくべきだろう。
先週は物色の裾野が中小型株・新興株に広がっていることを指摘し、ポジティブに評価していたが、週明けのマザーズ指数は大きく続落している。地合いが悪化するなか、流動性リスクが意識される新興株が敬遠されている可能性がある。また、今週は新規株式公開(IPO)が多いため、IPOに備えた資金確保の動きも重荷になっていそうだ。今後1、2週間については、需給イベントの影響が想定されるハイテク・景気敏感の主力株および投資家心理の悪化が重荷となりやすい新興株には慎重なスタンスで臨む一方、ディフェンシブ銘柄への投資妙味が相対的に高いと考える。
(仲村幸浩)
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