―アフターコロナ世界でDX推進の“陰の主役”に、シンギュラリティーの前哨戦始まる―
11月相場で日経平均は記録的な上昇パフォーマンスを演じた。その余勢を駆って12月に入ってからも強さをみせた東京市場だったが、週末4日の日経平均は目先上昇一服となった。これは新型コロナワクチン開発に対する過度な期待の剥落が要因として挙げられるが、株価調整の口実に使われた意味合いが強い。今の世界株高はワクチン普及への期待でバブル化しているのかといえば、それは明らかに本質から外れた解釈である。
●怒涛の“上げ潮相場”の正体
現在、繰り広げられている怒涛の上げ潮相場の正体は、新型コロナウイルスによる経済の凍結を防ぐために、各国の中央銀行や政府がなりふり構わずに行った過剰流動性の創出によるものだ。その終着点はまだ見えないが、ワクチンが現実に普及局面に入れば、それはプライマリーバランスを度外視して経済を支えることのみを念頭に置いた従前の政策転換を示唆する。逆説的になるが、新型コロナを克服するために待ち望まれているワクチン実用化は、株式市場にとって、建前である「期待」からカネ余り相場の終焉に対する「不安」に変わる時間軸がどこかで訪れることになる。
しかし、新型コロナ収束後も、成長産業を追い求める資金が株式市場に流れ込むという構図は変わらない。アフターコロナの世界はコロナ禍で苦境に立たされる前の景色とは明らかに違うものとなる。世界に脅威を与えた新型コロナは、その底流においてこれまでの産業構造を革命的なインパクトで変化させる契機となった可能性が高い。その答えはデジタル社会の加速的な進展である。新型コロナが強制した人的接触を避けるというコンセプトが、埋もれていたハイスペックな社会の潜在能力を引き出す格好となった。
●静かに始まったコロナ勝ち組リバイバル
現在の株式市場では、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)あるいは次世代電池といった地球環境保全の観点から派生したテーマ買いの動きが佳境に入っているが、それとは別に、目立たないながらもう一つの強力な物色の波が生じている。コロナ禍の初期に買われたクラウドを使ったITソリューションやサービスを展開する企業、例えばテレワークやオンライン教育、オンライン医療などを主力とする企業の株価がここにきて再び買われ始めている。くしくも新型コロナの感染拡大防止の点から、社会のデジタルシフトが後押しされた形だが、日本では現金給付の遅れなどでアナログ行政の弱点も晒されることになり、これが菅政権下でデジタル庁の創設や脱ハンコ社会への取り組みにつながっている。官民を挙げてのデジタルトランスフォーメーション(DX)劇場の幕開けである。
そして、中期的にDX推進のカギを握るのは何かといえばそれは人工知能(AI)である。株式市場でも早晩その存在が意識されることになるだろう。AIは水のようにさまざまに形を変えてあらゆる産業に浸透し、時に融合してイノベーションの原動力となる。ビッグデータ の普及やIoT社会が発展を遂げるなかで、自動運転車やドローンなどの新たに立ち上がってきた次世代産業だけでなく、金融、不動産、流通、医療、食品など、既存のトラディショナルな産業においても付加価値やサービスを生む強力な技術基盤としてAIの導入が進んでいくことになる。
●「米中AI戦争」勃発で世界の一大テーマに
2045年にはAIが人間の英知を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)に到達するとされるが、我々が思っている以上にその現実は近そうだ。そして、シンギュラリティーの“近未来図”がアフターコロナの世界で株式市場に改めて投影される可能性が高まっている。
世界でもAIを巡る覇権争いが水面下で活発化している。足もと米中摩擦が再び先鋭化する気配を漂わせているが、その底流にはAI覇権が絡んでいるといっても過言ではない。AI大国として一頭地を抜いていた米国の地位が中国におびやかされているからだ。両国の研究開発競争が進むなかで、AIの進化を支えるディープラーニングの特許申請件数(年間)は中国が米国の実に7倍以上に達しているという。これを米国が脅威に感じないはずはない。
5Gの普及が引き金となってAIの利活用も急速に広がってきた。米国ではIBMを筆頭にマイクロソフト、グーグル、インテル、エヌビディアなどAI分野の巨人がひしめくが、中国は国家を挙げて同分野に重心を乗せている。データエコノミーの勢力図ではもはや中国が米国を大きく抜き去っている状況にあり、その差は年々開くばかりだ。ファーウェイ問題などもこうした事情が絡んでいる。
●AI関連の選りすぐり5銘柄をロックオン
現在株式市場ではAI関連に位置づけられる銘柄は休火山状態に置かれている銘柄が多いが、早晩随所で火を噴く局面が見られるようになるだろう。
関連銘柄をいくつか挙げると、ディープラーニングや言語解析などのAIアルゴリズム機能を開発・提供するPKSHA Technology <3993> [東証M]、ディープラーニングを活用したシーン認識技術を手掛け、自動運転分野の開発にも取り組むモルフォ <3653> [東証M]、将棋AIの開発を起点に技術を蓄積するHEROZ <4382> 、AIを活用したハイクオリティーな自動翻訳ソフトを開発・販売するロゼッタ <6182> [東証M]、機械学習によるデータ分析を展開するYE DIGITAL <2354> [東証2]、AIを活用した音声認識エンジンで可能性を広げるアドバンスト・メディア <3773> [東証M]、AIを活用したリーガルテック事業を主力とし、ライフサイエンスAI分野でも実力を発揮するFRONTEO <2158> [東証M]、ネットセキュリティーのスペシャリストでAI型画像認識システムを幅広く展開するイー・ガーディアン <6050> 、ビッグデータ解析ツールやAI活用の業務支援ツールを開発するユーザーローカル <3984> などがある。
今回の特集では、そうしたAI関連株のなかから、足もとの業績ではなくビジネスモデルからみた中期成長力やキャパシティーに重点を置いて、とりわけ上値が期待できそうな有力株を5銘柄選りすぐった。
【ALBERTはデータサイエンス分野で輝く】
ALBERT <3906> [東証M]は11月2日に5800円近辺で目先の底値を確認し、以降は下値をじりじりと切り上げている。75日移動平均線超えから中期上昇トレンドへの転換に期待が募る。ビッグデータ解析や自動運転分野などAI絡みの開発案件で高い実績を有し、トヨタ自動車 <7203> をはじめとした大資本企業との相次ぐ連携で実力は証明済みだ。安倍前政権から引き継がれるスーパーシティー構想でも同社は活躍余地が大きい。また、DX時代を迎え、人材が払底しているデータサイエンティストの育成で先駆しており、その強みを今後もいかんなく発揮しそうだ。そうしたなか同社は、ディープラーニングをはじめとした高度な専門知識やノウハウを持つリサーチャーが、多様化するテクノロジーや経営課題に即した実務支援を行う「研究開発支援サービス」を、新たに企業全般を対象に提供している。20年12月期営業利益は前期比53%増の2億9000万円と大幅な伸びを見込む。
【サイバネットはCAEソフトで新境地開拓】
サイバネットシステム <4312> の900円台後半のもみ合いは4ケタ大台を前に仕込み場を提供している。同社株にとって4ケタ大台ラインは滞留出来高が多く強力なフシ目として意識されてきたが、ここを上抜けば一気に視界が開ける。早晩そのタイミングが訪れそうだ。同社は電子回路や音響・熱などを解析する設計用CAEソフトのライセンス販売を主力としている。世界的なEVシフトや自動車次世代技術の新潮流である「CASE」で同社が手掛けるCAEソフトの新境地開拓が見込まれる状況にある。また、コロナ禍でテレワーク対応のクラウド製品を含むセキュリティーソリューションが伸びている。AI分野の展開力も特筆され、大腸内視鏡向けのAI診断システムを昭和大学、名古屋大学と共同開発している点は注目(オリンパス <7733> が販売)。また、直近ではAIチャットボットを導入したCAE技術サポートサービスの提供を開始した。20年12月期営業利益は前期比2%増の20億6000万円を計画するが大幅増額が濃厚だ。
【JIGSAWは米国IT大手との提携で飛躍】
JIG-SAW <3914> [東証M]の目先調整局面は次の上昇ステージに向けた踊り場で、25日移動平均線近辺は買いの好機となっている可能性が高い。自社開発のソフトでネット環境の自動監視・制御を行っており、自動制御プラットフォームの導入料金と月額で支払われるサービス使用料金などを主力としている。IoT分野を深耕しており、従来のIoTのコンセプトに加えて「生物・細胞」がネットとつながるIoEや、人間がネットとつながり能力が強化されるIoAを経営理念に採り入れている。米国法人のJIG-SAW USの展開力が、株価が高評価される背景にあり、今年7月には米グーグルとパートナーシップ契約を締結し10月には米オラクルとパートナー提携するなど、ワールドクラスのIoT関連株としてのポジションを固めている。業績も14年12月期から高成長路線をひた走っており、特にトップラインの伸びが著しい。19年12月期は24%増収を達成、20年12月期も会社側非開示ながら大幅増収が有力視される。
【シグマクシスはデジタルコンサルで活躍期待】
シグマクシス <6088> は11月末に1670円の戻り高値をつけた後ひと押し入れて上値追いを再開、目先の押し目は買い向かって報われそうだ。同社は戦略立案から開発・実行までワンストップ対応を強みとする経営コンサルティング会社で、AIやRPAで実績が高い。20年4-9月期は営業38%減益と落ち込んだが、これは新型コロナの影響が直撃した航空業界向けコンサルなどが大きく足を引っ張ったもの。得意とするERPクラウド化コンサルはコロナ禍でも順調な伸びを確保している。来期以降、今後数年間にわたり、デジタル関連ビジネスコンサル市場は企業のDX推進の動きを背景に年率20~30%程度の高い成長が想定され、同社の活躍余地は極めて大きなものとなる。最新テクノロジーを駆使して食を取り巻く次世代型商品やサービスを生み出すフードテックプロジェクトに取り組んでおり、株式市場でも同関連の有力株として頭角を現す公算が大きい。
【ブレインPは大手とのDX推進で実力発揮へ】
ブレインパッド <3655> は4000円台前半のもみ合いを経て上放れが近そうだ。日足一目均衡表の雲を抜けた矢先にあるほか、中期的にも13週・26週移動平均線のゴールデンクロスが目前に迫っていることで妙味は大きそうだ。AIを活用した企業向けビッグデータ分析などアナリティクス事業を軸に、ソリューション事業やマーケティングプラットフォーム事業も展開。21年6月期は人件費が重荷となって大幅減益見通しにあるが、今期の業績悪については株価への織り込みが進み、資本提携戦略による同社のAI分野のノウハウが開花することへの期待感が高まっている。直近では11月19日に伊藤忠商事 <8001> との資本・業務提携を発表しており、これがマーケットの注目を誘った。伊藤忠は全国展開するコンビニ大手のファミリーマートを傘下に置いているだけに、ブレインPにとってもDX分野における潜在的な実力が引き出されるチャンスとなり得る。
株探ニュース
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