S&P500月例レポート(23年3月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2023年2月
個人的見解:市場は0.25%ずつさらに3回の追加利上げを織り込んでいるが、0.50%の利上げも懸念される
2月の市場は、「取り残されることへの恐怖(fear of missing out:FOMO)」に駆られた最後の投資家が押し上げたことで、1月末時点の年初来6.18%高の水準からさらに2.53%上昇してスタートしました。各種の市場レポートでは引き続き、インフレの減速が示されましたが、市場ではインフレ率の低下に時間がかかることと、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ目標と実際のインフレ率との乖離に焦点が移り始めました。金利をより高水準に、より長期にわたって維持する必要性を示唆するデータが発表されるにつれて、株価は月初の上昇を維持することができませんでした。
転機は2月21日に訪れたようです。ホームセンター大手のホーム・デポ
経済見通しの引き下げ、インフレ率低下の減速、ならびに米連邦公開市場委員会(FOMC)が少なくともあと3回(3月、5月、6月)は利上げを継続する可能性が高まったとの認識を受け、市場の懸念は高まる一方となりました。3月21-22日の次回のFOMCにおける0.25%の利上げが予想されていますが(先物市場が示唆する確率は77%、1ヵ月前は85%)、利上げ幅が0.50%となる可能性もあります(同23%、1ヵ月前はほぼゼロ)。
株価は下落し、2月の市場は1月末から下落して終わりました(出来高も低調でした)。一方で、金利は上昇し、米国1年債利回りは5%を上回り、あらゆる資産クラスの中で最も高い利回りとなりました。最終的に、S&P500指数は月間で2.61%の下落、年初来では3.40%の上昇、2022年1月3日に付けた終値での最高値からは17.23%の下落で2月を終えました。
企業業績に関しては、時価総額で97%に相当する企業が2022年第4四半期の決算発表を終え、決算シーズンは終わりつつあり、市場の話題は第4四半期から2023年第1四半期に移っています。2022年第4四半期の営業利益は前期比1.7%減、前年同期比12.7%減となる見通しです。売上高は前期比2.8%増、前年同期比8.4%増となり、過去最高を更新する見通しです。企業は2022年第4四半期にコスト増の大部分を価格に転嫁することができたようですが、2023年第1四半期にそうした動きはもはや見られません。第1四半期の利益見通しは下方修正されており、現時点では2022年末時点の予想から5.4%引き下げられて前期比2.0%増が見込まれていますが、前期比でマイナスになる可能性も十分にあります。2023年下半期の利益見通しは据え置かれています。
現在、利益(およびキャッシュフロー)以上に重視されているのは3月21-22日のFOMC会合であり、それまでに多くの経済指標が発表される予定です。3月10日には雇用統計が発表され、前月の非農業部門就業者数の51万7000人増が下方修正されるとの見方が強まっています。
過去の実績を見ると、2月は53.2%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.45%、全体の平均騰落率は0.09%の下落となっています。2023年2月のS&P500指数は、2.61%の下落となりました。
3月は61.8%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.44%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.54%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2023年は3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日となっています。
S&P500指数は2月に2.61%下落して3970.15で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.44%)。1月は4076.60で終え、6.18%の上昇(同プラス6.28%)、12月は3839.50で終え、5.90%の下落(同マイナス5.76%)でした。年初来では3.40%の上昇(同プラス3.69%)、過去3ヵ月では2.69%下落(同マイナス2.28%)、過去1年では9.23%下落(同マイナス7.69%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)、2020年は16.26%の上昇(同プラス18.40%)、2019年は28.88%の上昇(同プラス31.49%)、2018年は6.24%の下落(同マイナス4.38%)でした。2022年1月3日の最高値からは17.23%の下落(同マイナス15.63%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは17.25%上昇(同プラス23.14%)でした。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、2月に4.19%下落して3万2656.70ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス3.94%)。1月は3万4086.04ドルで終え、2.83%の上昇(同プラス2.93%)、12月は3万3203.93ドルで終え、4.17%の下落(同マイナス4.09%)でした。2022年1月4日の最高値(3万6799.65ドル)からは8.08%下落しました。年初来では1.48%の下落(同マイナス1.13%)、過去3ヵ月では5.59%下落(同マイナス5.18%)、過去1年では3.65%下落(同マイナス1.59%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。
主なポイント
○2月の市場にバレンタインの華やぎはなく、今後の展開が分からないまま進むブラインドデートのような様相となりました。具体的には、市場はインフレ率の低下ペースに関する予想を見直し、FOMCが利上げを継続する必要性(および0.50%の利上げの可能性)と、高金利が長期化する可能性を織り込み始めました。S&P500指数は2月に2.61%下落しました。1月は6.18%の大幅上昇(1月としては4年ぶりの上昇でした)、2022年12月は5.90%の大幅下落で、11月は5.38%上昇でした。これにより、過去3ヵ月では、やはり精彩を欠く2.69%下落、年初来では3.40%上昇となりました。ちなみに、2022年は19.44%下落、2021年は26.89%上昇、2020年は16.26%上昇でした。
⇒2月は乱高下が続き、11セクターのうち上昇したのは1セクターだけでした(1月は8セクターが上昇、12月は11セクターすべてが下落、11月は11セクターすべてが上昇)。騰落率が最高(そして唯一の上昇)となったのは情報技術で0.29%上昇し、年初来では9.58%上昇、2021年末の終値からは22.10%下落となりました(2022年に28.91%下落)。騰落率の最低はエネルギーで7.61%下落し、年初来では5.11%下落、2021年末の終値からは50.95%上昇となりました(2022年に59.05%上昇)。
⇒2月は値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回りました。値上がり銘柄数は113銘柄(1月は395銘柄)で、そのうち10%以上上昇した銘柄は11銘柄(同179銘柄)、20%以上上昇した銘柄数は1銘柄(同43銘柄)でした。値下がり銘柄数は390銘柄(同107銘柄)で、そのうち10%以上下落した銘柄は56銘柄(同6銘柄)、20%以上下落した銘柄数は4銘柄(同0銘柄)でした。年初来では、依然として値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回っており、297銘柄が値上がり(20%以上上昇は41銘柄)、205銘柄が値下がり(20%以上下落は5銘柄)しています。
⇒2022年通年では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回りました。値上がり銘柄数は139銘柄(10%以上上昇は93銘柄、20%以上上昇は53銘柄)、値下がり銘柄数は363銘柄(10%以上下落は283銘柄、20%以上下落は204銘柄)でした。また、2022年は11セクターのうち10セクターが下落しました(エネルギーが59.05%上昇した一方で、コミュニケーションサービスは40.42%下落し、騰落率の差は99%ポイントとなりました)。
⇒市場全体で見ると、S&P500指数の時価総額は2月に8910億ドル減少して33兆2230億ドルとなりました(年初来では1兆900億ドル増)。2022年通年では8兆2240億ドル減少しましたが、コロナ危機前の最高値を記録した2020年2月19日との比較では5兆1590億ドル増加しています。
○人員削減計画の発表が続いています。パソコン・メーカー大手デル・テクノロジーズ
○(時価総額で97.1%に相当する)480銘柄が2022年第4四半期の決算発表を終えました。そのうちの323銘柄(67.3%)で営業利益が予想を上回り、476銘柄中311銘柄(65.3%)で売上高が予想を上回りました。売上高は四半期ベースで過去最高を更新する見通しです。
⇒2022年第4四半期の営業利益は前期比1.7%減、前年同期比では12.7%減となる見通しです。売上高は過去最高を記録した前期(第3四半期)から2.8%増、前年同期比では8.4%増が見込まれ、過去最高を更新する見通しです。
⇒2022年第4四半期の営業利益率は第3四半期の11.28%から低下して10.80%となる見通しです(1993年以降の平均は8.29%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。
○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の2月の平均値は1.31%となり、1月の1.45%から低下しました(12月は1.61%)。年初来では1.38%となりました。また、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは1月末の3.50%から3.93%に上昇して月末を迎えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは1月末の3.63%から3.92%に上昇して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは1月末の1ポンド=1.2322ドルから1.2029ドルに下落し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは1月末の1ユーロ=1.0868ドルから1.0577ドルに下落しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は1月末の1ドル=130.13円から136.15円に下落し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は1月末の1ドル=6.7547元から6.9334元に下落しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○2月末の原油価格は2.8%下落し、1月末の1バレル=79.08ドルから同76.85ドルとなりました(2022年末は同79.35ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は2月に3.8%下落しました(2月末は1ガロン=3.457ドル、1月末は同3.594ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は58.7%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は50.3%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。
⇒2023年1月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、55%が原油(2022年12月の58%から下落)、15%が連邦税および州税(2022年12月は16%)、10%が販売・マーケティング費(同18%)、そして20%が精製コストおよび利益(同9%)となっています。
○金価格は1月末の1トロイオンス=1943.60ドルから下落し1834.20ドルで1月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は1月末の19.40から20.70に上昇して2月を終えました。月中の最高は23.63、最低は17.06でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。
⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
新型コロナウイルスとサル痘
○新型コロナウイルス関連データ:
⇒新型コロナウイルスによる世界全体の累計死者数は、687万人となりました(1月末時点は682万人)。
○米国は現時点で:
⇒新型コロナウイルスの累計感染者数は、1月の1億200万人から増加して1億300万人となりました。
⇒米国の新型コロナウイルスによる累計死者数は112万人となりました(1月は110万8000人)。
⇒新規感染者数の7日間平均は1月末時点で3万4036人となり、1月末時点の4万6204人から減少しました。新規感染者数の7日間平均は2022年1月11日に141万7493人に達しました。また、死者数の7日間平均は327人に減少しました(1月末時点は521人)。
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