―インバウンド関連に脚光、25年大阪・関西万博で成長ロード快走へ―
10日から外国人観光客の受け入れが再開されるが、これを先取りした形で インバウンド関連株に注目が集まっている。旅行関連をはじめ幅広く物色されており、リオープン(経済再開)に向けた動きを後押しする。コロナ禍で海外から揶揄された“鎖国政策”だが、日本政府が開国に舵を切ったことで、インバウンド需要復活が消費を喚起するという見方だ。訪日客復活に加え、グローバルな経済活動の再開は、「翻訳ビジネス」にとっても追い風となる。先陣を切るさまざまなインバウンド関連株を横目に、出遅れ感も指摘される翻訳・通訳関連株のいまを追った。
●1日2万人に引き上げ
コロナ禍により消失したインバウンド需要が戻ってくる。政府は、1日に入国者数の上限を今までの2倍となる1日2万人に引き上げた。更に、停止していた外国人観光客の受け入れを、10日から約2年ぶりに再開する。添乗員つきのパッケージツアーに限定されるが、段階的に水際措置が緩和されるなか、株式市場でもこれをハヤす形で、さまざまなインバウンド関連株に物色の矛先が向かっている。また、7月には3万人に引き上げる案などが出ているとも伝わっており、インバウンド消費の拡大思惑が加速しそうだ。
インバウンド需要の復活は、翻訳ビジネスにとっても朗報といえる。加えて、グローバルな経済活動の再開は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によりオンラインでの開催を余儀なくされていた国際会議やイベントなどのリアルでの実施につながるだけに、翻訳・通訳関連株はまさに水を得た魚となる。対面での通訳業務はもちろん、医薬・化学・IT・法務・金融などさまざまな専門用語の翻訳、そしてポケトークに代表される機械翻訳(通訳)からシステムの開発まで、翻訳ビジネスのすそ野は広い。
●オンライン+リアルで成長加速へ
翻訳ビジネスに関わる企業に話を聞くと「新型コロナの感染は収束していないだけに若干の不安は残るが、ビジネスでの往来も増え本格的な国際会議なども徐々に再開するとみている。ようやく、ここまで来たかという気持ちだ」と話す。また「2025年の大阪万博はビジネスチャンスと捉えており、ここに向けても需要を獲得したい」(同)と期待を寄せた。同社によると、昨年開催された東京五輪でも、打ち合わせなどを中心に特に開催1年前あたりからニーズが拡大したという。大阪・関西万博開催まで3年を切るなか、「万博関連」の一角としても翻訳・通訳関連株の注目度が増しそうだ。
通訳業務については、回復色を強めると同時に成長ロードにいち早く復帰するものも少なくはない。背景には、コロナ禍により世界的に人流がストップした状況で、オンライン形式での国際会議やセミナーなどが定着したことがある。今後は、従来のリアルでのビッグイベント開催に加え、もはや日常となったオンライン会議・セミナーの2本柱が業績拡大を後押しすることになりそうだ。
●宝&COは「リアル再開」に期待感
TAKARA & COMPANY <7921> [東証P]は、有価証券報告書の作成が主力でディスクロージャー大手だが、グループ会社に通訳・翻訳事業を展開するサイマル・インターナショナルを擁し稼ぎ頭の一つとなっている。COP26、G7サミットなど実績も豊富で、海外との対面交渉など通訳機会の回復が見込まれるなか活躍期待が高まる。
3月末に発表した、宝&COの22年5月期第3四半期累計の連結営業利益は、前年同期比67.8%増の24億700万円で着地。通期計画28億円(前の期比3.4%増)に対する進捗率は86%となった。セグメント利益では、ディスクロージャー関連事業が18億3800万円(前年同期比30.5%増)、通訳・翻訳事業は1億3200万円(前年同期は4億4500万円の損失)となった。同社では「翻訳事業は新型コロナの影響はほぼなかったといえる。通訳事業に関しては、コロナ禍前の8割程度まで回復してきた。国際的な通訳機会はオンライン形式での回復を強めているが、今後リアルでの大型シンポジウムなどが回復してくることに期待している」(広報)と話す。株価は下値模索の展開が続くが、事業環境改善を背景に、そろり見直し機運も。
●ソースネクス、「ポケトーク」で準備良し!
ソースネクスト <4344> [東証P]は、グループ会社のポケトークがAI通訳機「ポケトーク」を手掛けており、投資家からの熱い視線を集めてきた。まさにインバウンド関連の主役級ともいえる存在だ。17年9月には115円近辺だった株価が、18年の10月には773円まで買われ、おおよそ1年で7倍弱になるという大変貌ぶりを見せたことは記憶に新しい。しかし、新型コロナの感染拡大によりインバウンド需要が剥落したことで株価も急落し、オミクロン株の感染が広がった今年2月には142円まで売られている。しかし、ここにきては訪日客受け入れ再開期待を追い風に5月中旬から上げ足を速めて、現在は260円水準まで値を戻してきた。
5月26日には、AI通訳アプリ「ポケトーク」を全ユーザーに提供開始すると発表し、身近なスマートフォンでも使用できるようにした。今月1日には、AI通訳機「POCKETALK(ポケトーク) W」250台を関西国際空港に寄贈することを発表。外国人観光客の入国再開と大阪・関西万博開催をにらんだもので、インバウンド需要復活への準備を着々と進めている。22年3月期の連結最終損益は35億200万円の赤字に転落、続く23年3月期は9億9500万円の赤字に赤字幅が縮小する見通しだ。開催まで3年を切った万博を控えるなか、復活への道程はいま始まったばかりといえそうだ。
●ビジョン、事業環境回復で恩恵享受へ
旅行者向けWiFiレンタル事業を手掛け、前述のポケトークなど翻訳機のレンタルも行うビジョン <9416> [東証P]にとっても、訪日客に加え海外渡航者の増加はこの上ない追い風だ。22年12月期第1四半期の連結営業利益は前年同期比41.3%増の4億300万円に伸び、上期計画4億8800万円に対する進捗率は82.6%に達した。なお、22年12月期は前期比27.4%増の14億700万円を計画している。株価は、1月27日に905円まで売られ底値を確認した後は上昇気流に乗り、入国者数の上限が1日2万人となった今月1日には、一時前日比73円高の1407円まで買われ年初来高値を更新した。現在は上昇一服、1300円近辺で頑強展開となっているが、本格回復はこれからだけに目が離せない。
●翻訳センター、4期ぶりの過去最高益更新へ
産業翻訳大手で通訳事業も展開する翻訳センター <2483> [東証S]の業績も回復基調を強めている。5月12日に発表した22年3月期の連結営業利益は前の期比94.0%増の8億1100万円に拡大し、続く23年3月期は前期比12.1%増の9億1000万円を計画。4期ぶりに過去最高益を更新する見通しだ。翻訳業務では、医薬、特許、工業・ローカライゼーション、金融・法務といった4つの専門分野で付加価値の高いサービスを提供。12年にはアイ・エス・エスを買収、通訳事業への本格進出を果たした。翻訳センターの株価は、16年2月には1400円近辺だったが、インバウンド関連の一角として東京五輪開幕を目指すかのように上昇、18年10月には3300円台まで買われた経緯がある。現在は、まさに往って来いの1400円水準で上値の重い展開が続く。商い薄は気になるが、同社は大阪に本社を置くだけに、万博関連の一角として開催が迫るにつれて思惑が高まる可能性もありそうだ。
●インバウT、メタリアルなどにも活躍期待
インバウンドテック <7031> [東証G]は、24時間365日対応の自社コールセンターによる多言語・通訳総合ソリューションを展開する。店舗などで電話を介してオペレーターが通訳を行う「電話通訳」をはじめ、タブレット端末などから人工知能(AI)による音声翻訳もしくはオペレーターの有人通訳を状況に合わせて使い分けることができるハイブリッド通訳サービス、医療機関向けの総合多言語ソリューションなどきめの細かいサービスを提供している。23年3月期の連結営業利益は前期比4.6%減の2億7800万円を予想するが、今後訪日客の増加が見込まれるなか多言語でのサポート需要の回復が期待される。
そのほかでは、昨年9月にロゼッタから社名変更したメタリアル <6182> [東証G]もグローバルビジネス再開を背景に妙味がありそうだ。同社は産業・ビジネス分野でAI 自動翻訳ツール「T-4OO」を中心に、さまざまな翻訳サービスを提供している。T-4OOは、医薬・化学・機械・IT・法務・金融などの2000の専門分野を、「最大95%=プロ翻訳者に匹敵する正確さ」で自動翻訳する。
テリロジー <3356> [東証S]は子会社が、4月に災害時の避難所における在留外国人とのコミュニケーションの課題を解決する「みえる通訳避難所支援プラン」、5月にも外国人児童生徒や保護者と教職員のコミュニケーションを映像通訳でサポートする「みえる通訳スクールパック」の提供を開始した。再び国際間の人的交流が活発化することが予想されるなか、活躍領域を広げている。また、投信関連の印刷・配送が主力で、翻訳、通訳サービスを行う子会社のアイコスを擁するアイフィスジャパン <7833> [東証S]にも目を配っておきたい。
株探ニュース
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