―“トヨタ効果”がEV周辺株に新旋風、超割安グロース株でバリュースマッシュ―
トヨタ自動車 <7203> の新たな電動化戦略が話題を呼んでいる。既に電動車の範疇に含まれるハイブリッド車(HV)でトヨタは世界でも圧倒的な競争力を誇るのだが、欧州や中国の電気自動車(EV)シフトが想定以上に急で、これに合わせ経営戦略の練り直しを行った。そして、その中身にマーケットは目を見張ることになる。2030年までのEVの世界販売台数を、200万台としていた従来目標から350万台へ8割近くも引き上げた。更に2次電池を含めたEVへの投資額を4兆円としたことで、株式市場でもにわかにその関連銘柄が色めき立った。代表的なセクターはバリュー株の宝庫でもある自動車部材・部品関連セクターである。今回のトップ特集では、歴史的な株価変貌の序章にある自動車周辺の有望株にスポットを当てた。
●FRBタカ派豹変で変わるマネーの潮流
東京株式市場は新年早々悩ましい局面に遭遇している。22年相場の大発会となった4日こそ日経平均が500円超の上昇で幸先良いスタートを切ったが、その後は米国発のリスクオフの荒波に呑まれる形で波乱展開を余儀なくされ、6日には844円安の急落に見舞われた。新型コロナウイルス変異株の感染拡大が経済活動に与える影響が懸念される一方、コモディティ価格の高騰やサプライチェーン問題の影響でインフレ警戒が高まるという難局にマーケットは直面している。世界的な金融緩和政策の終焉を裏付けるかのように、FRBがタカ派姿勢を急速に強めており、これまで株式市場を支えていた過剰流動性に対する鉄壁の信頼が揺らいでいる。
22年相場は米国を中心に金利上昇と対峙しながら不安定な地合いを強いられそうだが、その際にハイテク系グロース株には向かい風が強まることになる。政策金利の段階的な引き上げ、あるいはFRBのバランスシート縮小が現実にスタートすると、機関投資家からは成長期待で組み入れてきた高PER銘柄のポジションを落とす動きが顕在化する。グロース株が売られると全体相場は従来のような上昇トレンドを維持しにくくなるが、もちろん、投資マネーは株式市場からすべて流出するようなことはなく、PERやPBRの低いバリュー株へ乗り換える動きが生じる。これがいわゆるバリュー株シフトであり、個人投資家もこの流れを意識しながらの銘柄選別が重要性を増すことになる。
●自動車部品は「超」のつくバリュー株の宝庫
昨年来、自動車部品株の一角に太い資金の流れが形成されている。PER・PBR、あるいは配当利回りといったトラディショナルな投資指標で判断して、「超」のつくバリュー株としての側面を持っている銘柄が多い。それに加えて、トヨタのEV戦略強化などで成長の拠りどころも鮮明となっている。当然ながら、EVに関しては業界を先駆する日産自動車 <7201> や欧州にこだわりを持つホンダ <7267> なども負けてはいない。日産自は30年度までにEV15車種を含む23車種の電動車を導入する方針で、世界販売の商品ラインアップの過半を電動車にする目標を掲げる。また、ホンダは40年にガソリン車を全廃する方針を既に開示しているが、欧州連合(EU)がガソリン車の販売を35年に禁止する計画を打ち出していることを受け、従来計画の前倒しを検討しているとの観測もある。
自動車部品メーカーは、近い将来に自動車から内燃機関が消え、完全エレクトロニクス化に向かうことに戸惑いもあるが、これを商機として捉える動きも活発だ。例えば直近の出世株ではユニバンス <7254> [東証2]がある。同社はモーターやインバータ、車軸などをコンパクトに統合した電動車向け駆動装置「eアクスル」に注力していることで、世界的なEVシフトの波に乗るとの思惑が浮上し、昨年12月中旬以降急速に物色人気が高まった。500円近辺に位置していた株価は年明け早々に1152円まで買われ、あっという間に2倍以上となった。ところがこれだけ株価を上昇させながら、予想PERは10倍台にとどまっていた。前期と前々期が最終赤字だった関係で、今期ゲタを履いていることを考慮しても割高感は全く感じられない。週末7日は信用規制(増し担保)などの影響で急反落を余儀なくされたが、ここまでの経緯で示した株価の瞬発力は並みのバリュー株は持ち合わせていない。
ちなみにユニバンスは21年の年間値上がり率ランキングで全上場企業の中で第4位に輝いている。21年の年初は214円(始値・終値が同値)だった。ちょうど1年で5倍以上に大化けしたわけだが、これは成長性に対する見直しにとどまらず、PERやPBRの割安さが株高を演出する原動力となったことは想像に難くない。
●ユニバンスに続くハイグロース系バリュー6銘柄
このユニバンスの強烈な上げ足を再現できるような銘柄は、自動車部品株もしくはその周辺株の中にまだ眠っている可能性がある。自動車向け工業用品を手掛ける藤倉コンポジット <5121> や、自動車向けベントナイトを手掛けるクニミネ工業 <5388> 、燃料噴射装置のニッキ <6042> [東証2]、自動車向けダイカストのリョービ <5851> 、車体骨格部品を製造するジーテクト <5970> 、自動車用懸架ばねの日本発条 <5991> 、トヨタ系軸受けメーカーの大豊工業 <6470> 、メカニカルシールで自動車向けを主力とするイーグル工業 <6486> など、これらの銘柄はすべてPBRが1倍を大幅に下回るバリュー株の集団だ。
今回は更に突き詰めて、そうした一連の銘柄群のなかから足もとの業績が好調で株価指標面も割安に放置され、なおかつトヨタをはじめとした大手自動車メーカーのEV戦略を追い風とするビジネスモデルを持っているもの。いわゆる株価を突き動かす成長力を内在させているハイグロース系バリュー株を6銘柄エントリーした。
【日精樹脂は射出成形機で中国EV関連需要獲得】
日精樹脂工業 <6293> は射出成形機メーカーで国内最大手に位置する。金型や成形加工分野の研究開発でも強みを持ち、創業以来約75年にわたりニッチ分野に特化し磨き上げた実力は他社と一線を画している。世界的な自動車需要の回復で自動車向け射出成形機が好調、医療関連分野からの引き合いも旺盛で22年3月期は営業利益段階で前期比2.1倍の24億円と急回復を見込む。海外展開に積極的であり、売り上げの8割近くを国外で稼ぐ。欧米では自動車製造用の受注が伸びているほか、EV関連の受注が中国で高水準となっており収益に反映された。東証の新市場区分では「プライム市場」の条件に適合、昨年11月に同市場への選択申請を行っている。株価は昨年6月下旬と8月中旬に1470円前後でダブルトップを形成し、その後は調整を強いられたが1000円近辺は押し目買い需要が強くここにきて上昇波動に転じつつある。日足一目均衡表の雲抜けから戻り足が本格化しそうだ。
【愛三工は次世代モビリティ分野にコア技術内包】
愛三工業 <7283> は燃料ポンプや燃料噴射システムなど燃料系及び吸排気系を主力とするが、トヨタが3割近い株式を保有する筆頭株主で、売り上げもトヨタ向けが全体の60%以上を占める。電動車制御システムの事業化に傾注し、グループを挙げての電動化戦略では重要なポジションにある。ガス燃料システム分野で培った独自ノウハウを強みに燃料電池車(FCV)用水素インジェクタやEVインバータ用冷却ポンプなど次世代モビリティ分野に対応したコア技術は高く評価。22年3月期営業利益は前期比倍増となる100億円を見込む。年間配当も前期実績比11円増配の29円を計画し、配当利回りも高い。23年3月期も製品価格上昇による採算向上をバネに2ケタの利益成長が有力視され、8期ぶりの過去最高営業利益が視界に入りそうだ。時価予想PER7倍台、PBR0.5倍台はあまりに割安で、株価4ケタ台を地相場として不思議はない。同社も昨年11月に「プライム市場」への選択申請を行っている。
【ジェイテクトはトヨタグループならではの展開力】
ジェイテクト <6473> は光洋精工と豊田工機が06年に合併して発足した会社で、電動パワーステアリングなどエレクトロニクス系の自動車部品を得意とし、ベアリング事業も強い。10年1月には米国のベアリング大手企業からニードルベアリング事業を買収したことで、収益基盤が強化されている。取引先は筆頭株主で販売先であるトヨタはもちろん、デンソー <6902> や豊田通商 <8015> などトヨタグループ との関係が密接、中期的にも活躍余地が大きい。東証の新市場区分ではいち早く昨年8月に「プライム市場」への選択申請を行っている。22年3月期はトップラインが2ケタ成長を確保できる見通しで、その増収効果を反映して最終利益は210億円(前期実績は8億円)と急回復を見込んでいる。株価面では時価総額3600億円強の大型株ということもあって、値運びはそれほど軽くはないものの、バリュー株ならではの安定感がある。1000円トビ台は狙い目で、75日移動平均線越えから同移動平均線を足場に一段の上昇トレンド形成が有望とみられる。
【太平洋工は超ハイテン材でEV特需取り込みへ】
太平洋工業 <7250> はトヨタ系自動車部品メーカーでタイヤバルブとバルブコアで世界屈指の商品シェアを誇る。トヨタ向けを中心にプレス部品なども手掛けており、足もとの業績は回復基調が鮮明だ。22年3月期上期(21年4-9月)の営業利益は前年同期比5.8倍の50億2400万円と急拡大した。通期ベースでは前期比17%増の105億円を見込んでいる。続く23年3月期も高付加価値製品の伸長で2ケタ成長が濃厚だ。岐阜県大垣市に自動車用プレス部品の新工場を建設中で、ここでは車体軽量化で需要の高い超ハイテン材を加工した製品製造を行いEVシフトの動きに照準を合わせており、トヨタの電動化戦略におけるキーカンパニーとなりそうだ。東証の新市場区分では「プライム市場」上場基準に適合しており、昨年10月に同市場への選択申請を行っている。株価は昨年12月下旬を境に一貫して上値追い基調にあるが、PER8倍台、PBR0.6倍台は水準訂正余地が依然として大きく、目先の押し目は強気に対処して報われそうだ。
【IJTTは“いすゞ・トヨタ”連合を再評価へ】
IJTT <7315> [東証2]は、いすゞ系の自動車部品メーカーで、19年に3社及びその管理会社を合わせた計4社の合併・統合によって設立された。統合に伴い迅速な経営判断と機動力に富む展開力が強みとなっている。また、いすゞ自動車 <7202> とトヨタの資本業務提携は、同社にとっても業容拡大のチャンスにつながることで株価にポジティブに働く。EV市場の成長をにらみ、電動駆動システムの開発に力を入れるなど、収益機会の獲得に余念がない。22年3月期業績はトラック需要回復を背景とした部品需要の拡大で、営業利益が前期比5.7倍の73億円予想と急増する見通しにある。続く23年3月期についても収益体質の引き締め効果が発現し連続増益が有力視される。株価は昨年12月初旬を境に底入れ反騰態勢を鮮明としているが、依然としてPER5倍台でPBR0.4倍前後と極めて割安水準にあり、見直し買い対象となる。昨年5月28日につけた昨年来高値800円の更新が当面の目標ラインとなろう。
【サンコールはEV戦略商品増産で業績飛躍へ】
サンコール <5985> は自動車用精密ばねや各種リングなどの部品を手掛け、商品競争力が高くトヨタ向けでも実績は豊富だ。HDD用サスペンションなど情報機器向けも展開するが、自動車向けが売上高の過半を占める。EVなど電動車対応も抜かりなく、大容量の電流を導電する導体であるバスバーは、同社のコア技術である「精密塑性加工技術」をフル活用して製造、増産体制を整え需要に備えている。22年3月期は営業損益が6億5000万円の黒字化(前期は12億9300万円の赤字)を見込むが、大幅に上振れる公算大。時価総額200億円前後と小型だが新市場区分では「プライム市場」への適合を目指し、基準達成に向け計画書を公表し積極的に取り組む姿勢をみせている。25年3月期の数値目標としては営業利益45億円、ROE9%を掲げているが、注目されるのはROE9%達成まで配当性向75%を維持する方針を明示していることだ。株価は600円近辺の上昇一服場面は狙い目。まずは19年3月以来の700円台乗せが目標に。
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