―次世代半導体の需要急増、「政府クラウド」の国策追い風に市場は成長の一途へ―
中東情勢の緊迫化で投資家の警戒感が強まりつつある。しかし、過去の株式相場の調整局面を一つひとつ振り返ると、先の展望が描きにくかった当時こそ、好業績期待株の絶好の仕込み場だったと気づかされることは多い。数ある成長市場のなかでも データセンターは 生成AIの普及もあって、成長機運が一段と高まっている領域である。政府クラウドなど国策の恩恵も見込まれているようだ。
●悲観論が後退
世界のデータトラフィック量は今後、爆発的に増加すると予想されている。多数のサーバーやデータ通信機器を1カ所に集約したデータセンターは、デジタル社会の急加速を支える重要インフラであり、アマゾン
2023年は世界的にマクロ経済の不透明感が高まり、データセンター投資の鈍化を指摘する声が相次いだものの、生成AIの誕生と普及が、悲観ムードを一変させつつある。8月に米半導体大手エヌビディア
10月17日の米国市場では、米国政府がエヌビディア製半導体の中国向けの販売を規制することが明らかとなり、同社株に強い下押し圧力が掛かったものの、米中両国の覇権争いにおいてエヌビディアがいかに重要な企業であるのかということを、改めて投資家に印象づける形にもなった。足もとでは同社製GPUの争奪戦も繰り広げられているようだ。
●NTTに関電系と国内企業による巨額投資も相次ぐ
データセンターの建設は日本国内でも拡大が続くとみられており、日本経済に一定のプラス効果をもたらすと期待されている。巨額投資を表明したNTTにとどまらず、関西電力 <9503> [東証P]は5月に、米データセンター開発事業者のサイラスワン(テキサス州)と折半出資の新会社を設立すると発表。今後10年程度で大規模データセンター事業に1兆円以上を投資する計画を示した。
不動産事業者も用地の確保に余念がない。例えば日野自動車 <7205> [東証P]が三井不動産 <8801> [東証P]に売却することになった日野工場の土地の一部は、データセンターとしての利用が予定されているようだ。直近では、安全保障の観点から中国の代替先として日本でデータセンターを構えようとする海外IT関連企業の動きも本格化しているという。
更に、政府や自治体など行政機関がデータ管理のために共同利用する「ガバメントクラウド」の選定要件が見直され、米IT企業の独占状況を打破して日本企業の参入を促すための方策が講じられた。さくらインターネット <3778> [東証P]やインターネットイニシアティブ <3774> [東証P]、ソフトバンク <9434> [東証P]が名乗りを上げたと報じられている。
ガバメントクラウドでは日本国内で地理的に離れた複数の拠点でデータセンターを構えることが前提となっている。データ量の増大に伴って、今後も国内でデータセンターの整備が加速すると予想されるなか、クラウドとデータセンターを運営する企業にとっては、国策による収益急拡大のシナリオが現実味を帯びつつある。
●グリーンデータセンターでSiC半導体の活用余地
一方、データセンターは莫大な電力を消費するという負の側面もある。今後は設置にあわせて再生可能エネルギーの活用が進むとともに、電力量の消費低減につながる次世代半導体をサーバーなどに搭載するスピードも速まっていくと考えられている。
次世代半導体として注目されているのが、SiC(炭化ケイ素)パワーデバイスだ。中期的な普及を見据えて、国内企業ではルネサスエレクトロニクス <6723> [東証P]やローム <6963> [東証P]が供給体制の強化に取り組むなど、攻めの姿勢を鮮明にしている。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が次世代パワー半導体やグリーンデータセンターの技術開発を目指すプロジェクトには、SiCウエハー関連でレゾナック・ホールディングス <4004> [東証P]やセントラル硝子 <4044> [東証P]のほか、オキサイド <6521> [東証G]、Mipox <5381> [東証S]が参画。不揮発メモリーの開発で日本ゼオン <4205> [東証P]が名を連ねる。
電気信号と光信号を扱うそれぞれの回路を融合させて消費電力の大幅な低減を目指す「光電融合技術」も、将来的には活用が期待されている。同技術の研究開発を進めるNTTや富士通 <6702> [東証P]にとどまらず、旧電電ファミリーのNEC <6701> [東証P]や沖電気工業 <6703> [東証P]、電線大手の住友電気工業 <5802> [東証P]、古河電気工業 <5801> [東証P]、フジクラ <5803> [東証P]といった企業も、データセンターの省電力化につながる新たな技術領域でのリソースの蓄積に余念がない。
●電設関連・光部品の需要も底上げへ
国内でのデータセンター新設の流れは、ミライト・ワン <1417> [東証P]やコムシスホールディングス <1721> [東証P]、エクシオグループ <1951> [東証P]といった通信工事関連企業の受注にも押し上げ効果をもたらすだろう。日比谷総合設備 <1982> [東証P]はデータセンター向けに冷却システムなどの設計・施工を手掛け、業界トップレベルという85万平方メートルの施工実績を持つ。電気・空調設備工事のダイダン <1980> [東証P]も、首都圏最大級のデータセンターの新築工事に携わった。
グリーンデータセンターへのニーズ拡大は、制御・自動化機器大手のアズビル <6845> [東証P]の業績にプラス効果をもたらしそうだ。同社はサーバールームの温度管理や電力利用効率の改善に向けた省エネ施策を顧客に提案する。10月には外資系データセンターのマネジメントシステムを手掛けるX1Studio(東京都千代田区)との業務提携を発表し、事業成長に向けた一手を指した。
工事用資材への波及効果も注目したい。配電盤などを手掛ける日東工業 <6651> [東証P]にはサーバーラックなどの部材の販売増が見込まれる。電設資材の因幡電機産業 <9934> [東証P]の直近の業績には、データセンター向けの設備納入案件が収益面でのプラス影響をもたらした。同業の未来工業 <7931> [東証P]も中期経営計画ではデータセンターなどでの事業拡大を狙う方針を示している。同社は子会社でデータセンター事業を展開するという特色をあわせ持っている。
日東紡績 <3110> [東証P]はデータセンター内のサーバーに搭載されるCPU(中央演算処理装置)やGPU向けのスペシャルガラスの成長期待が高い。光通信用部品を手掛けるsantec Holdings <6777> [東証S]や精工技研 <6834> [東証S]も、データセンター向けの成長は業績への浮揚力をもたらす大きな要素となっている。
●SIerも活動領域拡大
データセンター市場ではシステムインテグレーター(SIer)も中核プレイヤーであり、各社は保有するデータセンターを活用し、サーバーの貸し出しやクラウド型サービスの提供などを手掛けている。市場成長の恩恵を享受するのは、NTTデータグループ <9613> [東証P]や野村総合研究所 <4307> [東証P]、SCSK <9719> [東証P]、TIS <3626> [東証P]といった主要企業だけではないだろう。
独立系SIerのアイネット <9600> [東証P]は宇宙関連銘柄としても注目を集めているが、自社のデータセンターを活用したビジネスを展開し、24年3月期は最高益を計画するなど業況は堅調に推移。12期連続で増配を予定する。エネルギー産業や金融機関向けの業務システムを中心としたストック型の情報処理サービスと、フロー型のシステム開発サービスがともに伸長している強みがあり、成長するデータセンター市場のなかでも際立つ躍進が見込まれる銘柄として注目しておきたい。
ソフト開発のシーイーシー <9692> [東証P]も、国内各地にデータセンターを構えている。24年1月期第2四半期(5~7月)末時点で受注残高は前年同期比14.9%増の164億4500万円に増加。製造業向けシステム開発案件の伸長とともに、データセンターにおける長期大型運用案件も寄与したようだ。
ブロードバンドタワー <3776> [東証S]は東京・大手町に都市型データセンター「新大手町サイト」を持つ。3月には東急不動産ホールディングス <3289> [東証P]傘下の東急不動産と包括的な業務提携の開始を発表。国土強靱化の一環として求められるデータセンターの地方分散のニーズにも応えていく方針だ。
このほか関連銘柄として、大阪府内に8棟の都心型のデータセンタービルを保有して事業展開する京阪神ビルディング <8818> [東証P]や、グループ会社でデータセンター内にあるラックスペースやサーバーの貸し出しサービスを提供するシステムサポート <4396> [東証P]、りそなホールディングス <8308> [東証P]のグループから独立後、埼玉県内にデータセンターを開設し、クラウドサービスなどを提供するAGS <3648> [東証S]なども注視しておきたい。
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