●相場が動くのは夏後半か、あるいは秋後半か? 決算発表がポイントに
7月に入ってから株式市場では、上昇、下降のいずれの局面においても、薄商いとなっており、夏枯れの様相を呈している。昔から、高校野球の時は閑散相場──と言われていたが、これに限らず、大きなスポーツイベントが開催される期間中は、市場参加者が減って薄商いになることが多い。今年は高校野球どころか、しばらくはこれ以上の大イベントはないであろう東京オリンピック・パラリンピックが開催されるため、ただでさえ参加者が少なくなっている中で、一段と閑散相場になりそうと心配される状況だ。
ここまで閑散になっている理由としては、海外勢が売り買いともに見送っていることが大きい。日経平均株価が大きく崩れた今月5日-9日の週で、海外勢の動きをみると、財務省が公表する対内対外投資で差し引き105億円の売り越し、東証の投資主体別売買動向で差し引き273億円の買い越し(東証1部)と、ほとんど動きらしい動きが見られなかった。同じく日経平均株価が2万7300円台まで急落した5月10日-14日の週に3949億円と巨額な売り越し(同)だったのと対照的となっている。
売買シェアの約7割を占める海外投資家が動かない背景としては、日本企業の業績見通しを見極めたいとの心理が働いているためと考えることができる。高値圏で強張る欧米株式市場に比べて日本株が出遅れているのはワクチン格差、つまり ワクチン接種の遅れにより景気回復が欧米に比べて後になると想定されるためであり、慌てて日本株を買う必要がないと海外投資家が考えるのは当然のことだろう。
それらの点を踏まえれば、4連休明けから本格化する2022年3月期第1四半期の決算発表が重要なポイントになる。現在の日経平均のEPSは予想ベースで約2050円。2万7000円台ではPER13倍台で、割安感から2万7500円前後では実需買いが活発化する状況だ。つまり、第1四半期の段階で上方修正する企業が相次げば、EPSは上昇する半面で株価の割安感がより顕著となり、株価修正への期待が膨らむのは言うまでもない。
ただ、新型コロナウイルスはデルタ株の蔓延で、日本のみならず各国でも感染者数が増加している。不透明感が強いために、企業の姿勢が慎重になり、その場合は見通しを据え置くケースが増えそうだ。ワクチン接種の拡大でいずれ経済正常化に向かうと考えられるため、業績の失速は考えにくく、修正高のきっかけを掴むチャンスは第2四半期決算が発表される秋後半にずれ込むことになろう。ここは、相場が夏後半に動くか、秋後半に動くか──それを見極める重要な局面にある。オリンピックで閑散などと言っていられない。
一方、もう一つの注目点として東証の市場再編が挙げられる。直近で、1部市場の銘柄のうち664社が改善されなければプライム市場で不適合となると東証が明らかにした。機関投資家の立場では、もう少し詳細が煮詰まるまでポートフォリオが組みにくい状況が続くだろう。東証2部指数が過去最高値の水準となっているが、2部市場からプライムに昇格すると想定される銘柄が買われているのが大きい。これを逆手に取って、1部市場以外でプライム市場上場が有望視される銘柄を狙うのも一法になりそうだ。
少なくとも、第1四半期の決算発表が一巡するまでは、閑散商状が続くとみられ、それまでは直近IPOなど値動きの良い小型株で値幅取りを狙いつつ、今年後半に到来するとみられる日本株の修正高をにらんで、主力銘柄の決算をチェックして内容の良い銘柄を仕込むのが、ここでの投資戦法として考えることができる。
・日経平均株価の想定レンジ:2万6500円~2万9500円
◆雨宮さん勝負のポートフォリオ13銘柄
○エスイー <3423> [JQ]
防災工事向けの受圧板の受注が好調。建設、建築用の資材、機材を手掛けているが、防災・減災関連製品の拡充に注力しており、経済対策で国土強靭化の予算拡大が想定される中、防災関連株として注目できる。300円台の値ごろも魅力になりそうだ。
○日特建設 <1929>
熱海市の土石流災害によって、防災対策が積極的に進められる可能性が高くなり、砂防工事、法面工事など同社が得意とする特殊土木の需要が増加しそうな気配だ。チャートは底もみを継続しており、逆張りのチャンスといえる。
○五洋建設 <1893>
浚渫(しゅんせつ)工事の名門企業で、今後、洋上風力発電が拡大した場合、その面での活躍期待が広がる。政策面では国土強靭化で、津波予防の護岸工事が引き続き活発化しそう。PERは10倍台で割安感が強いことも狙い目になる。
○朝日インテック <7747>
手術用医療ロボットへの展開など将来が期待できる材料を内包していることが注目のポイント。需給面では、新株予約権の行使売りがまもなく一巡するとみられており、チャート上で底値圏に位置するここは仕込み場になりそうだ。
○テルモ <4543>
カテーテルなど心臓・血管分野の拡大が見込めるほか、コロナ禍においてはワクチン用の注射器需要の拡大が買い材料。米ファイザー
○ブリッジインターナショナル <7039> [東証M]
インサイドセールス(非対面型営業)の支援ビジネスで急成長。コロナ禍で非対面ビジネスが広がりを見せているが、業界によってはこの分野で遅れているところも多く、新規開拓の余地が大きく、さらなる業績伸長が期待できる。
○ダイワボウホールディングス <3107>
グループの中核企業であるダイワボウ情報システムがデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によってさらなる飛躍が見込める。割高に買われる傾向があるDX関連株の中でPER11倍台はお買い時の印象が強い。株価は実質的な最高値圏にあり、青空圏での展開が期待できそうだ。
○NTTデータ <9613>
官公庁、金融機関向けを中心に大型システム受託に強みをもつ情報サービス最大手。株式市場でDX関連株が注目を集めているが、その本命格と言っていいだろう。チャートは高値もみ合いが煮詰まっており、押し目があれば買いの好機になりそうだ。
○宮越ホールディングス <6620>
中国の深センで不動産開発事業に取り組んできたが、この計画が具体的に進展。旧クラウンの不動産賃貸・投資会社から構造変革が進み、深センではアジアのシリコンバレーを目指す。中国では再開発ニーズが強いことで、今後の利益成長が期待できそうだ。
○任天堂 <7974>
マリオとポケモンの資産価値評価で注目される一方、足下の業績は直近の円安によって上振れ期待が生じている。さらに、日経平均採用銘柄の基準見直しにより、悲願だった225種採用の可能性が高くなってきたことも注目材料になりそうだ。
○東洋エンジニアリング <6330>
中期計画でカーボンフリー燃料として注目を集めている燃料アンモニアや再生可能代替航空燃料(SAF)に注力する方向を示しているが、これらは環境への関心が高まるにつれ、脚光を浴びることになりそう。高値もみ合いから上放れ間近のチャートも注目できる。
○レノバ <9519>
太陽光発電の開発報酬は減少するものの、その一方でバイオマス、風力の両発電所が次々に稼働。利益成長路線に変化がない。再生可能エネルギー関連株の人気銘柄となっており、上場来高値圏に位置するここからのさらなる飛躍が期待できる。
○イーレックス <9517>
余剰電力の買い取り再販という電力小売り業者だが、国内で高知県と大分県に自社のバイオマス発電所も保有しており、カーボンフリー関連として注目。収益も着実に上向いており、好業績銘柄としても狙い目が大きい。
(2021年7月19日 記)
<プロフィール>(あめみや・きょうこ)
雨宮総研 代表。元カリスマ証券レディとして、日興証券時代は全国トップの営業実績を持つ。ラジオ短波(現ラジオNIKKEI)、長野FM放送アナウンサー、『週刊エコノミスト』(毎日新聞社)記者、日経CNBCキャスター、テレビ東京マーケットレポーター、ストックボイスキャスター、SBI証券 投資情報部などを経て現在に至る。
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