―生成AIとEVがもたらす爆需に刮目、大出直り相場は在庫調整終了前にやって来る―
米国をはじめとする世界的な金利上昇局面で株式市場は向かい風の強い環境を強いられている。しかし、金利高という事実だけに目を奪われ、企業の成長ダイナミズムを見失ってはいけない。金利動向は経済実勢と表裏一体であり、経済が強いからこそ金利に上昇圧力が加わるというその背景に目を向けておく必要がある。
そうしたなか、半導体関連企業は総じて収益面で苦戦が目立つが、半導体市況軟化の影響が反映された足もとの業績を投資の視点に置くのは間違いである。在庫調整が終わった時点で半導体関連の株価は既にかなりの高みに達している。これは過去何十年以上にわたる相場の歴史が証明してきたことでもある。先端半導体を巡る米中摩擦の激化もすべて、政治・経済における半導体の重要性を裏付けるものであり、その観点から業績不調で投資マネーが躊躇している時こそ関連株へのチェックが怠れない。
夜明け前の暗闇で拾うのが半導体関連株で大利を得るための戦略である。であれば、今は機が熟しているとみるべきであろう。今回の特集では 生成AIや脱炭素社会で新たなニーズが発現している半導体関連株の中から、逆襲相場の先陣を切りそうな有望株にスポットライトを当てる。
●米長期金利5%台乗せでも半導体株は買える
米長期金利がついにフシ目の5%台に乗せた。これは16年ぶりのこととなるが、米長期金利が5%台に乗せたらハイテク系グロース株には全く手が出せないなどという不文律はどこにも存在しない。経済が強ければシクリカル・グロース株にはむしろ追い風が吹く。半導体関連セクターはその典型的なシクリカル・グロースの範疇に位置している。
今はスマートフォンの在庫調整の影響がメモリー市況に色濃く映し出されているが、「産業のコメ」と称される半導体はもっと広い分野で汎用的な需要があり、また一方で人工知能(AI)など先端テクノロジー分野でも、それをインフラとして活用するにあたってキーデバイスとしての絶対的な需要がある。株式市場では、良くも悪くもこの半導体関連株の動向にマーケットの視線が集中しやすい。
●TSMCとディスコの決算が示唆すること
では今現在、半導体関連株は買い時なのかどうかだが、業績面では確かに厳しい局面にあることに疑いはない。だが、銘柄の選別は必要ながらも強気対処で報われる局面と考えられる。今週19日、世界から注目された決算発表がある。それは半導体受託生産最大手のTSMC
一方、日本では同じく19日の引け後に24年3月期中間期(23年4~9月)決算を発表した半導体切断・研磨装置世界最大手のディスコ <6146> [東証P]にも耳目が集まった。マーケットの関心が向かったのは第3四半期も含めた4~12月期の業績見通しで、売上高は前年同期比2%減の2018億円、営業利益は同7%減の734億円と減収減益見通しとなった。全般地合い悪も手伝って、翌日の株価は一時2000円を超える大幅安に見舞われたが、その後は急速に下げ渋り400円あまりの下落で引けている。野村証券では10~12月期の売上高見通しが事前見通しを大幅に上回ったことや、生成AI関連の需要に対する会社側の前向きな認識を評価して、目標株価を従来見通しの2万7000円から3万2600円に引き上げた。外部環境面から風向きはこれまでアゲインストだったが、足もとでフォローウインドに変わった感触がある。
●生成AIで沸き立ったエヌビディア人気
そして、米国ではエヌビディア
ただ、目先はバイデン米政権が最先端半導体の対中輸出規制の更なる強化策を打ち出したことで、エヌビディアの業績に影響が及ぶとの見方が強まった。株価は今週に入り急速な調整を強いられており、同社株がフシ目の400ドルを割り込む展開となった場合、同時に26週移動平均線も下抜ける形となり、下値リスクが強まることになる。その意味で今は正念場といえるが、ここは目先の同社の株価動向に振り回されないことも肝要だ。
なぜなら、生成AIによるデータセンター向けで発現している“GPU爆需”に現状で陰りはみられず、中期的にも生成AI市場は年を追って拡大スピードを強める公算が大きいとみられているからだ。政治的要因はある意味一過性のもので、それだけ最先端半導体の重要性が高まっているということの証でもある。時代がもたらした潜在的な需要を低めることにはならない。
●もう一つの爆需「パワー半導体」
一方、半導体はメモリーやロジックだけでない。最近は パワー半導体分野の成長性に改めて光が当たっている。演算系統に使われるメモリーなどとは異なり、電子機器へ電力を供給したり、制御を行ったりする力仕事の役割を担うパワー半導体は、 電気自動車(EV)の世界的な普及や、再生可能エネルギーへの取り組みなどを背景に需要がうなぎ登りだ。今から12年後の35年にパワー半導体の世界市場は、昨年実績比でおよそ5倍の水準にあたる13兆円強との試算もなされている。
日本の大手重電メーカーで三菱電機 <6503> [東証P]や富士電機 <6504> [東証P]、車載マイコントップのルネサスエレクトロニクス <6723> [東証P]、カスタムLSI首位であるローム <6963> [東証P]などは世界でも上位の実力を有しており、今後も日本企業の活躍が期待されている。関連企業の裾野も広い。
また、メモリー同様にパワー半導体もシリコン製が大部分を占めているが、耐熱・耐圧性や省電力化で優位性を持つ次世代パワー半導体も脚光を浴びている。これは炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料として使ったもので化合物半導体とも呼ばれる。このほか、酸化ガリウムを材料とする高電圧対応のパワー半導体にもマーケットの関心が高い。とりわけEV向けでは次世代パワー半導体の研究開発は重要な役割を担っている。
●ここから要注目の半導体関連6銘柄をロックオン
半導体関連株の復活なくして全体相場の上昇トレンド回帰は見込みにくい。足もと株式市場は視界不良ながら、日経平均の年末高に向けた原動力として期待するのであればこのセクターしかなさそうだ。また逆説的にはなるが、半導体セクターは今のような不安定な相場環境だからこそ安く拾えるともいえる。今回は中期的に成長力を宿す有望株を6銘柄厳選エントリーした。
【野村マイクロは超純水装置で急成長路線走る】
野村マイクロ・サイエンス <6254> [東証P]は東アジア地域に重心を置く超純水装置の大手で、韓国サムスンを主要顧客に、半導体生産の主力を担う台湾企業向けでも揺るぎないニーズを獲得している。半導体市況の低迷がいわれるなかも、超純水装置への引き合いは旺盛で豊富な受注残を武器に高成長路線をまい進している。
特に21年3月期以降の業績変化率は特筆に値する。23年3月期は56%増収の48%営業増益でいずれも過去最高を大幅に更新したが、続く24年3月期も売上高は前期比17%増の580億円、営業利益は同7%増の70億円とピーク更新が続く見通しだ。同社の収益の書き入れ時は下期に偏重しているが、今期第1四半期(23年4~6月)は営業利益が前年同期比で2.7倍化し、対上期進捗率は58%に達した。
株価は今月中旬の6590円の戻り高値形成後に大幅な調整を強いられているが、5000円台後半はPER10倍前後で買い場とみられる。6月につけた上場来高値6840円の年度内奪回も視野に。
【日本マイクロはプローブカードで世界屈指】
日本マイクロニクス <6871> [東証P]は半導体ウエハーの検査工程に使われるプローブカードで世界屈指の商品競争力を有し、先端技術を駆使した高付加価値のアドバンストプローブカードでも実力を示している。また、半導体テスターやテストソケットなども手掛ける。半導体メモリー市況の低迷で23年12月期は営業63%減益と落ち込む見通しながら、株価には織り込み済みで、24年12月期の急回復を見込んだ実需の買いが株価を押し上げる状況にある。
技術開発力に長けており、直近では必要なテスト・モジュールを自由に組み合わせ可能なテスターを開発し、販売をスタートしたことを開示している。株式需給面にも着目するところで、三井住友トラスト・アセットマネジメントが共同保有で5%超の大株主に浮上するなど機関投資家の買いニーズが明らかとなっている。
株価は年初来高値近辺でひと押し入れたが、押し目は狙える。14年2月に大相場を形成し、6900円台の高値に駆け上がった実績があり天井は高い。
【サムコは開発力でニッチトップの本領発揮】
サムコ <6387> [東証P]は研究開発型の電子デバイス製造装置メーカーで、化合物半導体(次世代パワー半導体)にフォーカスしたオプトエレクトロニクス分野や高周波デバイス分野で抜群の実績と技術力を誇り、ニッチトップの代表格に位置付けられる。
ナノレベルの膜厚制御性に優れた新型ALD装置「AD-800LP」など高い商品開発力が注目されており、これに次ぐ新製品開発にも鋭意取り組んでいる。売り上げの主力を担うプラズマエッチング装置はレーザーやセンサー関連で高水準の需要を獲得し業績に反映、売上高、利益ともに過去最高更新が続く。22年7月期と23年7月期に目を見張る伸びを達成した。その反動もあって24年7月期は伸び率こそ鈍化するものの、売上高が前期比9%増の85億円、営業利益は同7%増の19億9000万円と過去最高更新が続く見通しにある。量産型への軸足シフトで中期的な成長力も担保されそうだ。
海外企業向けの需要開拓にも余念がなく、現在3割強の海外売上高比率を高めることで成長の伸びしろを確保していく。株価は目先底入れから5000円台活躍を目指す展開へ。
【JETは実態面から株価見直しの緒に就く】
ジェイ・イー・ティ <6228> [東証S]は半導体洗浄装置の開発・設計、製造・販売及びアフターサービスを手掛けている。また、リチウムイオン電池検査装置など新たな成長分野にも照準を合わせている。9月25日に東証スタンダード市場に新規上場した直近IPO銘柄で、TOKYO PRO Marketからの上場ということでマーケットの注目度も高かったが、初値は公開価格を4.5%下回る水準で形成され、その後も下値模索展開を強いられた。
しかし、業績は20年12月期以降、売上高、利益ともに急成長を続けており、23年12月期は営業利益段階で前期比33%増の27億5900万円と過去最高を大幅に更新する見通しにある。21年12月期から株主への配当もスタートさせており、PERは9倍前後と株価指標面からも割安感が顕著だ。
セカンダリーでは株式需給要因による売りで大きく株価を切り下げたものの、ファンダメンタルズや成長力を考慮すると時価近辺は水準訂正余地が大きい。実態面から見直しが進む可能性は高い。
【タツモはパワー半導体向けで圧倒的競争力】
タツモ <6266> [東証P]は貼合・剥離装置や洗浄装置、塗布・現像装置などの半導体製造装置や搬送ロボットを手掛ける。電気自動車(EV)向けで市場拡大が続くパワー半導体向け貼合・剥離装置では世界シェア9割という圧倒的な存在で、高水準の需要を取り込む。トップライン及び本業のもうけを示す営業利益いずれも2ケタ成長トレンドを続けている。また、次世代パワー半導体の最右翼であるSiC(シリコンカーバイド)製ウエハー用でも顧客ニーズを着実に捉えている。
業績面では売上高11%増収、営業34%増益を達成した22年12月期に続き、23年12月期は売上高が前期比29%増の314億2300万円、営業利益が同11%増の31億1800万円を見込み、いずれも4期連続の過去最高更新を予想。
株価は9月11日につけた3325円の上場来高値が射程圏、戻り売り圧力から解放された青空圏突入を目指す。ファンド系資金とみられる法人筋の実需買いも観測され、上値期待は大きい。
【ミナトHDは成長と株主還元で株価4ケタ台へ】
ミナトホールディングス <6862> [東証S]は産業用メモリーモジュールを主力とし、デジタルデバイス以外にもプログラマ、システムソリューション、Webサイト分野など幅広いテリトリーで実力を発揮している。M&A戦略による業容拡大に強みを持っており、時価総額60億円の小型株にもかかわらず、6つの事業と10社の連結子会社(前期末時点)を擁し、成長に向けたキャパシティを考慮すると現在の時価総額は見直し余地が大きい。
24年3月期売上高は前期比2%増の230億円予想、営業利益は同11%増の9億円を見込むが、第1四半期(23年4~6月)時点の営業利益は前年同期比85%増の3億1400万円と好調で、通期営業利益は会社側予想を上振れ10億円の大台に乗せてくる可能性も十分。
子会社売却益に伴う最終利益膨張が理由とはいえ予想PERはわずか4倍、700円台の株価は仕込み妙味がある。増配や自社株買いなど株主還元に積極的な点もポイントで、早晩4ケタ大台が視野に入りそうだ。
株探ニュース
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