―日銀はわずか3カ月の短期間でYCC再修正、日経平均は乱高下し市場は消化難の様相―
日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正を決定した。金融政策の正常化に向けて一歩前進した格好となったが、次の一手として日銀がマイナス金利政策の解除に踏み切るシナリオが意識されるようになっているのも事実である。金融緩和策が修正に向かう過程では、どのようなスタンスで市場に臨むべきなのか。ポイントを押さえていく。
●長期金利1%超え「事実上容認」へ
今回の金融政策決定会合の結果を改めて整理する。まず、短期金利は金融機関が持つ日銀の当座預金のうち、政策金利残高にマイナス0.1%を適用する。10年物国債金利(長期金利)に関しては、ゼロ%程度で推移するよう、国債買い入れを実施する。この点は従来と変わらず、声明文のなかでも、粘り強く金融緩和を続け、必要であれば追加的な緩和措置を講じるとの姿勢を示している。
今回、変更されたのは、長期金利の変動許容幅の扱いだ。これまでは「プラスマイナス0.5%程度」をメドとしてきたが、新たな方針では上限のメドを1.0%とした。更に、利回り1.0%での「連続指し値オペ」に関しては、強力な効果の半面、「副作用も大きくなりうる」と判断し、「大規模な国債買い入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行う」方針を打ち出した。
指し値オペは、金利の上昇(債券価格の下落)を抑制するために、指定した利回りで無制限に国債を買い入れる公開市場操作(オペ)の1つだ。これを毎営業日実施するのが連続指し値オペで、日銀はこれまで1.0%の利回りでの連続指し値オペを行ってきた。市場の実勢よりも高い利回り(安い価格)で日銀に国債を売る投資家はいない。それでも、連続指し値オペそのものは、金利上昇を抑制するための日銀の意思を示す役割を担っていた。
31日に公表された日銀の参考資料をみる限り、今後、長期金利が1.0%に達した局面では、まずは定例オペや臨時のオペによる対応で金利上昇を抑制する形となるようだ。無制限に国債を買い入れる指し値オペでの対応は、金利が急上昇するような非常時における措置となると想定される。長期金利の上限の「メド」には1%を上回る水準も含まれる。それゆえ、事実上、日銀が長期金利の1.0%超えを容認したと受け止められることとなった。
こうした柔軟化策は事前の観測報道もあって一定程度、市場に織り込みが進んでいた。結果発表後の日経平均株価は前日比で一時270円を超す上昇となったが、その後は乱高下し、終値は161円高。1ドル=150円を上回る水準まで円安が進んだにもかかわらず、結果的には伸び悩んだ。長期金利は一時0.955%まで上昇したものの、結果発表後に上昇は一服した。
●「更なる柔軟化」の次の一手に関心シフト
短期的には長期金利が1.0%を上回る局面での日銀の対応が注目されるところだが、そもそも日銀は、2%の物価目標の達成にメドをつけたとの見解を示したうえで、政策の調整を行っているわけではない。7月にYCCの運用柔軟化を発表してから3カ月の短期間で、日銀が更なる政策の調整に迫られることとなった事実を踏まえると、日銀の政策スタンスの不透明感が高まったと市場が受け止めても、何ら不思議な話ではない。
一方、日銀が金融政策を運営するうえで、為替というファクターが従来に増して大きくなっているとの指摘は多い。輸出型企業の業績を下支えする円安は、今やインフレを助長する要因として批判的な世論も形成されつつある。ただし金融政策を運営するうえで為替がより大きな比重を示しているのであれば、国内金利だけでなく、米国の長期金利の重要性も一段と高まることとなる。
米国の長期金利は10月に入り、16年ぶりに5%の水準に乗せた後、足もとでは上昇に一服感が出ている。とはいえ、金利上昇の一翼を担ってきた米連邦準備制度理事会(FRB)による量的引き締め(QT)は、今後も継続されるとの見方が優勢だ。米国経済が失速しない限り、債券需給の緩みを背景に、米国金利の高止まりの状況が続く可能性はなお残っていると言えるだろう。
仮に日本の長期金利の上昇で日米金利差が縮小し、ドル円相場がやや円高方向に傾いたとしても、ここ数年でみれば十分、円安の水準でもある。こうした環境が続くのであれば、日銀としては、金融政策の正常化に向けた次の一手を打つことが可能となる。その一手としてマイナス金利の解除の可能性に注目が集まりつつある。市場では来年の早い時期にも日銀がマイナス金利解除に動くとの観測がある。
●スティープ化なら銀行株優位か
一般に、マイナス金利政策の解除後の短期金利の上昇は金融機関にとって、資金を調達するうえでの金利上昇を意味するため、ネガティブな要因と位置付けられる。しかし、短期とともに長期、超長期金利が一段と上昇し、利回り曲線の傾きが急になる「スティープ化」に向かえば、調達した資金を高い利回りで貸し出すことが可能となり、収益拡大につながる。
足もとの国内銀行の経営状況をみると、米国の金利上昇(債券価格の下落)による保有債券の含み損発生のリスクはあるものの、政策保有株式の圧縮に伴う有価証券売却益の計上で損失が相殺されるシナリオも横たわっている。七十七銀行 <8341> [東証P]や百五銀行 <8368> [東証P]など今期に最高益を計画する金融機関も多い。
メガバンクのPBR(株価純資産倍率)が1倍に迫るなか、PBRの修正余地の大きな地銀に対しては、その分、投資資金を集める下地があるとも言える。プライム銘柄でPBRが0.2倍台にある地銀株には、大分銀行 <8392> [東証P]、秋田銀行 <8343> [東証P]、栃木銀行 <8550> [東証P]、東和銀行 <8558> [東証P]、三十三フィナンシャルグループ <7322> [東証P]などがある。このほか、ネット銀行では住信SBIネット銀行 <7163> [東証S]が連続最高益を計画。楽天銀行 <5838> [東証P]は金利上昇メリットのグロース株としての評価が定着しつつある。
金利感応度が高いリース業界も注目を集めそうだ。短期金利が上昇すれば銀行と同様、資金調達コスト面での負荷がかかる業界だが、日銀短観を見る限り、国内企業の設備投資意欲は高水準な状況にある。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れが不可逆的とみられるなか、設備投資に伴う企業向けのリース需要そのものは底堅く推移するとみることができ、リース料へのコスト転嫁による収益貢献の期待も膨らむ。こうした観点で、リース最大手のオリックス <8591> [東証P]や三菱HCキャピタル <8593> [東証P]、みずほリース <8425> [東証P]、リコーリース <8566> [東証P]などが物色候補に挙がる可能性がある。
●円高メリット・高ROE銘柄も要マーク
日銀がマイナス金利解除に踏み切った後、米国経済の減速感が強まり、米長期金利が急低下して円高が進行するというのも、想定されるシナリオの1つであるに違いない。その場合は、「円高メリット」銘柄への注目が集まることになるはずだ。例えば紙・パルプセクターでは、レンゴー <3941> [東証P]が今期過去最高益を見込むものの、PBRは0.6倍台にとどまっている。今期は黒字転換を計画する日本製紙 <3863> [東証P]に至っては0.3倍台。同社には復配の期待も大きいようだ。ネットワンシステムズ <7518> [東証P]のようなIT関連の一角には、収益面で円高がプラスの効果をもたらす企業がある。
当然ながら、円高で全体相場に下押し圧力が強まれば、投資家のリスク許容度を低下させることとなる。こうしたなかではキャッシュリッチ銘柄やクオリティー銘柄に押し目買い意欲が強まり、全体相場が底入れに向かう場面で異彩高を見せることも予想される。具体的には、信越化学工業 <4063> [東証P]や任天堂 <7974> [東証P]、リンナイ <5947> [東証P]といったキャッシュリッチの大型株のほか、SHOEI <7839> [東証P]やミナトホールディングス <6862> [東証S]、ストライク <6196> [東証P]など、ROE(自己資本利益率)が安定的に高水準で位置する銘柄の相対的な好パフォーマンスが期待されそうだ。
株探ニュース
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