―小売りや素材系だけでない、円先高観の追い風が吹く高成長銘柄をマークする─
春先以降の円安から一転、円高が急速に進行している。株式市場では小売りや食料品、パルプ・紙などを中心に、輸入コスト負担が軽くなると期待される個別銘柄を物色する動きが表れている。だがこれらのセクター以外でも、円高が業績の底上げにつながる企業はいくつか存在する。今回の株探トップ特集ではIT関連を中心に、内需型で高成長が期待できる 円高メリット銘柄をピックアップしていきたい。
●ニトリHD・ワークマンなど小売株が上昇
春先まで1ドル=115円近辺で一進一退の動きを続けてきたドル円相場を一変させたのは、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した世界的な物価高だ。欧米の中央銀行が相次いで大幅な利上げに踏み切った一方、日銀は緩和政策を継続し、海外金利差の拡大による円の先安観が強まった。この結果、10月にドル円相場は一時1ドル=151円台後半と、32年ぶりの円安水準をつけることとなった。
ところが政府・日銀による円買い介入や、米連邦準備理事会(FRB)による利上げペースの鈍化の観測が相まって円安の流れは一服。12月20日に日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動許容幅の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げると、金融市場には日銀が「事実上の利上げ」に踏み切ったとの受け止めが広がり、日米金利差の縮小思惑からドル円相場はそれまでの1ドル=137円近辺から一時130円台まで一気に円高が進んだ。足もとでは133円ちょうど近辺での値動きとなっている。
急激な円高は、23年3月期の通期業績予想の前提となる為替レートを1ドル=135円とするトヨタ自動車 <7203> [東証P]をはじめ、輸出企業の業績に対する警戒感を強め、日本株の重荷となった。一方で注目されたのが、ニトリホールディングス <9843> [東証P]やワークマン <7564> [東証S]、神戸物産 <3038> [東証P]などの円高メリット企業だ。各社とも20日の金融政策決定会合終了後、株価は堅調に推移している。
一般に円高が業績にプラスに作用する業種として、海外から素材や商品を輸入して国内を中心に販売する小売りや食料品、化学、パルプ・紙、電気・ガスなどが挙げられる。ただし海外売上高比率が高い企業の場合、円高はドル建ての海外売上高の目減りにつながる。小売りや食料品関連であってもグローバル企業ならば、円高には負の側面もあり、留意する必要がある。
●円安でソフト調達費用膨らむ
IT関連をはじめとした情報通信セクターは、国内を中心に事業展開をする企業が多く、円高メリット株も散見される。実際に円安が急ピッチで進んだ局面で業績予想を見直し、利益の見通しを下方修正した企業も存在する。
そもそも同セクターは、企業によるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れが追い風となっており、為替の変動を抜きにしてみても、トップラインの拡大が期待できる銘柄が比較的多い。
ウェブ会議システム「Zoom」の国内販売店第1号というNECネッツエスアイ <1973> [東証P]は10月、23年3月期の連結業績予想について、最終利益の見通しを従来の153億円から130億円(前期比13.5%減)に下方修正した。海外現地法人の損失計上に加え、急激な円安によるZoomの仕入れコストの上昇などが響いたようだ。もっとも会社側の公表資料によると、下期(22年10月~23年3月)の業績予想の前提レートは1ドル=145~150円のレベル。また、秋口までの円安によるコスト上昇分に関しては今後、徐々に製品価格転嫁の効果が出てくるもようだ。円高進行で業績予想の上方修正の思惑が広がる形となったばかりでなく、同社が手掛けるDX領域は収益性が高いとみられ、来期以降の業績拡大への期待も大きい。
●ソリトンやアセンテックにも恩恵
セキュリティー対策ソフトを手掛けるソリトンシステムズ <3040> [東証P]も、円安による打撃を被った企業だ。11月に22年12月期の業績予想を見直し、最終利益は増益予想から一転して最終減益の計画とした。半面、売上高予想は185億8000万円から195億円(前期比12.1%増)に引き上げており、成長力は健在といえる。今期は同社が扱う他社製品を巡り、更新案件が複数あった。他社製品は海外製が多い分、仕入れコストが膨らんだようだ。法人や自治体のセキュリティー対策需要は今後も順調に拡大することが見込まれるなか、日銀のマイナス金利撤廃の思惑によりこの先も一段と円高が進めば、利益上振れの思惑が広がる可能性がある。自社製品・サービス自体は増収を続けていることもあり、来期以降の最高益更新に対する期待は根強い。
仮想デスクトップ関連の製品を手掛けるアセンテック <3565> [東証P]は、米IT企業シトリックス・システムズのディストリビューター(代理店)であり、同社へのソフトウェアライセンスの支払いなどで円安の悪影響を受けた。更に、同社の22年1月期の有価証券報告書によると、前期の売上高のうち22.7%をNTTデータ <9613> [東証P]向けが占めている。円高効果とともに、地方銀行の基幹系システムの共通化に取り組むNTTデータ向け事業を通じた金融システム領域での成長の思惑も広がりそうだ。
世界各地の出品者からのファッションアイテムを購入できるネット通販「BUYMA(バイマ)」を運営するエニグモ <3665> [東証P]は、円安の進行で海外から出品された商品価格が上昇し、結果的にユーザーの購買意欲が減退。同社の業績を押し下げる方向に作用した。12月14日に公表した23年1月期第3四半期累計(2-10月)の決算は、売上高は47億4000万円、営業利益が8億2400万円と、新たな収益認識基準を適用した前年同期の参考値と比べ減収減益となっている。ドル高・円安のピークアウトは出品価格の下落と消費意欲の喚起につながることから、同社の業績に対する投資家の懸念を和らげる可能性が高い。
クラウドサービス国内大手のさくらインターネット <3778> [東証P]は、円安に伴うドメイン取得費の増加が利益を圧迫する要因となっている。それでも主力のクラウドサービス事業が堅調に推移したほか、政府の衛星データ関連の売り上げ寄与もあり、9月中間期業績は計画を上振れて着地した。同社は自社開発比率の高さから、サービス単価面での為替の影響は抑制できるとしているが、直近の円高進行そのものはドメイン関連の費用低減に寄与し、利益を下支えしそうだ。宇宙関連銘柄としても投資家からの注目を一段と集める余地がある。
このほか、円安が部材調達などのコストアップ要因となった科学技術向け高性能コンピューターのHPCシステムズ <6597> [東証G]、円安でサーバー費用負担が増えた写真素材販売のピクスタ <3416> [東証G]やrakumo <4060> [東証G]も円高メリット銘柄としてマークしたい。
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