―世界で広がる「カーボンニュートラル」の動き、非石油由来原料の需要拡大―
温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目標にする動きが広がっている。欧州連合(EU)や中国などが既に表明しているほか、日本も菅義偉首相が10月に2050年までの実現を宣言した。脱炭素社会へ着実に移行していくためには、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用をはじめ、バイオマスなどさまざまな非石油由来原料への転換が必要となってくる。植物由来の素材である「セルロースナノファイバー(CNF)」の市場は今後更なる拡大が見込めそうで、株式市場でも再び関連銘柄に関心が向かう可能性がある。
●更なる用途展開の可能性
CNFは、木材などから得られる木質繊維(パルプ)を1ミリの100万分の1以下のナノオーダーにまで高度に微細化(ナノ化)した繊維状の物質。植物から作られることから環境負荷が小さく、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持ち、温度変化に伴う伸縮はガラス並み、酸素などのガスバリア性が高いなど優れた特性を発現する。この素材を使った製品開発は着実に進展しており、例えばスポーツシューズのクッションやスピーカーの振動板、化粧品などで実用化されている。
植物由来のCNFを活用した製品の社会実装・市場拡大を早期に実現することは、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減し、エネルギー転換や環境に配慮した持続可能な炭素循環社会の構築につながるが、そのためには更なる用途開拓やコストダウンが求められる。こうしたなか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は今夏からCNF関連技術の研究開発に着手した。
●NEDOは研究開発に着手
同事業の実施期間は20~24年度を予定し、20年度の事業予算は6億6000万円。研究開発項目は「革新的CNF製造プロセス技術の開発」と「CNF利用技術の開発」がある。具体的には「革新的CNF製造プロセス技術の開発」では、CNF複合樹脂の製造コストを大幅に低減させるため、「生産性の大幅な向上による労務費、原動費の削減」や「樹脂との相溶性を高めるための化学処理での薬品コストの低減」などを含む製造プロセスの見直しが必要と捉え、従来技術の延長ではなく、抜本的な見直しを行った新しい製造プロセス技術の開発を目指す。
採択されたテーマ及び実施予定先は、「疎水化TOCN(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)及び樹脂複合化の製造プロセス技術の開発」が花王 <4452> 、「CNF強化樹脂(PA6、PP)の低コスト製造プロセス技術の開発」は日本製紙 <3863> と宇部興産 <4208> 、「伝動ベルトをターゲットとしたCNF複合化クロロプレンゴムの低コスト製造技術開発」は東ソー <4042> とバンドー化学 <5195> 、「革新的CNF複合樹脂ペレットの製造プロセスの開発」は大王製紙 <3880> と芝浦機械 <6104> 、「高性能、高生産性セルロースナノファイバー複合材料の革新的製造プロセスの開発」は星光PMC <4963> となっている。
また、「CNF利用技術の開発」は広く普及する可能性がある自動車や建築資材、土木資材、家電分野などに適用させるため、これら用途に適した製造技術や成形・加工技術の開発などを行うという。
採択されたテーマ及び実施予定先は、「CNF技術を利用した住宅・非住宅用内装建材の開発」が大建工業 <7905> 、「自動車部品実装に向けたCNF複合材料開発、成形・加工技術開発」がダイキョーニシカワ <4246> 、「炭素循環社会に貢献するセルロースエコマテリアル開発及び商品適用検証」がパナソニック <6752> 、「CNF配合エラストマーの製造プロセス低コスト化による製品実装技術開発」は住友ゴム工業 <5110> と日本製紙が取り組む。
●中越パ、一工薬などにも注目
環境省が、さまざまな製品などの基盤となる樹脂材料をCNFで補強した活用材料(複合樹脂など)を使用することで、CO2の効果的な削減を図ることを目的とした、CNF性能評価モデル事業を推進していることもあり、関連銘柄の動向からは目が離せない。12月2~4日にかけて幕張メッセで開催される「高機能プラスチック展」ではCNFゾーンが新設され、これが株式市場で再び関心を集めるきっかけとなる可能性もある。
上記以外の関連銘柄では、CNFの水分散体である「CNFスラリー」やCNFの水分量を低減し固形分を高めた「疎水性CNFパウダー」、繊維径3~4ナノメートルの完全ナノ化されたCNFを用いた「CNF透明シート」をラインアップする王子ホールディングス <3861> に注目。昨年の東京モーターショーで展示された「CNFを複合した樹脂ガラス」に技術許与したほか、今年に入ってからはCNFシート実用化の第1弾としてダーカー(東京都新宿区)の卓球ラケット用素材に採用された。
中越パルプ工業 <3877> はこのほど、水中対向衝突法(ACC法)で製造したCNF「nanoforest」が、松尾ハンダ(神奈川県大和市)のソルダペーストの添加剤として採用された。電子部品の接合部材に適用されたことで、今後は高い品質が求められる電気自動車(EV)や各種精密機器などでの更なる応用・実用化が期待される。
第一工業製薬 <4461> はCNF「レオクリスタ」を販売しており、直近では八光産業(大分県中津市)のグラスライニング(腐食環境などから金属を保護するために金属の表面にガラスを焼き付ける複合材料)用途に採用された。同社は京都市産業技術研究所との共同研究により、セラミックスの主要な成形技術のひとつである鋳込成形に用いる添加剤としてレオクリスタが優れた機能を発現することを見出し、16年12月に共同で特許出願を行っている。
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