1. 2021年9月期決算の概要
オークファン<3674>の2021年9月期の業績は、売上高が前期比6.0%増の8,344百万円、営業利益が同28.9%減の583百万円、経常利益が同26.4%減の595百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同64.7%減の151百万円と増収ながら、将来に向けた事業整理や先行投資等により減益での着地となった。
売上高は、「インキュベーション事業」(ベンチャー投資にかかる株式の一部売却)が増収に大きく寄与した。また、「インキュベーション事業」を除く主力事業については、コロナ禍をきっかけとする好調な外部環境が続くなかで、「商品流通プラットフォーム事業」のコアとなる「NETSEA」及び「NETSEAオークション」の流通額が順調に拡大。一方、「在庫価値ソリューション事業」については「aucfan.com」が堅調に推移したものの、コロナ禍の影響を受けた「マーケティング支援売上」(広告運用代行等)が落ち込んだ。また、主力事業の伸びが緩やかな水準にとどまったのは、撤退を決定した事業(大企業向けSaaS「zaicoban」、寄付型ショッピングサイト「Otameshi」、法人向け卸販売など)の縮小が主因と言える。
利益面でも、売上総利益は「インキュベーション事業」での株式売却益や「注力事業」※の利益成長により着実に増加したものの、営業利益については流通額拡大のための先行投資や貸倒引当の一部発生により減益となった。また、「撤退事業」にかかる資産(ソフトウェア等)の減損損失(275百万円)を特別損失に計上した。
※主力事業のうち、「撤退事業」を除く事業を新たに「注力事業」(「NETSEA」、「NETSEAオークション」、「aucfan.com」等)と区分した。「注力事業」の売上総利益は前期比22%増と順調に伸びている。
財務面では、自己資本が「営業投資有価証券」の評価替えに伴う「その他有価証券評価差額金」の減少により前期末比32.7%減の5,451百万円に減少。一方、総資産についても、「営業投資有価証券」の売却及び評価替えに加え、リスク管理目的による「受取手形及び売掛金」の抑制、ソフトウェアの減損処理などにより、前期末比36.6%減の8,487百万円に大きく減少したため、自己資本比率は64.2%(前期末は60.5%)に上昇した。
2. 各事業の業績推移
(1) 在庫価値ソリュ−ション事業
売上高は前期比5.8%減の1,820百万円、セグメント利益は同6.8%減の342百万円となった。祖業である「aucfan.com」が堅調に推移したものの、コロナ禍の下、大手顧客のマーケティング費用の抑制的な動きにより、「マーケティング支援売上」(広告運用代行)が落ち込んだことや、撤退を決定した「zaicoban」の低迷により減収減益となった。
(2) 商品流通プラットフォーム事業
売上高は前期比3.7%増の4,998百万円、セグメント損失は258百万円(前期は324百万円の利益)と増収ながら減益となり、セグメント損失を計上した。コロナ禍の下、企業の在庫問題の深刻化や巣ごもり消費等に伴う返品市場の拡大につれて、コアとなる「NETSEA」及び「NETSEAオークション」の流通額がともに順調に拡大した※。ただ、売上高の伸びが緩やかな水準にとどまったのは、事業の選択と集中を進める戦略に基づき、撤退を決定した「otameshi」や「法人向け卸販売」の縮小に伴うものである。一方、利益面では、さらなる流通額の拡大に向けた先行投資(営業・開発体制の強化及びプロモーションの実施)のほか、貸倒引当の一部発生により減益となり、損失計上となった。
※一過性の感染症対策グッズを除くと、流通額(合計)は前期比36%増に拡大。
(3) インキュベーション事業
売上高は前期比34.5%増の1,708百万円、セグメント利益は同73.8%増の874百万円と大幅な増収増益となった。2020年3月26日に東証マザーズに上場したサイバーセキュリティクラウド<4493>株式の一部売却が業績に大きく寄与した。利益面では、コロナ禍に伴う景気悪化の影響等を踏まえ、保有する未上場株式の減損処理を実施したものの、株式売却益の獲得により大幅な増益を実現した。なお、2021年9月末の「営業投資有価証券(保有株式)」の簿価は約30億円残っており、それに対応する「その他有価証券評価差額金(含み益)」は約16億円あることから、今後もいかにその活用を図っていくのかが注目される。
3. 新たな事業区分による業績の振り返り
前述のとおり、同社では、巨大な市場で圧倒的な地位を確立するため、事業の選択と集中を実施し、これまでの主力事業を「注力事業」と「撤退事業」の2つに区分した。2021年9月期業績を新事業区分により振り返ると、「注力事業」の売上高は前期比12.5%増の3,556百万円、売上総利益は同22.4%増の2,101百万円と順調に伸びた一方、営業利益は流通額拡大のための先行投資の開始により同13.7%減の297百万円と減益となっている。
4. 2021年9月期の総括
以上から、2021年9月期を総括すると、「インキュベーション事業」を除く、主力事業の伸びについては、外部環境が追い風(在庫問題の深刻化、オフラインからオンラインへの流通構造の変化等)にあるなかで物足りなさは否めない。ただ、1)「NETSEA」や「NETSEAオークション」といった注力分野(特に流通額)が順調に伸びているところや、2)事業の選択と集中を決断し、「注力事業」へ経営資源を集中投下する戦略へと踏み切ったところは、一旦業績を後退させる原因となったものの、今後の成長加速に向けてプラスの材料と評価できる。その意味で、2021年9月期が大きな転換点になるとの見方もできよう。また、「インキュベーション事業」において、ベンチャー投資先の株式上場により成長投資の資金源を確保できたところも特筆すべき点である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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