不動産市況は、物件タイプによりコロナ禍の影響が異なる。「空室率TVI」(分析:株式会社タス)を見ると、賃貸住宅(東京23区)においては需給の変動により若干の上下はあるが、2017年からの5期にわたり安定的に推移した後、2022年以降に低下傾向が顕著になっている。空室率が低下し稼働率が高くなることは、賃貸収入を維持・向上させるだけでなく、売買市場の環境も良好であることを示す。首都圏及び都市部では、市場の過熱感への警戒が必要なものの、市場の流動性は高い状態が続いている。また、三鬼商事(株)「オフィスマーケットデータ」によると、オフィス※については、コロナ禍に伴うテレワークの急速な普及など働き方の変化があったこともあり、過去3期は空室率が上昇した。ただし、2023年12月時点の空室率は東京で6.03%、福岡で5.19%であり、リーマンショック後に東京で9%程度、福岡で15%程度だったことを勘案すると、コロナ禍の影響が限定的であることがわかる。なお宿泊施設については、国内の旅行や出張が増え、訪日外国人も回復傾向にあることから、客室稼働率はコロナ禍前の水準まで回復している。
※東京ビジネス地区(都心5地区/千代田・中央・港・新宿・渋谷区)、福岡ビジネス地区(主要6地区/赤坂・大名地区、天神地区、薬院・渡辺通地区、祇園・呉服町地区、博多駅前地区、博多駅東・駅南地区)のオフィス。
また、(一財)日本不動産研究所「第49回不動産投資家調査」(2023年10月現在)によると、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」に対して、95%(前年同月も同数値)が「新規投資を積極的に行う。」と回答している。不動産投資家の積極的な投資姿勢は依然として継続していることがわかる。リーマンショック時(2009年4月調査)にはこの指標は45%程度まで下落した経緯があることからも、足元の国内不動産投資市場は堅調であると弊社では見ている。また、「既存所有物件を売却する。」は前年同期比3ポイント上昇し23%となっており、コロナ禍で稼働が落ちた不動産の稼働率回復により、流動性の改善傾向も推測できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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