政策不確実性の下、投機性強まる米国株式市場
米大統領選挙を前後して市場環境は急変、金融市場の方向感が見えなくなっている。米国株式は選挙前後で史上最高値を目前に急騰急落が繰り返されている。セクター間でも、グロースかバリューで、NYダウかラッセル2000かナスダックで、相反する動きがみられている。長期金利や為替も統一性のない動きである。
選挙直後はバイデン勝利、ただし上院は共和党優勢との観測により、財政出動が抑制され金融緩和圧力が強まるとの観測から、長期金利が低下しグロース株中心のナスダックが急反発した。しかし、ファイザーのワクチン治験の好結果が発表されると、コロナ制圧→景気回復加速との思惑から長期金利が急上昇し、グロース中心のナスダックが急落した。他方、バリュー株中心のダウが史上最高値を更新している。金利急騰と軌を一にして、103円まで売られていたドルが105円台へと上昇した。
このような波乱は、米国金融市場が潮目に差し掛かっていることの表れかもしれない。2021年の景気回復は確かと考えるが、政策面での不確実性(1.新たなゲーム・ルールとなるバイデン政策の輪郭不明、2.対中政策も見えない、3.エネルギー政策はどう変わるのか、等)が大きく、投資シナリオを描きにくい。米国金融市場では当面潤沢な流動性・投資資金を背景に投機的な動きが続くものと思われる。
静かにバブル後高値更新、安定性強まる日本株式
その中で日経平均株価は一気に2万4000円台の壁を乗り越え、バブル後の最高値を更新した。日本株式には明確な方向性が示されたのである。特に注目されるのは、日本株式の安定性である。
米国株式とは対照的に、日本株のボラティリティが相対的に大きく低下し、日本は低リスクの市場になった。2020年9~10月の米国株の10%の変動に対して日本株式は3%に止まっている。いわば日本株は、世界有数の危険地帯から安全地帯へと移行したのである。
2010年代を通して日本株式市場は著しく投機的でボラが高く、個人などの投資家は近づき難かった。日本株式取引の7割を占める外国人投資家は、投機(トレード)目的主体のプレーヤーであったためである。しかし、そうした小鬼(投機プレーヤー)たちがNY市場に移動したことによって、日本市場に落ち着きが戻ってきたようである。
米国の低金利(=株式超過リターン上昇)に引き寄せられる世界の投機マネー、日本は安全地帯に
ボラティリティ=投機性の強さは、基本的には、株式の超過リターンの大きさによって決定されると考えられる。金利が低く超過リターンが大きいとなれば、投資家はレバレッジを高めてより大きな投資成果を追求する。その高レバレッジポートフォリオの高リターンは時折到来する市場の大波によって逸失する。このボラティリティコストを通して、株式に存在する超過リターンは様々な市場参加者、金融機関、投資家に再配分される、というメカニズムが存在している。2010年代を通しての日本株式の荒い値動きの原因は、著しい低金利の下で、株式益回りとの差=超過リターンが著しく高かったからといえる。投機ポジションの妙味がとても大きかったのである。
しかし、コロナショック以降、米国の長期金利が急低下し、株式益回りとの差である超過リターンは米国が日本以上に大きくなった。この大幅な超過リターンに引きずられて、世界の投機プレーヤーは米国株式市場に吸い寄せられていると考えられる。ちなみに2019年は米国株式の国債に対する超過リターンは3.0%であった。しかし金利の急低下により、2020年3~10月平均の超過リターンは3.9%に跳ね上がり、レバレッジ投資の妙味が高まっているのである。
日本株式が静かにバブル後最高値更新する中で(短期投機資金が日本株から米株に移動したこととは裏腹に)、長期の海外投資家が日本株を買い始めている。2013年以降アベノミクスを評価して外国人投資家は日本株式を23兆円買い越したが、2020年年初でそのすべてを売りつくした。しかし、10月に入り買い越しに転じている。(1)新型コロナ感染が少なく、経済正常化加速が見込まれること、(2)中国回復の恩恵を受けグローバル企業の企業業績が好転、(3)菅改革政権登場に対する評価、(4)ウォーレン・バフェット氏の商社株投資に触発される、などの要因がある。
オリンピック開催年となる2021年は、世界の投資家が日本株式に大きくシフトする年になるのではないだろうか。
(2020年11月3日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン265号」を転載)
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