―米ワクチン開発前進も追い風に、リターン・リバーサルで再上昇余地―
新型コロナウイルス感染拡大による急激な景気の落ち込みが、世界の株式市場に影を落としている。ただ、その一方では欧米などでの経済活動再開に向けた動きも本格化し始めており、市場には「景気はいまが最悪期」との見方も強まりつつある。そんななか、株式市場で注目を集めているのが、機械や自動車、化学、非鉄、海運などの景気敏感株だ。米ベンチャー企業のワクチン開発の動きもアフターコロナを視野に入れた株価上昇に弾みをつけるなか、まだ安値圏にある景気敏感株は夏場に向け絶好の拾い場となる可能性がある。
●米企業のワクチン開発前進で経済活動再開に期待感
19日の日経平均株価は前日比299円高の2万433円と大幅高となった。株価の押し上げ要因となったのは、米バイオベンチャー企業のモデルナが18日に新型コロナに対するワクチンの初期の治験が有望な結果を示したと発表したことだ。これを受け、ワクチン開発による経済活動再開に向けた期待が強まり、米株式市場でNYダウが911ドル高と急伸。この流れが東京市場にも波及した。
世界経済に目を向ければ、足もとの景気は急激に落ち込んでいる。18日に発表された国内の1~3月期国内総生産(GDP)は前期比年率換算で実質3.4%減と2期連続のマイナス成長に転落した。4~6月期は20%程度の減少と戦後最悪の落ち込みとなる見方が多い。米国も4~6月期は同40%近い落ち込みとなるとの予想が出ている。
●GDP大幅減も新たな財政出動に思惑浮上、中国全人代にも注目
しかし、その一方で景気回復に向けた明るい動きも出ている。新型コロナによるロックダウン(都市封鎖)を行った欧米では、経済活動再開に向け本格的に走り出した。日本政府も14日に緊急事態宣言から39県を正式に解除した。
また、市場からは「弱いGDPが発表された後には新たな財政出動が期待できる」(アナリスト)との期待が強まっている。米国では3兆ドルの財政出動を実施しているが、更に民主党による3兆ドルの経済対策が下院で可決されるなど、追加の対策が指向されている。日本でも新たな経済対策を盛り込む第2次補正予算の編成の動きが強まっている。財政支出の規模は5兆~10兆円との観測が浮上しており、今月27日にも第2次補正予算案を閣議決定し、今国会での成立を目指している。
加えて、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が、予定より2ヵ月半遅れて22日から開催される。この全人代ではコロナショックからの経済立て直しに向け大型経済対策の実施を決定することが期待されている。
これら日米中の経済対策は、夏場に向け世界景気を押し上げる要因になる。足もとでは「経済再開に対する期待と新型コロナ感染拡大第2波への警戒との綱引き状態」(市場関係者)だが、7~9月期のGDPが米国は20%台の増加、日本も10%前後の増加が予想されており、夏場に向け景気回復期待が膨らむ。米モデルナのワクチンも7月に数千人規模の最終段階の治験に移るとされており、やはり経済再開に向けての動きは夏場が焦点だ。
●機械に中国向け受注回復機運、自動車は非鉄など反発も
そんななか、市場の関心を集めるのが機械や自動車、海運、鉄鋼などの景気敏感株だ。足もとの全体相場の人気セクターは、コロナ禍のなか追い風を受けるテレワークや巣ごもり消費、それにバイオ医薬品などだ。先行きの不透明感が残る景気敏感株は、物色圏外にあるが、それだけに出遅れ感が強い。株価が下がった銘柄はいずれ反発し、値上がりした銘柄は下落するという「リターン・リバーサル」の観点から景気敏感株に注目する見方も増えている。
あるアナリストは「これから中国向けの輸出増が予想される機械株の一角には期待ができる」と指摘。中国向け受注に改善の兆しが出ていることに注目している。安川電機 <6506> やファナック <6954> 、SMC <6273> 、それにハーモニック・ドライブ・システムズ <6324> [JQ]などの株価動向が関心を集めている。自動車業界では、ゼネラル・モーターズなど米大手3社は18日に、休止していた米国とカナダの工場の操業を開始した。米国での経済活動の再開はトヨタ自動車 <7203> やSUBARU <7270> 、マツダ <7261> など日系メーカーに追い風となりそうだ。新型コロナの感染防止に絡み一人で移動できる2輪車の見直しでホンダ <7267> やヤマハ発動機 <7272> に注目する見方もある。
化学株では、ナイロン原料のアジア向け価格が上昇に転じつつある。住友化学 <4005> や三井化学 <4183> 、宇部興産 <4208> など。また、中国の景気対策による効果が出てくれば銅など非鉄金属市況にも回復期待が膨らみ、住友金属鉱山 <5713> や三井金属鉱業 <5706> 、三菱マテリアル <5711> などの反騰が期待できる。世界景気が回復すれば商船三井 <9104> や川崎汽船 <9107> などの海運株も見直し余地が膨らむ。
ただ、日本製鉄 <5401> の高炉の閉鎖による大規模な合理化が話題を集めたが、市況の低迷で先行きが見えない鉄鋼業のような業種もあり、セクターや銘柄により株価の格差は広がりそうだ。
株探ニュース
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