<日銀政策維持>円安加速で揺れる投資家心理、「ハト派」姿勢の変化に市場は注視
日銀が金融政策の現状維持を決定した26日、外国為替市場でドル円相場が一時1ドル=156円台まで円安が進んだ。日本株にも買い戻しが入ったが、日経平均株価はザラ場で3万8000円を上回ると上値を重くした。政府・日銀による為替介入リスクが警戒されるなかで、市場では34年ぶりの円安が輸入インフレを加速させ、賃上げ効果を打ち消すシナリオが指摘されるようになった。実体経済への悪影響を回避すべく、政府が「円安対策」に本腰を入れる姿勢を示して円安が一服した場合は、円高メリット株のみならず内需株全般に物色の矛先が向かう余地が広がりそうだ。
今回の決定会合で注目点の一つとなったのが、国債買い入れ方針の変化の有無だった。日銀が月額6兆円規模の買い入れを継続した場合、債券需給が引き締まり、国内の長期金利の上昇が抑制されることとなる。一方、米国ではインフレ懸念などを背景に利下げ観測が後退している。25日夜に一部で「日銀が国債買い入れ縮小の方法を検討する」と報じられたことを受け、26日午前に日本の長期金利は一時0.930%まで上昇したが、日銀が政策の現状維持とともに、国債買い入れについて3月会合での決定内容に沿って実施する方針を示すと、上昇幅を縮小した。他方、ドル円相場は一気に水準を切り上げ、植田和男総裁の記者会見時に、1ドル=156円台後半までドル高・円安が進んだ。
今後の焦点は米国の物価指標と、米連邦公開市場委員会(FOMC)、そして政府・日銀による円買い介入の有無となる。米国では年内に利下げが見送られるとの見方が徐々に高まるなかで、粘着的なインフレ環境への対処が迫られることとなれば、米長期金利は一段と上昇し、ドル高に拍車が掛かる可能性がある。こうした流れのなかで、政府・日銀による実弾介入がどこまで円安を抑える効果があるかは未知数だ。更に、イエレン米財務長官は25日、為替介入について「極めてまれで例外的な環境」のもとで行うのが適切だとする考えを示した。日本が果たして為替介入に踏み切れるのか、疑念を持つ投資家も存在する。投機筋による円先物の売りポジションは17年ぶりの高水準に膨らみ、介入時の一時的な円安是正効果を見込む市場参加者は多いが、外貨準備の存在ゆえ無制限に円買い介入を行うことは不可能だ。
市場では1ドル=157円を超えて円安が進めば、今年の春闘の効果を加味しても、物価変動を考慮した実質所得は伸びなくなるとの試算がある。賃上げによる消費押し上げ効果が不発となれば、内需系企業の業績はもちろん、国内景気に下押し圧力が掛かることとなる。自民党内では過度な円安進行時には政策対応が必要だとの認識が広がりつつある。今後は消費喚起策の検討に加え、日銀に対し追加の利上げを求める声が強まることが想定される。
アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネージャーは「異次元緩和を3月会合で終了したばかりで、日銀が『様子見』となるのは当然の流れだが、マーケットでは次回会合に向けて再び政策修正に向けた思惑が強まる可能性がある」と指摘。日本株については4月以降の調整を受けて過熱感が解消した状況にあるとしたうえで「円安が日本経済に『悪さをしない』のなら、消費の底堅さとインバウンド需要、米国景気を支えに、もみ合いの局面を経て戻りを試す展開となるだろう」と話す。
この先、日銀が「ハト派」的な姿勢を続けることが実質所得の伸びを相殺し、政権サイドで円安基調への問題意識が高まるのなら、「タカ派」への転換は必然の流れかもしれない。そして、日本国内で6月から定額減税がスタートする。足もとでは3月期決算の発表を受けた個別物色が活発化しているが、利上げが円安を一服させ、定額減税の経済効果に関心が向かう局面においては、内需関連株に浮揚力が掛かるシナリオも見込めそうだ。26日の東京株式市場では三井不動産<8801.T>や三菱地所<8802.T>をはじめとする低金利メリットの不動産株が、金融政策の結果公表後に上げ幅を拡大したほか、東証の業種別指数の「サービス業」と「小売業」も頑強な動きを見せ、朝安後にプラスに転じている。
出所:MINKABU PRESS
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