21日の米株式市場でダウ平均は102.35ドル安(-0.30%)と3日続落。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が下院での議会証言で年内の追加利上げの必要性を再表明したことが嫌気された。また、金利先高観に伴うハイテク売りが全体の重しになった。ナスダック総合指数は-1.20%と3日続落、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は-2.68%と大幅に4日続落した。米株安を受けて日経平均は137.13円安からスタート。一方、海外投資家による買い意欲は健在のようで、日経平均はすぐに下げ渋ると一時プラス圏に浮上。ただ、指数寄与度の大きいハイテク・グロース株を中心に売られるなか、その後は再び軟化し、徐々に下げ幅を広げる動きが続いた。他方、節目の33500円を意識した下げ渋りも見られ、日経平均は前引けにかけては再びプラス転換した。
個別では景気敏感株が全般買い優勢で、三菱UFJ<8306>、みずほ<8411>の銀行、東京海上<8766>、SOMPO<8630>の保険、オリックス<8591>、三菱HCキャピタル<8593>の金融、三菱商事<8058>、丸紅<8002>、伊藤忠<8001>の商社、INPEX<1605>、石油資源開発
<1662>の鉱業、三菱重<7011>、川崎重<7012>の総合重機、JFE<5411>、神戸製鋼所<5406>の鉄鋼、三菱マテリアル<5711>、DOWA<5714>の非鉄金属などが上昇。高浜原発の再稼働時期が決定したと発表した関西電力<9503>、目標株価が引き上げられた三井ハイテック<6966>は大幅高。業績予想を上方修正したテスHD<5074>、自社株買いを発表したインフォマート<2492>は急伸。一方、レーザーテック<6920>、アドバンテスト<6857>、ルネサス<6723>の半導体株が軒並み大きく下落、ソシオネクスト<6526>はレーティング格下げもあり大幅安となっている。
セクターでは卸売、鉱業、その他金融が上昇率上位に並んだ一方、精密機器、電気機器、金属製品が下落率上位に並んだ。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の62%、対して値下がり銘柄は34%となっている。
本日の東京市場ではハイテク・グロース株が売られる一方、景気敏感株に買いが入っており、指数では日経平均が冴えない展開となっている一方でTOPIX(東証株価指数)が上昇している。上昇相場初期の値がさ株・ハイテク株の一極集中から次第に物色が循環してきてはいたが、ここまで明確に日経平均とTOPIXの間でパフォーマンスに差がつくのは珍しい印象。
先週末から米株式市場では主要株価指数が揃って続落。ダウ平均とナスダック総合指数は3日続落、生成AI(人工知能)ブームで上昇が際立っていたフィラデルフィア半導体株指数(SOX)にいたっては4日続落となっている。
先週末は株価指数や個別株を対象とした先物・オプション取引の決済期日が重なるクアドラプル・ウィッチングだったが、やはり先週末を境に需給に変化があったように見受けられる。まだ、ウィッチングを過ぎてから2日に過ぎないが、米株式市場では特にこれまでの上昇局面においてけん引役だったハイテク株の下落率が目立っている。対して、景気敏感株の構成比率が高いダウ平均は続落ながらも下落率はナスダックなどに比べて小幅にとどまる日が続いている。
市場関係者の間では、生成AIブームのポテンシャルには期待できるものの、ハイテク企業への業績貢献には時間がかかるとの慎重な見方もあり、足元の急ピッチでのハイテク株高は行き過ぎとの指摘も聞かれる。生成AIブームに火を付けた米半導体エヌビディアの決算から約1カ月が過ぎたが、ちょうど需給の転換点であるクアドラプル・ウィッチングを過ぎたこともあり、ハイテク株に対する熱狂はいったん小休止。今後は四半期決算ごとに経営陣からのコメントなどを通して実態を確認していく必要があると、冷静に見極める段階に入ったと思われる。
これまでの日米の株価指数の上昇のけん引役だったハイテク株が一服するとなると、日米ともに短期的な過熱感を指摘する声も聞かれていたなか、今後の相場は調整局面、良くても高値もみ合いといった局面に入っていきそうだ。前日の米株式市場および本日の東京市場のように、けん引役の交代で景気敏感株が今後相場をリードできれば理想的ではあるが、この点は慎重にみるべきだろう。
というのも、株価バリュエーションをみれば、米国経済を中心に世界経済のソフトランディング(軟着陸)期待はすでに日米ともに株価に大方織り込み済みと思われることがまず一つ挙げられる。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の不透明感が再び高まっており、ソフトランディング期待は今後一段と高まるよりは縮小する可能性があると考えるからだ。
前日は下院金融サービス委員会においてパウエルFRB議長の議会証言があった。先週開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)直後の記者会見の内容と比べて新味には乏しかった。ただ、FRBが先週発表した最新の政策金利見通しで年内あと2回の利上げが示唆されたことに関し、市場が利上げ再開のハードルは高いとみているのに対して、パウエル議長は前日の議会証言でこの点に関して「経済がほぼ想定通りに推移した場合、これ(追加利上げ2回)は正確に推測した結果である」と述べ、追加利上げを再強調した。
市場は依然としてパウエル議長のこうしたタカ派な姿勢をポーズにしか過ぎないと捉えているようだ。しかし、今回の証言からは、FRBの経済データ次第というスタンスは変わらないものの、物価指標や雇用指標が現在のペースを上回る程に劇的に大きな減速を見せない限り、本当に追加利上げが行われる可能性が高まったような印象を個人的には受けた。仮にこうしたシナリオが今後現実味を帯びてくると、市場はFRBが必要以上に金融引き締めを行うことで経済をハードランディングへと導いてしまうオーバーキルのリスクを警戒しはじめる可能性がある。次回のFOMCは7月25-26日であるが、残り約1カ月の間にこうしたシナリオが台頭してこないかどうかを見極めていく必要があろう。
話は戻るが、以上の通り、今後経済のオーバーキル懸念が台頭するリスクも考慮すると、景気敏感株が長く主役の座に居座ることは考えにくく、景気敏感株への上値追いには慎重になるべきと考える。一方、依然として出遅れ感が残る中小型株・新興株については、リスクオフ時の流動性リスクには留意すべきだが、東証プライムの主力ハイテク・景気敏感株が手掛けづらくなってくると、消去法的な観点から投資対象として選ばれやすくなる可能性がある。本日東証グロース市場に新規上場するアイデミー<5577>、リアルゲイト<5532>は前場時点ではともに買い注文が売り注文を上回って値付かずとなっており、個人投資家の買い意欲の旺盛さが窺える。含み損益の改善した個人投資家による既存新興株に対する物色意欲が高まる展開に期待したい。
(仲村幸浩)
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