1. これまでの経緯
日本アジア投資<8518>は、2022年3月期より3ヶ年の中期経営計画を推進しており、2年目を迎えている。前中計(2019年3月期~2021年3月期)では、「日本とアジアをつなぐ投資会社として少子高齢化が進む社会に安心・安全で質と生産性の高い未来を創ります」という新たな経営理念のもと、VC業界を取り巻く環境変化への対応や課題解決に向けて、投資方針(本体投資分)の抜本的な見直し※を行い、収益拡大に向けた足掛かりを築いてきた。今回の中計では、第2段階として収益やキャッシュ・フローの安定化を実現し、更なる成長に向けた投資を拡大するシナリオとなっている。
※収穫期に入る既存のPE投資資産の売却により、利益・資金を確保するとともに、本体投資分については、「事業テーマ」を明確に持ち、そのテーマを軸に「企業への投資」(PE投資)と「事業への投資」(プロジェクト投資)を組み合わせる戦略的投資を推進し、安定収益の拡大と財務健全性向上を目指す。
2. 中期経営計画の方向性と進捗
(1) 全体像
投資活動のコアバリューを「ベンチャー投資と特色有るアジアのネットワークを活用した日本とアジアの未来に貢献するSDGs投資」と位置付け、少子高齢化とポストコロナの日本の未来社会で生み出されるイノベーションから創出される事業を見出し、投資活動を通じて成長を支援する方針である。もっとも、基本的な投資方針に大きな変更はなく、戦略投資とプロジェクト投資によりバランスシートの早期改善と安定した収益の造成を図るとともに、ベンチャー投資により高い収益性の確保を目指す方向性である。また、SDGsを強く意識した投資活動に取り組むほか、日本とアジアをつなぐ投資活動も継続する考えだ。
(2) SDGsへの取り組み
事業テーマに沿って取り組むべき課題を特定し、具体的な投資機会へと結び付けていく考えである。
(3) 行動計画とこれまでの進捗状況
a) PE投資
PE投資のうち、フィナンシャル投資(戦略投資以外のPE投資)では、引き続き、既存の資産を流動化し、資産の入れ替えを完了させる一方、新たな投資方針に基づく3本のファンドを組成する計画である。また、戦略投資では、既存の投資先を成長させ売却益を得るとともに、新規分野でのパートナー企業への戦略投資も行っていく。これまでの実績では、(株)あおぞら銀行との合弁会社が2本の新規ファンドを組成したほか、戦略投資先のリニューアブル・ジャパンが2021年12月に上場を果たし、第1号IPO案件となった。
b) M&A仲介等
国内外のパートナーと連携し、FA業務(M&A仲介)のパイプラインを積み上げ、収益を拡大していく。これまでの実績では、日中クロスボーダー投資の専門家集団であるAIS CAPITAL(株)と業務提携を締結している。
c) プロジェクト投資
・ディストリビューションセンター(物流施設)
重点分野として投資残高を増やす計画である。また、プロジェクトの初期段階に投資し、その後、ミドルリスク・ミドルリターン志向のレイターステージの投資家を呼び込むことで、同社の採算性を向上させる戦略を描いている。これまでの実績では、合計4件の新規案件に投資実行した一方、合計2件が竣工し売却に至っている。また、戦略投資先同士の協業による、物流施設屋上のNon-FIT型太陽光発電システムへの投資も決定した。
・ヘルスケア
高齢者向け施設への投資は、採算性や立地環境を中心に厳選された案件に投資を行っていく。また、障がい者グループホームでは、銀行やリース会社とファンドを組成し、50棟の投資を実行する計画である。これまでの実績では、高齢者向け施設(2件)の開発が順調に進み、そのうち1件を売却した。また、障がい者グループホームについては、昭和リース等と組成したファンドによる2拠点が完成したほか、地域金融機関との連携等により合計13拠点(建設中を含む)のプロジェクトが進んでいる。
・再生可能エネルギー
ベトナムでの屋根置きソーラーのほか、国内のバイオガスプロジェクトへの投資を拡大する方針である。国内のメガソーラープロジェクトは、順次売却して利益計上を図っていく。これまでの実績では、合計3件のメガソーラープロジェクトを売却している。
・スマートアグリ(植物工場)
リーフレタス工場は大手コンビニエンスストアを軸に販売先を開拓し、まずは4号工場まで事業規模を拡大する計画である。これまでの実績では、需要拡大に対応するため、工場を増設し生産能力を拡大している。
・新規事業開発
既存投資テーマの周辺分野やコロナ禍に対応した事業テーマから、将来の収益の柱となる新規事業を開発していく。これまでの実績では、ぴあグローバルエンタテインメント(株)との協業によるエンタテインメントコンテンツへの投資のほか、神奈川県藤沢市のシェアアトリア施設への投資などを実行している。
(4) 数値計画
FA業務や短期売却を前提としたプロジェクトへの投資を拡大することにより、PE投資に比べて比較的確実性の高いフィー収入やプロジェクトの収益を拡大し、持続可能な収益構造を目指す。ただ、この計画期間中は、既存資産の流動化を完了させるため、PE投資の収益が中心となるが、最終年度の2024年3月期にはフィー収益とプロジェクトの収益で管理コストを賄い、変動の大きなPE投資の収益により超過利益(アップサイド)を目指すシナリオとなっており、営業総利益で22億円、最終利益で8.5億円を計画している。2022年3月期及び2023年3月期はともに、予定していたIPOの期ずれや上場株式の売却益の下振れ等により、業績面では計画を下回って推移しているものの、最終年度の2024年3月期は、期ずれ分の売却を含めて、数値計画の達成を目指す考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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