1. 2022年12月期の業績概要
同社グループは事業基盤拡大に取り組んでおり、2022年12月期には総資産が初めて1兆円を超えた。その結果、営業収益は82,419百万円(前期比94.7%増)、営業利益は14,399百万円(同173.7%増)、税引前利益は16,995百万円(同188.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は12,632百万円(前期は1,123百万円の利益)と大幅な増収増益決算となった。営業収益及びすべての利益項目で2022年8月に発表した2度目の上方修正後の業績予想を上回り、営業収益と営業利益は過去最高を記録した。また、親会社の所有者に帰属する当期利益も、2018年3月期にIFRSに移行して以降の最高益となった。
営業収益の大幅増加は、インドネシアのBJIの貸出金増加、韓国のJTCSBや日本のJTG証券の連結取込が貢献した。また、営業利益の大幅増益は、営業収益の増加に加えてBJIの黒字化、JTCSBの子会社化やNexus Bankとの株式交換、JTG証券の株式取得により発生した負ののれん発生益の計上が寄与した。親会社の所有者に帰属する当期利益の増益には、Nexus Bank上場廃止に伴う評価益の発生、HSホールディングス<8699>株式売却に伴う前期税効果会計の戻しの発生、為替相場の円安により外貨建て資産負債の評価替えによる為替差益の計上などが影響した。このように営業成績が著しく向上したのは、BJIの黒字転換をはじめとする収益向上に向けた経営努力や、Nexus Bank、JTG証券の取得など、同社の積極的なM&A戦略による成果であると言える。
負ののれん発生益などを除いた実力ベースの利益を示す金融3事業のセグメント営業利益は、2022年12月期第1四半期の27億円から、第3四半期には82億円にまで順調に拡大したものの、第4四半期には3億円増の85億円に留まり、それまでの利益成長にブレーキがかかった。これは、韓国でのインフレに伴う金利上昇の影響による。ただ、韓国の預金の主力は1年定期であり、2022年秋に集めた高金利預金の影響は時間の経過とともに剥落する見通しだ。このため、韓国及びモンゴル金融事業の営業利益は2023年12月期第3四半期からは黒字転換し、2024年12月期には正常化すると同社では見ている。
2. セグメント別業績
同社は、日本で構築したビジネスモデルを海外展開することで、アジアの総合ファイナンシャルグループへと成長を遂げてきた。現在は日本金融事業、韓国及びモンゴル金融事業、東南アジア金融事業、投資事業の4事業セグメントを展開している。
(1) 東南アジア金融事業
2022年12月期の営業収益は29,173百万円(前期比73.7%増)、営業利益は58百万円(前期は6,372百万円の損失)となった。銀行業における貸出金の増加に伴い利息収益が増加したことにより、増収となった。営業利益については、市中金利の引き上げにより調達金利が上昇しているなかでも、BJIが審査体制の見直し等により貸出債権のリスク低下が図れたことに加え、各種キャンペーンによる新規口座の獲得や、高金利定期預金金利の引き下げ等により資金調達コストの低下に努めたこと、経費の削減が進んだこと等により黒字化を実現したことが、東南アジア金融事業全体の黒字化に大きく貢献した。
a) BJI
インドネシアにおいて長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったBJIについては、最優先課題の1つとして再生に取り組んできた。これまでに、同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社PT JTRUST INVESTMENTS INDONESIA(以下、JTII)を設立して、BJIから不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図るなど銀行再生を加速してきた。ただ、銀行再生が計画どおりに進まなかったことから、2019年3月期に、買収前からの負の遺産を含めた不良債権を前倒しで一括処理する抜本的な対応に踏み切った。また、韓国で経営破綻した貯蓄銀行を2年半で通期黒転させた現 代表取締役副社長 千葉信育(ちばのぶいく)氏がインドネシアに入って経営再建を進めた。
BJIは事業規模が損益分岐点を超えたことで、営業損益は2021年12月期の43億円の損失から2022年12月期に11億円の利益に改善している。黒字を目指すフェーズから、より多くの利益の積み上げを追求する段階に入ったと見られる。厳格な審査体制が整ったことでより安全性の高いローンの増加が続いていることに加え、コロナ禍の収束傾向もあり、2022年12月末の法人大企業を中心とする貸出残高は前期比95%増の1,660億円と、主な競合銀行と比べても大幅に伸長した。債権回収による不良債権金額の圧縮もあり、90日以上延滞債権比率(以下、NPL比率)はインドネシア銀行業界平均の2022年9月末の2.8%を下回る1.80%に低下した。2020年1月以降の新体制で積み上げた貸出残高は全体の89.93%まで拡大したが、NPL比率は0.09%の低水準に留まり、不良債権はほぼ発生していないなど、リスクマネジメントを強化した成果が現れている。
また、預金残高も2,181億円(2022年12月末)に増加している。大口の高金利預金を抑制する一方、ショッピングモールでのキャンペーンなどにより小口の低金利預金を増やしたことで、資金調達額は主な競合銀行と比べて大幅に伸長した。一方、政策金利引き上げの影響を受けて預金金利は4.7%とやや上昇したが、2020年1月の7.08%からは低下していることもBJIの黒字化に貢献した。なおBJIは、2020年1月にインドネシア証券取引所(IDX)で取引再開を果たしている。
b) JTRB
2019年8月に、同社グループ6ヶ国目の進出先となるカンボジアの商業銀行ANZ Royal Bank(Cambodia)の株式55%を取得し、商号をJTRBに変更した。同行の資産規模は、カンボジア42行中TOP10に入る(2018年12月末当時)。グループ入り後、法人向けを中心に貸出残高は順調に拡大し、2022年12月期には1,326億円(前期比9%増)に達した。ただし、後述の理由により預金残高が伸びていないため、2022年12月期後半からは貸出を戦略的にコントロールしている。一方、延滞債権比率は足元では若干上昇したものの2.05%と依然として低水準に留まっている。カンボジアでは信用力の高い米ドルが主に流通しており、銀行の預金金利は米国金利上昇の影響を受けて上昇傾向にあるものの、JTRBは戦略的に高金利での預金獲得を抑制していることから、預金残高は1,335億円と横ばい傾向も、預金金利は3.5%と低水準で推移している。JTRBでは「Goal Saving」「The One」「Premier Savings Plus」などの普通預金商品を開発するなど、預金獲得施策を推進している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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