2. エンジニアリング事業の進捗状況
(1) 事業の概要
サンワテクノス<8137>においてエンジニアリング事業というのは、“電機・電子・機械の3部門の商品をそれぞれ単品販売するのではなく、システムとしてソリューションを提案する”ということで、言わば営業手法である。同社を食品スーパーに見立てると、これまでの同社は肉、魚、野菜を取りそろえて素材のまま顧客に販売してきた。エンジニアリング事業では、それぞれの食材を惣菜やお弁当に加工して販売するというイメージだ。エンジニアリング事業としての売上高が立つのではなく、電機・電子・機械の3部門に振り分けられることになる。
エンジニアリング事業を営業手法と説明したが、実体的な収益貢献も期待できる。その最も大きなものは収益性(利益率)の改善だ。前述の例になぞらえれば、お弁当やお惣菜に加工する分が付加価値となりその分の利益率は非常に高くなる。現状は付加価値部分の絶対額が小さいため利益率の押し上げ効果は限定的であるが、後述するようにエンジニアリング事業としての利益率は全社平均を明確に上回っている。エンジニアリング事業という営業手法が軌道に乗りつつある同社は、付加価値部分の拡大が次のステージにおける課題となってくるだろう。エンジニアリング事業の拡大はまた、保守・メンテナンスの需要を引き出すことも可能になる。さらにはリピートオーダーを生みだす可能性も高まると期待される。こうした関連需要や波及効果につながる点もエンジニアリング事業の大きなメリットだと弊社では考えている。
(2) 進捗状況
エンジニアリング事業の成長加速を狙って、同社は前中期経営計画時代から様々な取り組みを実施してきた。外部からの人材採用や数度にわたる組織改編などだ。直近の事例では、2017年10月にエンジニアリング部の組織を変更し、ロボット推進課、IoT推進課、監視制御推進課、自動認識推進課、電機技術課、技術サービス課へと再編した。また、3事業部門のうち、顧客や需要構造が近い電機部門と機械部門について、協業の意識と体制を強化すべく、社内的には「機電部門」と称するようになっている。
2019年3月期第2四半期に同社が改めて取り組んだことは「エンジニアリング事業」の再定義だ。これはエンジニアリング事業の規模や業績を、一貫性を持った数字で把握することが第1歩という観点からは非常に重要なことだ。この点について同社は、『商材の単品販売ではなく、2種類以上を組み合わせて販売したケースの売上高』と規定した。新定義のもとでは従来までの集計方法よりも50億円程度拡大したと推測されるが、重要なことは一貫性、継続性があることであり、今回の定義付けで今後はより正確に時系列で分析が可能になると言える。
2019年3月期第2四半期の実績は約55億円となった。2018年3月期通期実績の約126億円との比較では約44%の水準であり、進捗が前年同期よりも遅く見えるが、そこは必ずしも重要ではないと弊社では考えている。エンジニアリング事業は大型の設備案件などが入ることが多く、それだけ売上高の変動性が大きいためだ。むしろ弊社が注目し、かつ、最も重要だと考えているのは収益性(利益率)の動向だ。同社のエンジニアリング事業の定義に照らせば、単品販売に比べて付加価値分だけ利益が増加するはずだ。その利益がきっちり稼げているか、すなわち利益率が全社平均よりも高くなっているか、そこが重要な評価軸だと考えている。
今回同社は初めて利益率について開示した。それによると2019年3月期第2四半期はエンジニアリング事業の売上総利益率が14%近くにまで上昇し、全社平均の11.9%を3ポイント近く上回った状況にある。狙いどおりに順調に進捗していると評価できるだろう。なお利益率に関しては、大型案件の中には利益率が低い案件がしばしばあることには注意が必要だ。そうした案件はエンジニアリング事業となりやすいが、そうした場合にはエンジニアリング事業の収益性が表面上は低下する可能性がある。今後そうした例外的な大型案件が加わった場合には、それを除いたベースでの収益性も確認する必要があるだろう。
海外ネットワークと国際物流のノウハウを生かしてアウトソーシング・ニーズを取り込む。今期売上高100億円の大台乗せが視野に
3. グローバルSCMソリューション事業の進捗状況
(1) 事業の概要
グローバルSCMソリューション事業は、前中期経営計画『JUMP1200』で準備を進めたのち、今中期経営計画から正式にスタートした事業だ。しかしさらに遡れば、そのルーツはサンワテクノス<8137>が古くから行っている調達代行や物流代行、納期管理といったサービスに行き着く。その古くからのサービスを、同社の海外ネットワーク(13の海外現地法人・世界26拠点)を生かして収益事業へと進化させたものがグローバルSCMソリューション事業ということだ。典型的な例としては、ある顧客からの注文に応じて商品を配送する際、注文を受けた商品に加えて、顧客が同時に必要としているものを、同社のカタログ品/非カタログ品を問わず、一緒に配送するというケースが挙げられる。同社は各商品についてマージンを得て、あくまで収益事業としてこの事業を運営している。
グローバルSCMソリューション事業を推進する動機付けや意義としては、大手メーカーといえどもグローバル物流や在庫管理、資材調達等に関する人材が不足している状況がまず背景としてある。事業構造改革やリストラの過程でこの分野が削減対象となってきたためだ。しかし大手企業ほど効率的な生産体制を追求し、国をまたいだ事業移管などを頻繁に行っているという現実があるため、結果的にこれらの分野についてアウトソーシングのニーズが生まれることになるが、同社は長い歴史で蓄積したノウハウと海外ネットワークを生かしてその需要を取り込めるという構図だ。同社のグローバルSCMソリューション事業への潜在的ニーズは非常に大きいと弊社ではみている。
(2) 進捗状況
グローバルSCMソリューション事業もまた、エンジニアリング事業同様、順調な拡大が続いている。2017年3月期の売上高は約41億円だったが、2018年3月期は約72億円に達した。2019年3月期は約98億円の期初予想で臨んだが今第2四半期までのところ、計画線で推移しており通期予想に変更はない。グローバルSCMソリューション事業においても売上高100億円を1つの区切りとして当面の目標に据えているが、2019年3月期中の達成が視野に入ってきた状況だ。
2019年3月期第2四半期の具体的商談事例としては、1)ビジネスフォン向けカスタム電源の部材を日本からタイへ供給、2)航空機内AVシステム用のタッチパネルを台湾から日本へ供給、3)モバイルロボット生産部品をアメリカから日本へ供給、などがある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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