―大人用の生産量大幅増で危機感が上昇、脱炭素社会も強い追い風に―
使用済み紙おむつの再生利用に関する社会的な関心が高まりつつある。世界的に進む脱炭素に向けた流れやSDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどが背景にあり、紙おむつの リサイクルに取り組む自治体も増えている。環境省は今年8月、「使用済紙おむつの再生利用等の促進に関するプロジェクト」の検討結果を取りまとめた。2030年度までに紙おむつのリサイクルに取り組む自治体を現在の30程度から3倍の100自治体に増やす目標を掲げており、国も紙おむつなどの複合素材のリサイクル設備の導入を支援する。社会的な関心の高まりとともに、ビジネスチャンスの拡大も期待できそうだ。
●一般廃棄物に占める割合は30年度に7%へ
紙おむつメーカーなどで作る業界団体の日本衛生材料工業連合会によると、22年の紙おむつの生産量は乳幼児用が99億7600万枚、大人用が93億2000万枚だった。乳幼児用が17年の159億6300万枚をピークに減少傾向にあるのに対して、社会の高齢化を背景に大人用は増加基調にあり、10年前の12年に比べて48.2%増と大幅に増加。全体としても増加基調にある。
紙おむつは、素材としてはパルプ、樹脂、高分子吸収材(SAP)から構成され、使用後はSAPがし尿を吸収するためその重量は約4倍になるといわれている。当然、大人用は乳幼児用に比べて重量が大きくなり、環境省によると、一般廃棄物に占める使用済み紙おむつの割合は20年度時点では5%程度だったが、高齢化社会により今後排出量は多くなることが確実視され、30年度ごろには7%程度となると推計されている。
●脱炭素や資源循環で求められる再生利用
現在、一般家庭から出る使用済み紙おむつゴミは主に焼却処理されている。し尿などを含み、衛生上の問題があるためだが、焼却処理する際には、水分を大量に含んでいるため焼却炉の温度を下げてしまい、下がった温度を上げるために助燃剤を使用するなどでコストが余計にかかるほか、焼却炉を傷める原因になる。またその分、処理時に排出されるCO2も多くなるといった問題を抱えている。ただ、パルプ、樹脂、SAPも再生利用は可能であることから、資源循環の観点からもリサイクルの推進が求められている。
そのため環境省では、20年3月に「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を作成し、再生利用に関する周知を強化。また、「プラスチック資源・金属資源等のバリューチェーン脱炭素化のための高度化設備導入等促進事業」の一環として、紙おむつなどの複合素材のリサイクル設備の導入の支援を行うほか、実証事業に対する補助なども実施している。これらの施策により、徐々にだが自治体などの意識も変わりつつあるが、実際に実施している自治体は少ないのが現状だ。
●使用済み紙おむつ再生利用で先行する自治体
一方で、既に使用済み紙おむつの再生利用に取り組む自治体としては、福岡県大木町がトータルケア・システム(福岡市博多区)と組んでパルプを建築資材へ、樹脂とSAPはRPF(古紙及び廃プラスチック類を主原料とした固形燃料)へ、汚泥は土壌改良剤として再生利用を実施している。また、鹿児島県志布志市はユニ・チャーム <8113> [東証P]と組んで、パルプやSAPは紙おむつの素材として、プラスチックは回収袋・回収ボックスなどとして再生利用を行っている。更に鳥取県伯耆町ではスーパー・フェイズ(鳥取県伯耆町)と組んで素材を全量RPFとして再利用している。
紙おむつのリサイクルに関連する銘柄はまだ少ないものの、今後こうした自治体が増えるにつれてその裾野も広がりをみせると思われる。既に取り組みを始めている企業から注目してみたい。
●花王、ユニチャームなどに注目
花王 <4452> [東証P]は京都大学と21年から「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の確立に向けた実証実験を愛媛県西条市の協力のもとに進めており、25年以降の実用化を目指している。使用済み紙おむつを炭素化することにより殺菌と消臭ができるほか、体積が大幅に減るため回収頻度を減らすことができるという。また、紙おむつを燃やすとCO2が発生するが炭素化によって炭化物に炭素が固定化されるため、環境負荷も低減されるという。同社ではSAP大手の三洋化成工業 <4471> [東証P]などと共同で炭素化した使用済み紙おむつの炭素素材への変換にも取り組んでおり、炭素素材に変換されれば土壌改質剤などにリサイクルが可能になるとしている。
栗田工業 <6370> [東証P]は、千葉県松戸市の紙おむつ(事業系一般廃棄物)の回収・リサイクル事業にサムズ(千葉県松戸市)と連携して取り組んでおり、サムズと特許実施契約書を締結し、使用済み紙おむつの分別処理装置「クリタサムズシステム」を開発。今年11月からは同装置の事業展開を本格的に開始した。使用済み紙おむつを殺菌・洗浄し、プラスチック類とパルプ類に分別処理することにより再資源化を可能にするもので、同装置を利用することで廃棄物量や焼却に伴うエネルギー消費量、CO2排出量の削減が見込めるという。同社では廃棄物処理業者や地方自治体を中心に販売を進める方針だ。
ユニチャームは、15年に使用済み紙おむつを再資源化するプロジェクトを始動させ、16年12月に前述の鹿児島県志布志市や同県大崎町と実証実験を開始した。同社では使用済み紙おむつから、パルプやSAPをリサイクルする技術を確立。リサイクルしたパルプやSAPにオゾン処理を施すことで、再度紙おむつに利用する。また、22年5月には、リサイクルパルプを原材料に使用した介護用紙おむつを生産し、南九州地区の介護施設に向けて出荷するなどしており、同社が目指す循環型モデルの構築に向けて着実に進捗している。
メタウォーター <9551> [東証P]は今年3月、ユニチャームと紙おむつのリサイクル事業で協働すると発表した。オゾン処理の反応効率を高める独自技術を活用することで、使用済み紙おむつからパルプへの再資源化におけるオゾン処理の効率化を図る。紙おむつのリサイクル設備のほか、工場の排水処理装置の開発などにも生かせる技術であることから、新たなビジネスへの活用も期待されている。
このほか、破砕機構付き紙おむつ処理機を開発し、愛知県豊田市などで社会実験を行ったLIXIL <5938> [東証P]、今年5月に静岡県掛川市と廃棄物の削減や紙おむつのリサイクルに取り組む協定を結んだアミタホールディングス <2195> [東証G]などにも注目したい。
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