1. 中期経営方針
エノモト<6928>は、2017年3月期から2021年3月期までの5年間の、事業運営の指針となる中期経営方針を策定している。「新たな価値の創造~他社が真似のできないものづくりを追求する~」を掲げ、同社が培ってきた技術力を最大限に活かし、さらに上のステージへ踏み出していくための決意が込められていた。結果として、大きな中間目標であった東京証券取引所1部上場を達成し、新型コロナウイルスという波乱要因はあったが、経営基盤の盤石化も進展した。こうしたサイクルを考慮すると、現在同社は、2022年3月期を初年度とする5ヵ年の中期経営方針を策定中だと思われる。前述したように、スマートフォンやウェアラブル向けなど超精密コネクタなどが独壇場に近い状態になるなど、飛躍に向けての材料がそろってきた。したがって、次期中期経営方針では、津軽工場など能力増強投資や新規事業である燃料電池の収益化に向けた具体的戦略が示されることになると思われる。
3年後に30億円、5年後は60億円の増収を狙う
2. 津軽工場増築計画
津軽工場は操業開始以来、プレス加工及び射出成型加工を手掛けており、リレー用部品、LED用リードフレーム、狭ピッチコネクタ部品の製造販売を行ってきた。中でも特に同社が優位性を誇る世界最高水準の超精密加工により大量生産している狭ピッチコネクタ部品に関して、昨今、同社のキャパシティを超えるほどに非常に強い需要が発生している。また、スマートフォンやウェアラブル向けの狭ピッチコネクタは、中長期的に市場が拡大すると予測されている。このため、同社は津軽工場を増床することを決定した。津軽工場は、現状すでに世界最高水準の小微細プレス及び樹脂成型加工技術、メッキ加工設備を有し、一貫生産が可能な体制となっているが、今般の増床により生産能力を2~3倍に増強する計画である。加えて、スマートファクトリー化することで自動化によるコストダウンを推進するとともに、メッキ工程での環境対策、働き方改革に対応する労働環境、万一に備えた災害対策なども施す予定である。建物や機械・装置など投資総額は3,101百万円(機械・装置は5年をかけて導入する予定)で、工場床面積を現状の約2倍となる15,938平方メートル、3年後30億円、5年後60億円の売上高の積み上げを狙う。工事着工は2021年1月中旬、竣工は2021年11月末を予定している。
再注目される水素燃料電池の基幹部品
3. ガス拡散層一体型金属セパレータ
同社は、どのメーカーもそうであるように、新規事業のシーズをいくつか抱えている。その中で期待されるのが、PEFC(固体高分子形燃料電池)用の新型の「ガス拡散層一体型金属セパレータ」で、山梨大学との共同開発で早期の実用化を目指している。新エネルギーと言えばどうしてもEV(電気自動車)が注目され、FCV(燃料電池自動車)は過去のものという印象があるが、EVには充電時間や持続時間という課題が残されており、その点で優位性のあるFCVが現在見直されているところである。水素ステーションが高額になるという課題はあるが、トラックやバスなど長距離輸送、フォークリフトなど庫内搬送のほか、ドローンへの搭載も検討されている。小型化が進めば電動自転車にも使いやすく、意外にも用途が広い。現状、新型コロナウイルスの影響で進行が見えないが、実用化は近づいている模様で、2019年に調達したグリーンローンで中量生産ラインを構築、有力メーカーが多いと目される提携先と新セパレータ構造の評価に入っている段階で、中長期的には大量生産への期待も高まっている。なお、同社の「ガス拡散層一体型金属セパレータ」は、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点からも、評価できる製品と言える。
withコロナの時代も大きく広がる成長余地
4. 中期成長イメージ
withコロナの時代になったとしても、5G普及に伴うIoT需要の拡大や、EV・FCV・ADAS(先進運転支援システム)など自動車の電装化率の上昇などを背景に、超精密加工・大量生産・品質管理で評価の高い同社製品へのニーズはますます強くなると思われる。高機能化や超精密化など顧客メーカーからの技術的要求も強まるなら尚更である。中長期的に、IC・トランジスタ用リードフレームの市場は成長が続くことに変わりはないと考える。特に車載用は、モーターやセンサー、軽量化など改善課題が依然として非常に多く、同社の技術力がこれからも随所で発揮されるからだ。延期された東京オリンピック・パラリンピック向けに一巡感のあるオプト用リードフレームの市場は、設備投資動向による回復期待に加え、高付加価値品や医療向けの需要拡大も期待されている。コネクタ用部品は、スマートフォン向けの需要変動が大きくなる可能性はあるが、IoT技術の一般化とともにウェアラブル向け需要は引き続き拡大が見込まれる。
こうした市場環境に対応できる精密部品メーカーは、前述したように、超精密なコネクタ部品を継続的して安定的に大ロット生産できるうえ、顧客からの様々な要求にも対応できる同社をおいてほとんどないと言える。このため、同社に超精密コネクタの注文が集中する状況になるのは理解できる。さらに、省エネ化の観点から電源制御に使われるパワー半導体が見直されている。水素燃料電池の基幹部品「ガス拡散層一体型金属セパレータ」の実用化が迫りつつある。軽量化など技術のブレークスルーの材料も数多く有している。同社の高い技術が周辺分野で新たなニーズを生み出しており、したがって今後、津軽工場以外でも増強投資に迫られる可能性が高まってきていると考える。もちろん投資先行のため費用負担はあるが、同社の場合、売上が見えている投資がほとんどのためリスクは小さい。増強投資でより高付加価値される製品も多いことからスケールメリットが得られやすい。また、コストダウンへの想いはどのメーカーよりも強く、津軽工場でも推進するスマートファクトリー化を、増強投資とは別に他の工場でも推進することになると思われる。但し、量産工場の単純な自動化は既製のハードとソフトを組み合わせれば済むが、本来職人の匠の技が必要な超精密なオリジナル金型の自動化は、独自ノウハウが必要で非常に難易度が高く、自動化されるほど差別化が進む。以上のように、成長市場における売上拡大余地、高付加価値化、地道なコストダウンにより、withコロナの時代に同社の中長期的な成長余地は大きく広がりそうだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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