―世界的な「脱炭素」が加速、テスラというモンスター誕生が示唆する次のステージ―
●250兆円の巨大市場が地殻変動を起こす
「脱炭素社会」の実現に向けて世界的な取り組みが本格化してきた。とりわけ次期米大統領の座が確実視されている民主党バイデン氏がクリーンエネルギーへの大規模投資を政策の目玉として打ち出し、地球温暖化を防ぐ国際的枠組み「パリ協定」に復帰する意向を示している。日本でも菅政権がバイデン次期政権の成立を前に、パリ協定を視野に入れながら、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を表明している。
こうした環境規制の高まりを背景に最も注目が集まりやすいのが、ガソリン車をエコカーへとシフトする動きだ。世界規模で250兆円といわれる膨大な自動車市場において、いずれガソリン車のほとんどが電気自動車(EV)などを中心とするエコカーに代替されていくというシナリオは経済的にも産業構造を変えるインパクトがある。自動車周辺で素材やエレクトロニクスにかかわる企業などにも膨大な需要シフトを生むことになる。
●世界中で同時進行する“EV信仰”
日本の場合、二酸化炭素排出量全体のうち自動車分は全体の約6分の1程度を占めているといわれる。そうしたなか、東京都の小池百合子知事は8日の都議会で、都内におけるガソリン車の新車販売について乗用車は30年までに、二輪車については35年までにゼロとする方針を打ち出し、EVやハイブリッド車(HV)などへの切り替えに本腰を入れる構えをみせた。また、これに後押しされるように国も間髪を入れず動き出した。経済産業省では10日、30年代半ばまでに国内の新車販売をすべて電動車とする目標設定に向けて議論を開始し、年内にも一定の結論を導き出して、温暖化ガス排出削減の実行計画などに反映させる方針が伝わっている。
海外でも環境規制強化を背景としたEVシフトの動きが加速している。中国政府は35年をメドに新車販売のすべてをEVやHVなどの環境対応車にする方向で検討を進めているほか、欧州でも同様の取り組みをみせている。フランスでは40年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する計画だが、英国はガソリン車とディーゼル車の販売禁止の時期を従来の35年から30年に前倒しすると11月に発表した。もともとは40年までに禁止するという方針で5年前倒ししたものを、更にそこからもう5年前倒ししたことになり、その本気度がうかがえる。もちろん、EV先進国である北欧も英仏などと同じく積極推進する姿勢をみせていることはいうまでもない。
こうした状況下で、欧州ではEVなどの電動車の市場が急拡大しており、今年は1月から10月までの販売台数が前年同期比2倍強に膨らみ、中国を抜いて世界最大の市場になったことが報じられた。域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする長期目標達成のために、EU(欧州連合)がゼロエミッション車を30年までに最低3000万台普及させる計画を打ち出したこともあって、今後も中国と並んで世界的なEV関連株人気を牽引する思惑の源となりそうだ。
●怪物テスラはGAFAMのすぐ後ろに迫る
そして、EVといえば何といっても米テスラの存在が大きい。現在の時価総額は日本円にして約56兆円(11月末現在)に達している。トヨタ自動車 <7203> を上回る云々というレベルではなく、既にトヨタ(時価総額約25兆円)を2社持ってきて積み重ねても届かない高みにある。もちろん日本の自動車メーカーを束にしても遠く及ばない。米国ではテスラを上回る時価総額の会社はGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の5社以外にない状況にある。
これをバブルと呼ぶのは簡単だが、そうとも言えない部分もある。なぜなら、ソフトウェアとデータで武装したテスラは、もはや自動車メーカーとして比較されるのではなく、CPUを取りまくEVというコンピューターの塊を作る会社として、その比較対象はGAFAMとなっているからだ。逆の側から俯瞰した場合、EVというテーマは、250兆円規模の世界の自動車市場を礎とした新たなコンピューター産業の創出を意味する。
いま東京市場で繰り広げられている“EV祭り”はまだ最初の演目が終わったあたりに過ぎないかもしれない。日本電産 <6594> は、日本におけるEV関連の代表格としてその存在を不動のものとしているが、日本版テスラとはなり得ない。マーケットはまだ地に埋もれているダイヤの原石を探している。今回は東京市場でEV関連(周辺株)としての認識がまだ浸透していないと思われる、上値妙味十分の穴株を8銘柄選抜した。
●次の舞台を駆ける有力候補はこの8銘柄だ
◎関東電化工業 <4047>
古河系列の特殊ガス大手で、独自フッ素系や塩素系技術を手掛けているのが特徴。電池材料ではEV向け2次電池で現在主流であるリチウムイオン電池用電解質の六フッ化リン酸リチウムを供給している。足もとの業績は低迷しているが、21年3月期も14円配当を実施する計画で財務基盤は強固だ。22年3月期業績は大底離脱で大幅増益に切り返す公算大。株価は出遅れ顕著で、2月につけた年初来高値1070円からみても戻り余地は大きい。
◎シンフォニア テクノロジー <6507>
電子精密機器などの製造を手掛け、振動機や半導体用搬送装置などが得意。自動車用試験装置分野でも高い実績を持っており、インバータ負荷シミュレータなどEV用試験装置で幅広く需要を獲得している。株価は年初来高値圏に浮上した矢先だが、長期波動で見ればかなり出遅れ感が強い。昨年4月の高値1626円奪回が第1目標。足もとの業績は苦戦しているものの、ブランド力を考えればPERやPBRなど指標面で割高感はない。
◎戸田工業 <4100>
顔料及び磁性粉末材料のトップメーカーで、デジタル用に重心を置いている。業績は21年3月期も営業赤字の見込みながら、筆頭株主はTDK <6762> で買い安心感がある。EV関連としてはリチウムイオン電池正極材で独BASFと協業して高シェアを確保、ワイヤレス充電向け部品の量産も計画。株価は今月に入って年初来高値を更新したが、日足一目均衡表の雲を抜き去って視界は良好、ここからの上値余地に期待がかかる。
◎エイチワン <5989>
ホンダ系の自動車部品メーカーで車体骨格部品を主力としている。EV対応でも車体軽量化による消費電力の低減と同時に、強度・耐性の維持など軽量化技術と設計ノウハウで業界内でも優位性を確保、ホンダ向けを中心に需要開拓が期待される。足もとの収益は厳しいが、中国新興EVメーカー向けなどで商機が高まっており、22年3月期は売上高、利益ともにV字回復が見込まれる。0.4倍未満のPBRは株価の見直し余地を暗示する。
◎SEMITEC <6626> [JQ]
温度センサーの専業メーカーとして家電や産業機器のほか、医療機器や自動車向けなどで高い実績がある。エレクトロニクスの塊であるEVはセンサーも重要な部品のひとつ。同社の手掛ける形状が均一で自動実装への対応が可能な高感度サーミスタなど今後EV向けで需要を捉える公算が大きい。21年3月期営業利益は前期比75%増益を見込むが上期実績から一段の上乗せも見込める。株価は6000円近辺を踊り場に一段高へ。
◎大豊工業 <6470>
トヨタ系自動車部品メーカーで軸受けやアルミダイカスト製品、金型などを製造。21年3月期業績はコロナ禍で大きく落ち込むことは避けられないものの、中国の自動車販売回復を背景にトヨタ向けが復調し、22年3月期はⅤ字回復が視野に入る。モーターやEV向けバッテリーなど電動化製品への取り組みを抜かりなく進めている。株価に値ごろ感があり、今期減配でも3%前後の高配当利回りを確保し、PBR0.35倍は格安だ。
◎三井ハイテック <6966>
半導体リードフレーム大手で金型技術では超精密加工で抜群の実力を有する。EV向け駆動用のモーターコアの商品競争力が高く、今後同社の業績を強く後押しすることになりそうだ。株価は今から34年前の1986年4月に3443円(修正後株価)で最高値をつけたが、目先好決算を受けストップ高を演じ、その水準をわずかに上回り一気に青空圏に突入した。21年1月期営業利益は26億円(前期実績1900万円)と急拡大する見通し。
◎マクセルホールディングス <6810>
産業用部材のほか美容家電なども手掛ける。また、コイン電池で高い商品競争力を持つ。出資先企業が車載用リチウムイオン電池を生産し、日産自動車 <7201> の新型「ノート」向け採用を決めている。また全固体電池では、ウェアラブル端末や医療機器向けではあるが来年にコイン型製品を量産する計画にある点も注目。株価は週足ベース一目均衡表の雲抜け目前であり、中期スタンスで1月の年初来高値1566円奪回から一段の上値が有望。
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