ワコム<6727>ではESGや持続可能な社会への取り組みを重視して、「社会への取り組み」への基本的な考え方や具体的な活動を同社ホームページに開示している。特徴的なのは、同社のテクノロジーをビジョンとして掲げる「ライフロング・インク」と関連付けているところである。人が一生の間に積み重ねていく「書く/描く」体験を支え、未来に伝えていくことを通じて、持続可能な社会に寄り添っていくところに同社の存在意義や価値創造の源泉があると認識している。人々の日々はもちろん、クリエイティブからビジネス、教育の分野まで幅広い「ライフロング・インク」の可能性※を様々なコミュニティのパートナーとともに追求することで、ユーザーとともに同社自身の持続的な成長にもつなげるものと言える。
※例えば、教育分野であれば、学習中の視線データとペンの動きから生徒個人の学習特性を解析し、個人に合わせた学習環境を提供する「教育向けAIインク」をパートナーとともに開発している。
また、世界各地の拠点で生活する個々の社員とローカルコミュニティとの関わりを大切にするとともに、環境に配慮したオペレーションと商品開発にも取り組む。社会の未来像についても、1社だけでなく、アルスエレクトロニカ※1などのコミュニティとともに提案を続けていく。また、STEAM教育※2や探求型学習※3に対する技術サービスについても社会実装する方針である。
※1 世界的なクリエイティブ機関であるアルスエレクトロニカは、オーストリアを拠点に40年以上にわたり「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」について提案を続けている。
※2 社会の潮流となりつつあるSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育を構成するArtの領域で、AI技術を活用してクリエイターの創作活動を可視化することにより創作活動の学びにつなげることが可能となる。
※3 例えば、プログラミング教育とデジタルペンを組み合わせて生徒個人のインクデータの軌跡をAI技術で解析することにより、論理的な思考能力の育成につなげることが可能となる。
気候変動への対応についても、環境経営における重要な課題として捉えており、気候変動イニシアティブ(JCI)へ参加し、CO2排出量を年率4%削減(基準年:2014年度)することにより、2030年度に達成すべきCO2排出量目標も公表している。そのなかで、温室効果ガスの削減とCO2排出量(Scope1、2、3)等の環境パフォーマンスの情報公開にも取り組むとともに、気候変動が事業環境に及ぼすリスクや機会の分析を踏まえた事業活動を行っている。また、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減につながる行動を、「ワコムサプライヤー行動規範」への賛同と実践を通じて取引先にも要請している。そして、年々増加している水害などの自然災害により企業活動が制限されるリスクに対しては、BCPを策定し対応を進めている。それらを踏まえ、2023年4月13日にはTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明した。
同社は、ESGを中心に統合報告書の要素も一部カバーする冊子として、同社の理念や社員の思い、ユーザーの声などを一連のストーリーとして伝える「Wacom Story Book」※を発行している(創刊号の発行は2023年5月)。
※同社が大切にしている価値観の紹介を皮切りに、同社の商品企画や技術開発の軌跡をチームメンバーが語るとともに、様々なコミュニティパートナーやアーティストの声、作品、事例なども掲載している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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