(2)ブランド製品事業の詳細動向
ブランド製品事業の2020年3月期通期は、売上高46,500百万円(前期比2.3%増)、セグメント利益2,800百万円(同53.7%増)を予想している。前期比増収増益予想ではあるが、8月予想に比べて、売上高で2,150百万円、セグメント利益で500百万円、それぞれ引き下げられた。
中核のクリエイティブビジネスの売上高は、全体では40,670百万円(前期比7.3%増)を予想している。製品カテゴリー別では、ペンタブレット製品を19,330百万円(同7.4%減)とみており、8月予想から2,100百万円下方修正している。ペンタブレット製品は中低価格帯で他社との競合が激化してきていることに加え、ペンタブレット製品からディスプレイ製品へという需要シフトも起こっており、これがワコム<6727>が見通しを慎重に変えた理由とみられる。
ディスプレイ製品は19,380百万円(前期比34.5%増)と大幅増収を予想している。2019年1月発売の16インチサイズのエントリーモデルに加え、7月に発売した22インチサイズのシリーズも好調で、クリエイティブビジネスのみならずブランド製品事業全体のけん引役としての期待が高まっている。計画通りに推移すればペンタブレット製品を抜いて最大売上構成比の製品になる見通しだ。
モバイル製品は1,960百万円(前期比24.7%減)を予想している。8月予想からは290百万円の上方修正となったが、依然として右肩下がり基調が続いている。モバイル製品は、この商戦期に向けてマイナーチェンジに留まる新製品を投入したが、主力のプロユーザーへの価値遡求ポイントが、5Gを睨んだ通信環境変化の影響を大きく受ける可能性があり、中期的な移行期に入っているとも考えられることから、苦戦が続いている。
コンシューマビジネスとビジネスソリューションの2020年3月期通期の売上高は、それぞれ1,450百万円(前期比38.4%減)、4,380百万円(同15.7%減)を予想している。いずれも8月予想からは下方修正となっている。コンシューマビジネスは、事業展開について多くのユーザーを獲得するために、技術の標準化に向けた戦略に軸足を移していくための転換に取り組んでいることが大幅減収の要因とみられる。ビジネスソリューションは、海外市場で需要端境期にあたっていることに加え、端末の価格競争や決済分野におけるサイン以外の認証技術との競合が減収の背景とみられる。
利益面では、セグメント利益見通しを8月予想から500百万円引き下げた。これは売上高の引き下げに呼応したものだ。2020年3月期に入って、米国の対中追加関税措置に象徴される生産地の集中リスクに対する取り組みとして一部製品の生産ラインを中国から移管したが、この影響は限定的とみられる。足元では米中貿易摩擦をめぐって緩和方向で動き始めているが、こうした動きが続いて為替レートの円安や関税措置撤回や関税引き下げとなれば利益押し上げ要因になってこよう。
(3)テクノロジーソリューション事業の詳細動向
テクノロジーソリューション事業の2020年3月期は、売上高47,500百万円(前期比7.8%増)、セグメント利益6,700百万円(同0.6%増)を予想している。8月予想との比較では、売上高が650百万円、セグメント利益が500百万円、それぞれ上方修正となった。
スマートフォン向けの売上高は前期比1.6%増の18,550百万円を予想している。8月予想から650百万円の上方修正となった。最新モデルのGalaxy Note 10向けの出荷が需要の早期化で7-9月に拡大した反動もあり、下期は上期から大きく減少する見通しとなっている。
タブレット・ノートPC向けは28,950百万円(前期比12.2%増)を予想している。これは8月予想から変更はない。下期の売上高は14,971百万円(前年同期比25.3%増)となっている。同社はテクノロジーソリューション事業については“ベースライン”という思想のもと、受注・売上が確実な案件のみを計画に織り込むというスタンスだ。それゆえ25.3%増という下期計画には信頼性があると考えられるが、25.3%増という増収率と市場全体は前年比割れの状況にあることからすると、これ以上の上振れは期待しにくいと弊社ではみている。
利益面では、通期のセグメント利益見通しを6,700百万円(前期比0.6%増)としている。8月予想から500百万円の上方修正となったが、これはスマートフォン向けペン・センサーシステムの売上増に伴うものとみられる。下期だけを取り出すとセグメント利益予想は1,595百万円(前年同期比23.6%減)と減益が予想されている。これは2021年3月期以降に向けて研究開発投資を積極的に行うことなどが要因だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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