1. ビジネスソリューション事業
(1) ERP市場、クラウド市場の概況
国内ERPパッケージライセンス市場は、市場規模1,185億円(2017年度予測)、大企業の基幹システム再構築や中堅・中小企業の業務効率化ニーズを背景に前年比4.8%(同)で安定成長している。SAPジャパン(株)や日本オラクル<4716>などの外資系が大企業向けに強く、オービック<4684>やオービックビジネスコンサルタント<4733>などの国内勢は中堅・中小企業向けに強い傾向がある。以前は、オンプレミス(自社保有・運用)の代表であったERPだが、現在ではクラウド化が急速に進む。クラウドの安定性やセキュリティの不安が低減し、トータルコストの削減や早期導入などのメリットがその背景にある。オロ<3983>の提供するソリューションは、中堅・中小企業向けのクラウド型システムであり、ERP市場の中でも成長分野に位置付けられる。
日本は労働生産性がOECD諸国で20位(2016年)であり、特にホワイトカラーの労働生産性には課題がある。今年は働き方改革の元年と言われ、生産性向上は注目が高い。労働生産性の向上には、業務効率化や経営の見える化が必要であり、ERPなどのITシステムが有力な解決策となる。
(2) 「ZAC Enterprise」の特長
「ZAC Enterprise」は、企業内における販売・購買・勤怠などの各種業務処理の効率化を支援する統合基幹業務システムである。業務効率向上、収支管理レベルの向上、内部統制、管理会計に基づく経営判断の支援などの導入メリットを実現する。同システムでは、多数の業種において必要とされた機能や商習慣に対応するための機能を「パラメータ」という項目を追加して実現する製品設計方針を採用している。ユーザー企業は自社の機能要件に合致するパラメータを選択・調整することで自社業務に適合するシステムを作り上げることができる。パラメータはユーザー企業からの要望により豊富になり、新たに追加されたパラメータはユーザー企業間で共有される。このようなパラメータ設計によりシステム自身の持続的成長が可能な点が同システムの最大の強みである。研究開発は継続的に行われており、直感的なUI(ユーザーインターフェース)変更、マルチデバイス対応、業務の自動化・可視化、多言語対応、AI技術の取り入れ、RPAへの対応などが進行中である。AI技術に関しては、「機械学習による入力効率化の支援」を進めており、次のステップは「AIによる人間の意思決定の支援」に挑戦していく。
(3) ビジネスモデル
「ZAC Enterprise」はモジュールごとに1ライセンスの価格が決まっており、価格には買取価格とSaaS価格(月額利用料)があり選択できる。4つの基幹業務系モジュールは、多くの顧客企業が導入するモジュールであり、販売管理、購買管理、勤怠管理、経費管理から成る。このほかに在庫管理やファイル管理の機能、情報共有系モジュール、オプション機能がある。新規顧客からはライセンス買取収入と導入支援料が入り、ビジネスソリューション事業売上の41%(2017年12月期)である。既存顧客からは、月額利用料やソフトウェア保守料のほか、データセンター使用料とともにライセンス追加などのスポット収入もあり、同事業売上の59%を占める。全体としてストック型の収入比率が高く、売上は安定して積み上がる傾向にあり、導入時のカスタマイズが少なくて済むクラウドシステムのため、導入企業の増加に従い収益性が高まる。
(4) 導入企業の特徴と事例
導入企業の業種は多岐にわたるが、ソフトウェア・IT業界、コンサルティング業界、広告業界、Web・映像コンテンツ業界などが主要な顧客層である。これらの業界の特徴としては、プロジェクト型の業務が多く、プロフェッショナル(専門性の高いホワイトカラー)が連携して効率的に業務を遂行することが求められる。また、導入企業には上場前の成長企業が数多い。その理由として、同システムを導入することにより、稟議をはじめとする内部統制の仕組みを組織に定着させることができ、上場基準のクリアに役立つことが挙げられる。導入事例としては、(株)JALインフォテック(IT)、(株)アイ・エム・ジェイ(デジタルマーケティング)、日宣<6543>(広告、2017年2月上場)、みらいコンサルティング(株)(コンサルティング)、カヤック<3904>(ソーシャルゲーム・アプリ開発)、ベクター<2656>(ゲーム・ソフトウェア販売)などがある。
(5) 稼働ライセンス数の推移
「ZAC Enterprise」の稼働ライセンス数は、2017年12月期末時点で120,000を超え、増え続けている。その増加ペースは、2014年12月期末からの3年で約2倍になった。
(6) 売上高、営業利益の推移
過去3年間のビジネスソリューション事業の業績は、売上高は順調に成長し、営業利益率も向上し、2017年12月期通期は36.2%に達している。
2. コミュニケーションデザイン事業
(1) ワンストップフルサービスで大企業のデジタルマーティングニーズを満たす
コミュニケーションデザイン事業は、主に大企業を対象に組織・企業のコミュニケーション戦略の立案、実行を支援する。上流設計、実装、運用支援までをフルサービスで提供できるのが同社の特長となっている。上流設計フェーズでは、市場調査・分析、戦略策定・KPI策定などが提供サービスとなる。実装フェーズでは、WebサイトやSNSの構築とともにWebシステムの構築を得意としており、基幹システムを支える開発力が発揮される。運用フェーズでは、WebサイトやSNSの運用とともに、アクセス解析やWeb広告の運用、さらにはCI開発などのブランディングから紙媒体製作、イベント実施なども業務範囲となる。国内のニアショア拠点(宮崎、札幌)、海外のオフショア拠点(大連)と連携してコストマネジメントを強化し、収益性の高い内製体制を構築している点も大企業から信頼を獲得するポイントとなっている。
同社のコミュニケーションデザイン事業における強みを整理すると、以下の4点が挙げられる。
a) ワンストップフルサービス
b) 信頼性の高いシステム開発力
c) ニアショア、オフショアによるコストマネジメント
d) インバウンド需要、海外戦略への対応力
(2) 豊富な実績
コミュニケーションデザイン事業の成長は、2004年から続くイオングループと継続的な取引関係を抜きには語ることはできない。全国各地のイオンモール<8905>やイオンショップ(イオンリテール(株))に加えてイオンペット(株)などのイオングループ関連のWebサイト構築・運用から、SNSの構築・運用、実店舗でのイベント支援、さらにはイオングループのASEAN強化に合わせた現地でのデジタルマーケティング支援など様々な案件でイオングループからの受託案件を行ってきた。売上比率では、コミュニケーションデザイン事業売上の約3割がイオングループからである。一方、小林製薬<4967>、(株)三菱東京UFJ銀行、大幸薬品<4574>、デサント<8114>、イトーキ<7972>、ピーチ航空(Peach Aviation(株))、日産自動車<7201>など顧客企業を徐々に増加させておりイオングループ比率は年々下がる傾向にある。
(3) ビジネスモデル
既存顧客(大手企業)からの運用業務が、同事業の売上構成比で50%(2017年12月期)を占めるため安定感がある。さらに既存顧客からは、スポット業務も受注しており、売上構成比で32%(同)になる。本事業においても同社の強みは、信頼性の高いシステム開発力であるため、新規顧客売上を増やすためには人材の確保が課題となる。新規顧客売上は、売上構成比で7%(同)と比較的小さく、既存顧客の業務で十分な成長余地がある。
(4) 売上高、営業利益の推移
過去3年間のコミュニケーションデザイン事業の業績は、売上高は堅調に推移しているものの、営業利益率は振れ幅が大きい。2016年12月期は、新サービス開発費用を計上したために収益性が下がった経緯がある。2017年12月期に関しては上半期に赤字案件が発生したことが利益率に影響した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)
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