―脱炭素実現に向けたキーデバイス、日本の強みを最大限発揮できる半導体の未来図―
週末3月31日の東京市場はリスク選好の地合いとなり、日経平均株価は反発しフシ目の2万8000円大台を回復した。取引後半は手仕舞い売りで上げ幅を縮小したものの、それでも引け際に締まり約3週間ぶりの高値で着地した。米銀の相次ぐ破綻に始まった金融システム不安に対する懸念が後退し、前日の欧米株市場がほぼ全面高に買われたことで投資家のセンチメントが改善している。
前日に日経平均は4日ぶりに反落したとはいえ、配当権利落ち分を考慮すれば実質プラス圏で引けており、この日まで約1週間にわたって上値指向の相場が続いたことになる。来週からは名実ともに新年度相場が始まる。4月は海外投資家の買い意欲が活発化する月であり、目先押し目形成場面があれば強気に対処して報われそうだ。
●半導体セクターに見直しムード漂う
そうしたなか、個別株もテーマ物色の動きが旺盛である。今週は人工知能(AI)関連株に対する買いの勢いが一気に強まったが、期末の配当権利取り狙いの買いを除けば、金利上昇局面が一服したことを受けグロース(成長)株に改めてスポットライトが当たっている。米国株市場では半導体銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の上昇ピッチが速まり、直近で年初来高値を更新した。そして、この半導体セクターに対する見直しの流れが東京市場にも波及しようとしている。
特にここで注目しておきたいのは、日本企業が世界でも縦横自在に活躍するパワー半導体 分野の銘柄だ。最近ではシリコンカーバイドなどを素材として活用した次世代パワー半導体に注力する動きが企業の間でも活発化している。満を持してここはパワー半導体関連の有望株に照準を合わせてみたい。
●日本はパワー半導体分野で世界上位に
パワー半導体とは、データを扱うメモリー半導体とは異なり、電子機器へ電力を供給したり制御したりする役割を担う半導体であり、具体的にはモーターの駆動や、交流と直流の変換などを行うといった力仕事を担う。電源回路を搭載した電子機器すべてにパワー半導体が必須の存在となっている。産業機械だけでなくエレクトロニクス化が進む自動車向けで市場が拡大しているが、特に世界的な電気自動車(EV)シフトの動きを背景に伸びが顕著となっている。メモリー半導体市況が在庫調整局面に入っている現在でも、パワー半導体市況の方は陰りを見せず拡大の一途をたどっている。
日本の半導体産業はメモリー分野においては往時の面影はないが、パワーデバイスという範疇で見れば三菱電機 <6503> [東証P]や富士電機 <6504> [東証P]、ルネサスエレクトロニクス <6723> [東証P]、ローム <6963> [東証P]といった企業が売上高シェアで世界の上位10傑に食い込んでいる。脱炭素 社会への取り組みが世界的に進むなかで、産業用電源やEV用途で使われるパワー半導体の開発・製造は日本のお家芸といってもよく、株式市場でも有力な投資テーマとして常に注目度が高い。
●脱炭素で次世代材料がクローズアップ
そうしたなか、従来のシリコン半導体に加えて、性能面で優れる次世代パワー半導体にもマーケットの視線が集中している。代表的なものでは、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料として使ったもので、前者は絶縁耐圧がシリコンの10倍という強度を誇る。また、後者も同様に、絶縁耐圧が高いほか高速動作にも強く、高頻度で電流の切り替えが求められる産業用電源で優位性を発揮する。現状は、EV用にはSiC、産業用にはGaNという形で棲み分けがなされている。
世界的な脱炭素社会への取り組みは、パワー半導体の進化を促す契機ともなり得る。過去を振り返ると、半導体の歴史は常にコストダウンが大きな課題として立ちはだかってきた。パワー半導体も同様であり、次世代材料については、価格面で折り合いがつくようになれば一気に普及が進むことになる。
●「対中半導体規制」はむしろチャンス
この日(31日)は取引時間中に半導体関連セクターにはちょっとした逆風が吹いた。それは、経済産業省が、軍事転用の防止を目的に先端半導体の製造装置23品目を輸出管理対象に追加すると発表したことだ。この発表の意味することは、米国が日本とオランダに要請していた中国に対する半導体輸出規制の強化である。
日本の半導体製造装置 メーカーの商品競争力は世界トップクラスであり、ハイスペックの商品を中国に輸出することは安全保障の観点からリスクが大きいというのが米国の主張である。この発表を受け、東京エレクトロン <8035> [東証P]など一部の製造装置メーカーが株価を軟化させたが、総じて影響は限定的だった。これについて市場では「昨年来、米中摩擦が激化するなかで、半導体の対中輸出規制に向けた動きは繰り返されてきたことであり、何も目新しさはない。今回も日本がオランダに倣って米国の要請に従うことはマーケットに織り込まれていた」(準大手証券ストラテジスト)という。
株価的にもこの日、半導体製造装置関連の主力どころはほとんどプラス圏で引けた。「今回の決定に伴うマイナス効果は全体としては軽微。むしろ今後は、安全保障の観点から半導体設備を自国エリアで確保しようという動きが米国主導で強まる。これは、日本の製造装置メーカーの実力を浮き彫りとし、プラスの側面も大きい」(同)とする。
次世代パワー半導体も輸出規制の対象分野といえるが、これが市場の拡大トレンドに水を差すものでは全くない。米国をバックとする政治的な思惑も絡め、株式市場ではパワー半導体関連株が改めて脚光を浴びそうだ。今回のトップ特集では、ここから中期的に要注目となる関連銘柄を6銘柄選抜した。
●株式市場の表舞台へ躍り出る6銘柄はこれだ
【サムコはニッチトップとして中期大化けも】
サムコ <6387> [東証P]は電子デバイス関連の製造装置を手掛けるが、化合物半導体(次世代パワー半導体)を中心としたオプトエレクトロニクス分野での一頭地を抜く技術力は高く評価される。ナノレベルの膜厚制御性やカバレッジ性で優位性を持つ独自開発の新型ALD装置「AD-800LP」は、脱炭素実現に貢献するSiCやGaNを材料とした次世代パワー半導体のゲート酸化膜形成用として脚光を浴びている。このほか、量子デバイス用途などでも新型ALD装置の活躍余地は大きい。同社が有する「薄膜技術」はグローバル・ニッチトップ企業としての素質十分で早晩世界に名を馳せる可能性を内包している。足もとの業績も2ケタ増収増益トレンドにあり、23年7月期は売上高が前期比20%増の77億円、営業利益は同18%増の16億2000万円と好調だ。株価は直近急動意し、3月24日につけた4545円の上場来高値更新から青空圏へと飛翔しているが、押し目買いで対処したい。時価総額は400億円前後に過ぎず中長期大化けのシナリオも。
【TOREXはSiC素材強化の姿勢明示】
トレックス・セミコンダクター <6616> [東証P]は車載用や産業機器向けを中心とする電源ICのファブレスメーカーで、小型化や省電力技術に強みを持っている。傘下に完全子会社のフェニテックセミコンダクターを擁し、ディスクリート半導体及びパワー半導体を受託生産している。フェニテックではSiC素材の次世代パワー半導体の開発及び販売強化に力を注いでいる。21年3月期を境に業績急回復に転じているが、営業利益は22年3月期に前の期比で3.2倍化し、一気に過去最高を更新してマーケットの注目を浴びた経緯がある。23年3月期営業利益も前期比28%増の50億円を見込んでおり、連続大幅ピーク利益更新が必至となっている。24年3月期については、収益成長の踊り場となる可能性があるものの、時価予想PER7倍台は割安感が強い。21年11月の最高値から時価は40%も水準を下げており、値ごろ感も働きやすい。株主還元に前向きで、今期の年間配当は前期実績比で12円増配の56円を計画している。
【高田工は次世代バージョンの製造装置で高評価】
高田工業所 <1966> [東証S]は鉄鋼、化学、電力など幅広い業界に対応した総合プラントメーカーだが、パワー半導体などエレクトロニクス分野でも高度な技術力を発揮する。独自技術を駆使した製造装置を展開しており、そのなか、パワー半導体の成膜工程で、有機薬液を使いウエハーを1枚ずつ回転させながら表面処理を行う枚葉式ウエット処理装置が注目される。また、超音波カッティング装置は次世代パワー半導体や高周波デバイスの切断を行う装置として高い評価を獲得している。26年度を最終年度とする第5次中期経営計画では、外部との事業連携による更なる新規事業への展開も模索し業容拡大に虎視眈々。収益面でも23年3月期は急回復が見込まれ、営業利益段階で前期比69%増の20億3000万円を予想。24年3月期も増益基調を堅持しそうだ。一方、PERが6倍前後でPBR0.6倍台と指標面から割安さが際立っており、1300円台近辺の株価は上値余地が強く意識される場面だ。
【シキノハイテックはパワー半導体シフト鮮明】
シキノハイテック <6614> [東証S]は車載用を中心に半導体検査装置の製造や、LSI設計・開発などを主力展開する。車載用では、世界的なEVの普及を背景にパワー半導体分野の市場拡大が顕著で注力姿勢を明示、受託設計も市況が軟化しているメモリーからパワー半導体へのシフトを進めている。高温下で半導体を動作させ不良品を取り除くバーンインソリューションで高評価を不動のものとしており、電動化が進展する自動車向けで収益機会を広げている。業績は22年3月期を境に売上高、利益ともに急成長局面に突入。23年3月期売上高が前期比20%増の64億5000万円、営業利益は同49%増の5億9000万円を見込む。24年3月期も増収増益トレンドに変化はなさそうだ。株価は25日移動平均線をサポートラインとする下値切り上げ波動を形成し、時価3000円台半ばは買いのタイミングにあるとみたい。3月9日の戻り高値3955円奪回から4000円台活躍をにらむ。
【三益半導体は世界的メーカーとの取引活発】
三益半導体工業 <8155> [東証P]はシリコンウエハーの研磨加工を筆頭株主の信越化学工業 <4063> [東証P]から受託するほか、再生ウエハー事業も手掛け、電子デバイスや理化学機器の販売も行う。EVのモーター製造に使用される大口径シリコンウエハーや、EV向けパワー半導体の製造装置などが収益に寄与している。特に、パワー半導体製造装置については需要の減速が見られない。主要取引メーカーにはディスコ <6146> [東証P]、SCREENホールディングス <7735> [東証P]、ニコン <7731> [東証P]などの世界的な半導体製造装置メーカーが名を連ねている。業績は利益成長トレンドをまい進中で、23年5月期営業利益は前期比46%増の110億円予想と初の100億円台に乗せるとともに、2期連続で過去最高利益更新を果たす見込み。株価は年初から一貫して下値を切り上げ新値圏を快走しているが、PERは12倍強と依然として割安感があり、21年1月につけた3235円の上場来高値を早晩視野に入れる可能性がある。
【MipoxはSiCウエハー分野で新境地】
Mipox <5381> [東証S]は表面加工処理に使う液体研磨 剤大手で、好採算のウエハー用やHDD用などで高い実績を有する。また光ファイバー向け研磨フィルムにも展開。次世代パワー半導体では、ここにきて受託研磨(エッジ研磨・表面研磨)の引き合いが急増している状況にあり、商機を捉え案件獲得に力を入れている。また以前から、民間企業や公的機関と連携してSiCウエハーの新しい量産技術の確立に取り組むなど積極的な構えを見せる。業績は足もと低調で23年3月期は営業利益が1億円の損失(前期は14億6700万円の黒字)と小幅ながら赤字転落となる見通しだが、24年3月期は一般研磨剤の復調などで、再び収益は黒字化する公算が大きい。株価は今期業績下方修正を受け、2月中旬に急落を余儀なくされた。3月中旬から再び下げ足を強め同月23日には464円の昨年来安値を形成したが、その後は底入れが鮮明だ。高い技術力を武器に中長期的には底値買いチャンスに。
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