1. 事業内容
同社グループは、デザイン性の高い設計力・企画提案力と、PM及びCMを通じたデザインの実現力(デザインビルド)を武器に事業活動を行っている。多くの企業の顔となるオフィスのデザイン及び大型ビル全体の環境デザイン、丸の内エリア・名古屋エリア・福岡エリアといった都市開発プロジェクトへも参画し、企画、設計デザインなど、幅広い分野で受注を獲得している。
企画・デザイン・設計に限定される案件は、売上高と売上総利益がほぼ同額であるため、収益性が高いものの売上構成比は小さい。それらの業務に施工が加わったデザインビルドが売上高の9割程度を占めるため、同社グループは業種として「建設業」になる。ただし、デザインビルドは、あくまでも企画・デザイン・設計を具現化するためのものであり、事業は設計デザインを起点とする。同社グループは、デザインを起点としてインテリア・建築・プロダクト・ブランディングなど、分野横断的な事業活動を展開しており、事業や社会の課題に対してデザインによるソリューションを提供している。
クライアントに対して、デザイン機能、PM機能及びCM機能が連携して業務にあたるプロジェクト体制を整えている。設計部門は都市計画・環境設計、ワークプレイス・リテールデザイン、プロダクトデザインと大きく3つのデザイン領域に分かれている。さらにコンセプトを構築するコミュニケーションプランナー、意匠やマテリアル選定を専門とするデザインコーディネーター、正確な作図を得意とするテクニカルデザイナーなど専門技術に特化したチーム体制を有している。また、先進的なデザインの研究・推進組織として同社内に「山下泰樹建築デザイン研究所(TJ Design and Architecture)」を発足した。PM部門はプロジェクトの全体計画を立案し、コスト・資源・時間を総合的に管理する。CM組織は、プロジェクトの全体計画に従い、主にコスト及び外注管理を行う。デザインビルド業務に際して、設計図面どおりに施工されているかを監督する施工管理業務及び工程監理、コスト管理など工事の進行管理を行う。
同社グループは、デザイン力・企画力を強みとし、価格競争に巻き込まれにくい事業モデルである。3Dパース製作やPM及びCMの機能強化を推進しているのは、無駄な外注費・材料費の発生を抑え、適正な利益の確保につなげるためである。その結果、直接外注費及び材料費を売上高から控除した利益率は着実に改善している。
2. 対象領域別事業
(1) 対象領域別売上高構成比
同社グループは、企画・デザイン・設計・デザインビルド事業の単一セグメントであるため、セグメント別情報の公表はない。ただし、2018年3月期以降、対象領域別売上高の内訳が開示されている。5,000万円以下の受注高は、2018年3月期から2020年3月期までは2,741百万円、2,930百万円、3,115百万円と全体売上高のなかでも割合が大きく、それに反して、1億円以上の受注高は、559百万円、913百万円、1,885百万円と徐々に増加しながらも比較的割合は少なかった。2020年12月期は9ヶ月間の変則決算期であったため、対象領域別売上高は前期売上高との比較はできないが、2021年12月期以降1億円以上の受注高が大幅に増加しており、今後も1億円以上の大型案件の受注増加が期待できる。
2022年12月期の売上高構成比を見ると、前期に比べ5,000万円未満の案件が多いが、1億円以上の大型案件の引き合いも堅調に推移している。大型案件は引き合いがあったのが当期の早い時期であっても、事業案件化に時間がかかり、売上計上が翌期にずれるものも増えているため、2022年12月期に売上計上できなかった大型案件が、2023年12月期に持ち越されるケースもあると見られる。
以下に、同社グループの2つの領域について説明する。
(2) オフィス
同社グループの顧客先は、不動産関連企業、一般企業、オリジナルプロダクトなどの販売代理店である。同社グループブランドは、急成長する新興企業の経営者の間で知名度が高い。直近では、二次元コード・バーコード決済サービスを提供するPayPayカード(株)や兼松<8020>のオフィス空間を手掛けている。
a) アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)
同社グループの提案するオフィス空間のデザインには、ABWの設計思想が取り入れられている。ABWは、オランダのVeldhoen+Companyにより提唱された働き方の概念で、仕事内容に併せて自由に場所を選び、より生産性の高い働き方を実現する設計思想になる。ABWでは、「高集中」「コワーク」「TV電話」「リチャージ」など10タイプの働き方を定義し、それぞれに最適な環境づくりを目指す。同社グループのオリジナルプロダクトは、「対話」「高集中」「アイデア出し」などの働き方に対応している。
働き方改革の労働生産性向上に向けた取り組みにより、定型業務などのルーティンワークがPRAやAIに代替され、職種や業種にかかわらずクリエイティブな作業に適したワークプレイスが求められるようになる。加えてコロナ禍対策として3密回避が求められており、オフィス空間も従来の詰め込み型からの見直しが図られている。同社グループでは創業期から、クリエイティブなオフィス・空間の在り方を提案し続けており、今後は時流に対応したオフィス・空間として、より一層受け入れられていくものと予測される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
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