―水際対策緩和の効果が表面化、G7広島サミットに絡む需要にも関心―
2022年の株式市場は、欧米のインフレ懸念を巡って不安定な地合いを余儀なくされたものの、コト消費やインバウンド(訪日外国人)復活期待という強力な支援材料を持つ百貨店やJR・私鉄、空運株などは相対的に堅調に推移した。昨年は、欧米に続いて、日本も入国規制の大幅緩和を実施し、足もとでは着実に訪日外国人絡みの需要は回復している。23年はインバウンド消費が日本の株式市場で再び脚光を浴びる可能性が高い。
●昨年秋から訪日外客数は急回復
日本政府観光局が発表した22年11月の訪日外客数は93万4500人となり、前月の49万8600人から倍近くの伸びとなった。国別では、コロナ禍前のインバウンド消費を牽引してきた中国は、ゼロコロナ政策の影響で2万1000人にとどまったが、台湾や香港、シンガポールまでを含めると24万3800人と全体の約26%を占める。足もとでは中国もリオープン(経済再開)のスタートラインに立っており、8日から不要不急の理由では認めないとしていたパスポート発給や更新を再開し、ビジネスや親族訪問での出国に加え海外旅行による出国も認めるとしている。今年は5月に広島で開催される主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)を控え、ビジネスに絡むインバウンド誘致の動きも活発化しそうだ。
●観光立国の新計画
国土交通省は昨年11月、「観光立国推進基本計画」改定の議論をコロナ禍を経て再開した。これまで経済成長戦略の要でもあった「観光立国の日本」をいかにして復活させるか、政府の支援のあり方について今年3月までに計画を策定する。政府は16年の観光ビジョンで「30年に訪日客6000万人」の目標を掲げていたが、コロナ禍で振り出しに戻った。これからの外国人観光客の誘致は、「人数だけを追わない」「量より質」への転換を進めるべきとの声も上がっている。
例えば、19年のラグビーワールドカップ日本大会での欧州やオセアニアなどからの訪日客は、開催都市のほかその周辺地域を訪れるなど滞在期間が長く、1人あたりの旅行代金が一般のインバウンド客の2.4倍にも上ったとされている。こうした事例も踏まえ、地域での特別な体験や期間限定の取り組みなどを全世界に発信することで観光地・観光産業の「稼ぐ力」の強化を図る。インバウンド関連では日本航空 <9201> [東証P]やJR東日本 <9020> [東証P]、エイチ・アイ・エス <9603> [東証P]などといった銘柄が主力だが、リゾートトラスト <4681> [東証P]や藤田観光 <9722> [東証P]、ロイヤルホテル <9713> [東証S]、京都ホテル <9723> [東証S]などのホテル関連株も注目される。会員制リゾートホテルのトップ企業であるリゾートトラでは、富裕層などのリゾート宿泊需要を取り込みホテルの稼働率がコロナ禍の前を上回るなど業績が好調に推移している。24年にも会員制ホテルで新ブランド「サンクチュアリコート」開業を予定しており、今後の展開が注目される。
●MICE市場が回復へ
また、MICE(マイス)関連の動向も再注目されそうだ。MICEとは、Meeting(企業会議、大会、研修会)、Incentive Travel(報奨・研修旅行)、Convention(学会などの国際会議)、Exhibition/Event(国際見本市、展示会)の頭文字をとったもの。これらを通じて、海外から幅広い分野での訪日を促し、都市競争力の向上やビジネス機会を呼び込む。国際会議の開催、宿泊、飲食、そして観光など裾野は広く、インバウンド需要の拡大にもつながるとして期待されている。政府では、投資を国内に呼び込み観光立国を実現する主要な柱の一つとして位置付けており、足もとMICE推進の動きも活発化している。
今年のG7広島サミットは、首脳会議は広島市、外務大臣会合は長野県軽井沢町、科学技術大臣会合は仙台市といったように日本各地で開催されるため、直接的な経済効果は1000億円以上と試算される。広島、岡山など瀬戸内4県都では既に、サミットに合わせて海外メディアに観光資源の魅力を発信する方針を決め、インバウンド需要を本格的に取り込む構えでいる。更に、招致活動の見直しが取り沙汰されてはいるものの、30年の冬季五輪の開催都市が北海道札幌市に決まるかどうかも関心を集めそうだ。
●イベント関連や通訳銘柄は要チェック
MICEでは、貸会議室大手のティーケーピー <3479> [東証G]やイベント関連でディスプレー制作を手掛ける博展 <2173> [東証G]、乃村工藝社 <9716> [東証P]、空間ディスプレー企画・施工大手丹青社 <9743> [東証P]なども恩恵を受けそうだ。インバウンド関連全般では、翻訳・通訳に関係する翻訳センター <2483> [東証S]、AI通訳機「ポケトーク」のソースネクスト <4344> [東証P]、アドバンスト・メディア <3773> [東証G]、エーアイ <4388> [東証G]などの銘柄も注目される。
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