3. エミクススタト塩酸塩
スターガルト病とは網膜の遺伝性疾患で、小児期から青年期における視力低下や色覚障害などが主な症状として挙げられる。若年性黄斑変性とも呼ばれ、欧米及び日本で15万人弱の患者がいると推定され※1、罹患率は8千~1万人に1人の希少疾患となる。大半の患者は視力0.1以下に低下すると言われており、有効な治療法がいまだ確立されていないアンメットメディカルニーズの強い疾患の1つで、エミクススタト塩酸塩(以下、エミクススタト)は米国でオーファンドラッグに指定されている。スターガルト病の市場規模は2027年に約2,300億円(1米ドル=145円換算)になるとの調査報告※2もあり、開発意義は大きいと窪田製薬ホールディングス<4596>では判断している。
※1 Market Scope, 2015 report on the Retinal Pharmaceuticals & Biologics Market; UN World Population Prospects 2015
※2 WISEGUY RESEARCH CONSULTANTS PVT LTD Global Juvenile Degeneration (Stargardt Disease) Market Research Report- Forecast to 2027
同社は2022年に第3相臨床試験(被験者数194名)の結果を発表した。要旨としては、主要評価項目及び副次的評価項目においてプラセボ群に対して統計的な有意差が得られなかったことから承認申請するまでに至らなかったが、詳細なデータ解析を行った結果、初期症状段階の患者だけで見れば有意差のあることが示唆される内容であったことから※、開発戦略の再検討を進めてきた。現在の財務状況から単独で臨床試験を行うのは困難であることから、現在は日本を含む早期承認制度等を活用した製造販売承認申請を行うことが可能かどうかPMDA((独)医薬品医療機器総合機構)と協議を行うべく準備を進めている。2023年12月に日本では先駆的医薬品指定制度が改正され、承認申請に必要となる臨床試験等のデータについて、海外で実施した臨床試験のデータを援用できることになった。安全性及び忍容性については既に確認済みであることから、先駆的医薬品に指定され申請できれば承認される可能性があると弊社では見ている。
※全症例データの結果では、主要評価項目である黄斑委縮の進行率は、エミクススタト投与群で1.280平方ミリメートル/年、プラセボ群で1.309平方ミリメートル/年となり、有意差が得られなかった(p=0.8091)。ただし、その後のデータ解析の結果、ベースライン時の萎縮病巣面積がより小さい被験者グループ(初期症状段階)に限れば、エミクススタト投与群の24ヶ月目の黄斑委縮進行率はプラセボ群に対して40.8%と大幅に抑制され、有意差のあることが示唆された(P=0.0206、エミクススタト投与群n=34、プラセボ群n=21)。初期症状のサンプル数が少ないのは被験者対象年齢を16歳以上としたため。
製造販売承認申請を行う際には、自社で販売まで行うのか販売パートナー契約を締結して行うのか決める必要が出てくる。自社で販売を行う場合は承認申請までに、薬事三役(総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者)の体制を整備する必要があるほか、物流体制なども整備する必要があるためだ。一方、販売パートナー契約を締結すれば、こうした体制整備の大半はパートナー先に委託することができる。弊社では、海外でも販売パートナーとなってくれそうな製薬企業とパートナー契約を締結できれば、こうしたコスト負担も軽減されるため理想的と考えている。いずれにしても2024年内には方向性が決まると見られ、その動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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