(4) 販売状況と今後の販売・開発方針について
「Kubota Glass」は、2022年8月より日本で「野外活動を再現するメガネ型AR機器」として販売が開始された(販売価格は税込で77万円)※。オーダーメイド型で販売当初は半導体不足もあって注文から納品までのリードタイムは3ヶ月程度を要していたが、半導体不足が解消し直近では1~2ヶ月まで短縮している。2023年12月期の販売実績としては39百万円(前期比31百万円増)となり、数十台を販売した。購入者の属性は大人で約5割となっており40~60歳までのビジネスパーソンが比較的多く、自身でまず使用して効果を確認したのちに、子どもに追加で購入するといったケースもあった。販売チャネルとして直営店(1店舗)と自社ECサイト、一部の眼科医院や眼鏡小売店(15店舗)を通じて販売しているが、直営店での販売比率が最も高かった。また、問い合わせや来店する顧客のうち4割程度が外国籍の顧客となっているのも特徴で、国別では中国、台湾などアジア地域が多いが、欧米や中近東、アフリカなど幅広い地域から問い合わせも入っている。
※2022年6月に米国でソフトローンチによる販売(価格5,200米ドル)を開始したほか、同年7月に台湾の大手眼科機器販売会社と販売代理店契約を締結したが、製品改良やサポートサービスの構築を優先するため現在は日本のみで販売している。
購入者からのアンケート評価として、「すぐに効果が出ない」「最適なポジションに調整するのに時間がかかった」「3ヶ月で動かなくなった(初期不良による)」といったマイナス評価があった一方で、「子どもの近視進行スピードが落ち着いた」といった声や、「目の疲れが取れる」「目薬の使用頻度が減った」といったポジティブな評価も複数あった。マイクロLEDにより一定時間光を網膜に照射することで網膜周辺部の血流が良くなり、目の疲れをとる効果につながった可能性がある。そのほか、2023年10月に開催した近視をテーマとしたセミナーに参加した283人の成人に対して「Kubota Glass」を着用してもらい、フリー記述方式によるアンケート調査を実施したところ、回答した277人のうち68.0%が「すっきりした」「見やすくなった」など肯定的な回答が得られた。逆に、「特に変化を感じなかった」「違和感がある」「見えにくい」など否定的な回答も12.0%あった。同社ではこれら収集したアンケート結果などから、製品の改良をさらに進め使い勝手の良い製品に仕上げること、またサポートサービスの充実に取り組むことで「Kubota Glass」の付加価値を高める必要があると考えており、2024年12月期はこうした取り組みを重点的に推進する方針だ。
サービス面においては、直営店において来店客への商品説明をしっかり行うことが重要との考えで、2023年8月より完全予約制としたほか、同年9月からは分割払い購入サービスや、商品保証サポートサービス「Kubota Care」(税込39,000円)※の提供も開始した。分割払い購入サービスについては2024年2月からECサイトでも利用できるようにした。また、2023年12月には(株)スギ薬局が出店する「SUGI+羽田イノベーションシティ店」での取扱も開始した。同店舗は羽田空港に隣接する商業施設内にあり、「未来の健康」をテーマとしてヘルスケアの最先端を体験できる体験型店舗となっており、実際の商品を試用して気に入ればその場でECサイトから注文することも可能となっている。今後については、既存顧客に対してリカーリングのために定期的にSMSなどを通じて告知する等、サポート体制の充実を図る予定だ。
※商品受領後30日以内に登録する「1年メーカー保証」に加えて、3年間は特別料金で製品保証を受けられるサービス(レンズ交換12,000円(税込)、ノーズブリッジ交換9,900円(税込)、ノーズパッド交換無料)。
そのほか、2023年から始動した「ZERO Diopter Project」によるセミナーやイベント活動を通じた、認知度向上の取り組みも継続していく。特に2024年度から経済産業省による健康経営優良法人認定制度において、評価指標項目の1つに眼精疲労が加わったこともあり、大企業からのセミナー依頼が増加しているほか、学校向けセミナーや企業とのコラボイベント※なども開催しながら健康経営支援サービスを積極的に展開していく。
※2024年3月にeスポーツを軸としたメタバース事業を展開するゲシピ(株)とeスポーツ英会話のコラボイベントを開催した。
一方、海外市場での展開については日本で製品・サービスの完成度を高めてからとなる可能性が高く、具体的な動きは早くても2025年以降になると弊社では見ている。販売地域としては医療機器としての販売認可を2022年に取得している米国や台湾のほか、問い合わせの多い中国が有力候補となる。中国については2023年8月に中国福建省三明市と、「Kubota Glass」の販売に関連した基本合意書を締結している。具体的に決定した事項はまだないものの、継続的に情報交換は行っているようだ。三明市(人口約280万人)は、福建省の医療健康モデル都市に指定されており、医療分野で先進的な取り組みを進めている都市の1つとして知られている。中国政府は2018年に各自治体の近視削減目標を定めた国家計画を策定しており、2030年に高校生までの近視発症割合を70%以下に抑えることを目標に掲げていることから、今後三明市の近視抑制施策の1つとして「Kubota Glass」が活用される可能性がある。また、中国での販売代理店契約を希望する企業との交渉も継続して行っている。
開発面では、既存製品の改良とあわせて眼軸長や屈折率の変化等でさらに高い効果が得られるかどうか、被験者の属性による効果の違いなど様々な条件下で小規模な臨床試験や長期試験を行いながら、エビデンスを積み重ねる方針だ。また、製造コストについても設計や部材の見直しにより低減に取り組んでいく。「Kubota Glass」発売後の四半期ベースの売上原価率を見ると、2022年3月期第3四半期の91.7%から2023年12月期第4四半期は23.6%まで低下しており、半導体を中心とした部材のコスト低減に取り組んだ効果が出ているものと考えられる。同社では当面、売上原価率は20%台で推移すると見ているようだ。なお、将来的にはコンタクトレンズでの商品化も視野に入れており、知財戦略も含めた取り組みを進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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