1. 新経営計画の概要
2023年8月ロジザード<4391>は、変化する事業環境に対応し、2026年6月期を最終年度とする新たな経営計画を策定した。コロナ禍を受けてECに傾斜していた流れが、新型コロナウイルス感染症の5類移行により経済社会活動が再開し、再び店舗の重要性が認識されている。加えて、消費者のニーズと購買行動も多様化するなかで、リアル店舗とネットをよりシームレスに統合するOMOマーケティングとそれを可能にする在庫管理手法に対するニーズが高まっている状況だ。特に、BotBの業界においてもOMOマーケティングと在庫管理手法に対する注目が高まっていると言う。また、物流業界では、依然として人手不足とそれに起因する自動化・省力化へのニーズがある。同社を取り巻く事業環境が上記のように変化するなか、「時流製品×ハイタッチサービス」という基本成長戦略を掲げ、将来的に高まることが想定されるニーズに対応できるサービスと体制の構築に向けて、研究開発と人材に先行投資を実施する構えだ。なお、ここで言う「ハイタッチ」とは、「事業活動において、同社の社員が顧客と積極的に関わり、顧客に価値を提供していく」という意味だ。営業人員や開発人員が顧客としっかりとコミュニケーションをとりながら、顧客のビジネスをサポートしていく。ハイタッチサービスをさらに推し進めるために、1. 受注納品と製品開発が同時に可能な体制づくり、2. サポート体制の拡張ケア、3. 増加する社員の初期教育の体系化とスケジューリング、4. 社員が安心して業務できる制度づくりを推進していく。
数値目標としては、2026年6月期にクラウドサービスの売上高を1,875百万円(2023年6月期比28.2%増)、経常利益を434百万円(同66.9%増)に伸ばす方針だ。体制強化のための人材採用に関しては、2027年6月期末までに157名まで増員することを計画している。新経営計画の数値目標に関しては、2023年6月期にクラウドサービスの好調ぶりが想定を上回ったことを受け、売上、経常利益共に上方修正した。2026年6月期のクラウドサービス売上目標と経常利益目標を前回の中期経営計画と比較すると、それぞれ46百万円、1百万円上方修正している。外部環境が好調なことに加えて、同社の製品開発の方向性も妥当なものであると弊社は考える。クラウドサービスは利益率が高いことから、経常利益が上振れて着地する可能性もあると弊社は推察する。
2. 具体的なトレンドと対応方針
(1) BtoBに広がるWMSニーズ
先述のようにコロナ禍を受けECに傾斜していた流れが、新型コロナウイルス感染症の5類移行により経済社会活動が再開し、再び店舗の重要性が認識されている。加えて、消費者のニーズと購買行動も多様化するなか、BtoBの領域で活動する企業においてもOMOマーケティングに対するニーズ、リアルとネット店舗の在庫をよりシームレスに一元管理したいというニーズが高まっている。こうしたニーズの高まりを捉えるため、配分方式、梱包明細、荷札、SCMラベル、シリアル出荷、トレーサビリティなど、各作業フローにおいて求められるBtoBならではの機能を模索し実装しながらBtoBビジネスを行う顧客をより積極的に獲得していく。これは、既存のBtoC市場での競争が激しくなっていることも背景にある。既存の市場ではシェアを確保しながら、同社の強みを生かすことができ相対的に競争度合いの緩やかな市場に進出することにより、しっかりと利益を確保していく考えだ。加えて、業界標準のEDI対応も模索しながら、BtoB業界における標準WMSへと成長させることを目指す。
BtoBに求められる機能の実装ということに関しては、2023年6月期においても顧客企業と協力しながらBtoBの業務フローにより即した機能の作り込みを行ってきた。また同社はもともとアパレル業界のBtoB企業向けにビジネスを始めたという特性上、BtoB企業に適したシステムの作り込みはスムーズに進むものと推察される。
(2) 労働力不足を補う自動化トレンド
同社は引き続き、物流業界や倉庫業界における人手不足に対応するために省力化と自動化に対応した製品の提供を加速させていく考えだ。具体的には、AI物流ロボットをはじめとした連携する物流ロボットの拡張、RFID※などオプション機能の強化による倉庫内作業の効率化を実現する計画だ。トラック運送業界の人手不足は大きな問題であり、省力化と自動化を実現するサービスに対しては需要が堅調に推移するものと弊社は考えている。全日本トラック協会が2023年2月10日に公表した「トラック運送業界の景況感(速報)」調査によると、2022年10~12月期において労働力が不足しているまたはやや不足していると回答した割合は64.2%と前回調査(2022年7月~9月期)より14.0ポイント悪化している。また、今後の見通しに関しても69.4%が不足またはやや不足と回答しており、人手不足が当面の間は継続することがすることが予想される。そうした見通しの中、顧客の省人化・自動化に資する機能やオプションの拡充により、訴求力を高める方針だ。
※電波を用いて内蔵したメモリのタグのデータを非接触で読みこむシステム。バーコードではレーザーでタグを1枚ずつスキャンするのに対し、RFIDでは電波で複数のタグを同時スキャンすることができる。電波が届く範囲であれば、タグが遠くにあっても読み取ることが可能である。
(3) 進む店舗のスマート化とオンラインの融合
OMOマーケティングへの関心と、それを可能にする在庫管理手法への注目が高まるなかで同社は、OMO対応を加速させていく。具体的には、他社製品とのAPI※連携の拡大、OMOマーケティングに求められる機能の整理と実装などによって「ロジザードZERO-STORE」、「ロジザードOCE」の機能強化を実践していく構えだ。
※API(Application Programming Interface)とは、ソフトウェアやアプリケーション同士を連携させるためのつなぎ役である。他社製品とAPI連携することで、自社システムに実装されていないソフトウェアやアプリケーションなどの機能を利用できるようになる。
これらの各種施策に加えて、販売促進活動も積極的に継続していく。倉庫を地方に構えている顧客や全国に散らばる顧客に対応するため、同社はコロナ禍前よりオンラインを活用した販売促進活動を積極的に行ってきた。オンラインを活用した集客活動と営業活動は経験に基づくノウハウを蓄積している。オフラインのイベントも開催していく。オフラインは既存の顧客が見込み客と一緒に来場するなど、新規顧客の獲得が期待できる営業機会である。オフラインにおけるコミュニケーションは、顧客のニーズを把握するという観点からも重要である。汲み上げた顧客ニーズを製品開発に反映させることができるからだ。2023年11月にはリアル開催のイベントを予定している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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