4. 市場別事業戦略
市場別に落とし込んだ事業戦略も、大きな方向性は従来と変わらないが、新たな時代の顧客ニーズや中期経営の方向性を取り込んだものへとバージョンアップしている。
(1) EVC領域(医薬)の事業戦略
EVC領域のなかで同社が最も重視しているのが、同社売上高で最も大きな割合を占める医薬業界である。医薬業界の中長期的課題は、国の医療費削減策への対応、高コストのMR※からのプロモーションチャネルの変更、マーケティングのデジタル化などである。これに対して同社は、これまでの既存顧客に加え、国内の中堅企業や新たな大手顧客等への対象顧客の拡大や、得意とする本社開催のWeb講演会だけでなく、中規模の支社(エリア)開催の講演会やホテルなどでリアル開催される全国規模の講演会など、リアルイベントにネット配信を併用したハイブリッド化の需要をねらう。また、Web講演会の支援に加え、次世代の医薬デジタルマーケティングのパートナーとして、リアルとデジタルで差のない顧客体験を提供する方針である。そのために、講演会のオプションメニューや追加サービスの開発、ハイブリッド化への対応を強化し、新規顧客の開拓にもつなげていく考えである。さらに、「WebinarAnalytics」によるWeb講演会視聴履歴データ分析やデータ連携の支援、製薬業界特化型クラウドCRM「Veeva」と連携したオリジナルソリューションの開発、新たなチャネルとしてオウンドメディアのノウハウ蓄積といった施策を中心に、製薬企業のマーケティングにまで踏み込んだデジタル化を支援、製薬企業のコストダウンやマーケティングをサポートする方針である。
※MR(Medical Representatives):医薬情報担当者(医師などに向けた製薬企業の営業担当者)。
(2) EVC領域(医薬以外)の事業戦略
「J-Stream Equipmedia」のさらなる機能向上を通じて、動画を活用する企業に対しベストソリューションを提供する考えである。具体的には、「J-Stream Equipmedia」ポータルや動画eラーニングシステム「J-Stream ミテシル」を、教育・トレーニングや社内外情報共有などの用途へ向けて拡販するほか、バーチャル株主総会や学会、展示会など大規模イベントへのプラットフォームの提供などを推進する。特に注目されるのが、用途特化型ソリューションの動きである。これまで業種特性や個社のニーズによってカスタマイズしていた「J-Stream Equipmedia」などの主力商品を、業種を超えてニーズが強いセミナー/イベント、社内情報共有、教育/トレーニングの3分野に絞り用途別にカスタマイズする戦略を策定した。大企業向けはライブや制作などの社内人的リソースを活用し、大企業以外の成長領域にはセルフ型ソリューションで対応する。急拡大しているウェビナーに関しては、「J-Stream Equipmedia」と連携したシステム「WEBINAR STREAM」を様々な形態で提供し、ウェビナーに必要なページの管理や認証、課金といった機能を付加していく考えである。
(3) OTT領域の事業戦略
OTT領域では、本格スタートした放送同時配信、デジタルライブなど拡大するエンターテインメント(以下、エンタメ)業界での新たな配信ビジネスのあり方、先端的な海外OTT業者のプレゼンス拡大、動画配信技術のコモディティ化(による大手顧客の内製化と取り残される中小顧客)、通信環境の5G化、VRなどマルチアングルによる新たな表現、双方向通信によるコミュニケーションの変化といった様々な新技術が生まれている。また、固有のビジネスや技術、運用課題に絞った市場特化型の商品・サービスの提供、動画配信機能を核に動画周辺機能も網羅したトータルソリューション、新技術へのスピーディな対応など多種多様なニーズも強まっている。これに対して、メディア・コンテンツ市場における動画ビジネスのトータルテックパートナーを目指す同社は、主要放送局に対し配信機能からCDNやSIとその運用までを統合的に提供するとともに、マルチCDNやクラウドベースの動画編集サービス「Grabyo」なども展開する方針である。一方、地方局に「J-Stream Equipmedia」のブロードキャスティングプラン、エンタメ業界には既存サービスに付加したエンタメ特化ソリューション、CS/BS局には配信マスターシステムとリモートプロダクションを提供する考えである。
(4) 事業戦略上の課題
これまで市場拡大を予見しM&Aや人材への投資を先行的に拡大してきたことが同社の成長要因となったことから、中長期成長へ向けた事業戦略上の課題は、今後も人材やノウハウの獲得にあると考える。特にM&A投資は、ビッグエムズワイをはじめ、この7年で子会社化3件、事業譲受1件、出資2件を実施している。今後も人材確保とシナジーの創出できる新規事業エリアなどでM&Aの手を緩めるつもりはないようだ。ただ、M&Aは相手先があるためコンスタントにできるわけではない。人材については、先端技術の導入などによる新商品・新サービスの開発を日進月歩で進めなければならないため、人材の不足感が増しているようだ。事業戦略上、人材採用の遅れがボトルネックを起こさないよう、足下でも引き続きサービス開発系の増員を進めている。この一環として、学生や技術者向けイベントに同社社員が登壇・出席するなど、採用に有利に働くよう同社のプレゼンスを向上させる策を講じている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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