―企業業績の下振れリスク意識の局面、調整時に押さえたい配当妙味の特選株―
米国でトランプ前大統領の返り咲きと、共和党が上下両院の多数派を占めることが決まった。「トリプルレッド」のもとでアメリカ・ファースト的な政策の実現可能性が高まり、経済政策が景気を浮揚させるとの見方から、米国株は過去最高値圏で上昇基調を続けている。一方で日本株の上値は重く、中国や欧州での景気減速リスクが高まり、企業業績が下振れするシナリオが存在するなかで、国内投資家の安全志向が強まりつつある。こうしたなかで、短期的な業績の変動に左右されずに株主に利益還元をしようと、DOE(株主資本配当率)目標や、累進配当策の導入を発表する企業が相次いでいる。相場調整時には待機資金の流入先となると有望視されている。
●国内企業の配当余力は拡大の一途
上場企業には株主還元策として、配当性向の目標を掲げる企業が多い。配当性向は、すべての株主に対して1年間に支払う配当総額を通期の純利益で割った値に100を掛けて求める。1株当たりの年間配当額を1株利益(EPS)で割って求めることもできる。配当性向40%を目標とする企業の場合、その年の純利益が10億円ならば、株主に支払う配当総額は4億円となる。純利益が1億円に減少すれば4000万円に減る。最終赤字に転落した際は、無配の蓋然性が高まることとなる。これに対し、DOEは一般に、配当総額を株主資本で割って100を掛けて算出する。株主資本は基本的に短期の景気変動により、すぐに額が上下するようなものではない。
財務省が今年9月に発表した2023年度の法人企業統計によると、国内企業(金融・保険除く)の利益剰余金の総額は22年度比で8.3%増の600兆9857億円。12年連続で過去最高となり、初めて600兆円を超えた。賃上げの機運が高まるなかでも、着実に内部留保を積み上げている企業は多い。
もう一つ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を巡る不透明感が強まった際に脚光を浴びることとなるのが、原則的に減配をせず、配当維持もしくは増配を目指す「累進配当」銘柄である。配当の原資となる利益剰余金を厚く抱える企業には、株主の投資意欲を喚起する有効な施策と位置付けられている。もちろん、事業環境が大きく変化して利益剰余金がマイナスの状態となった場合、配当維持・増配の継続が困難となる恐れがある。DOEも株主資本がマイナスの場合、無配のリスクが高まることとなる。
●9月中間期では配当政策の変更が相次ぐ
9月中間期の決算発表シーズンでは、製造業を中心に業績予想の下方修正に踏み切る動きが目立ち、投資家の間で失望感が広がった。なかでも日産自動車 <7201> [東証P]が今期の最終損益予想を取り下げ、中間配当が無配に転じたことは、ネガティブ・サプライズと受け止められた。半面、増配計画と自社株買いに加えて、DOE目標の導入を公表した青山商事 <8219> [東証P]が急騰。DOE目標を取り入れて配当予想を引き上げた日本ゼオン <4205> [東証P]などの株価に浮揚力が働いた。
累進配当を公表した企業では、25年9月期の連続最高益計画を示したアイビーシー <3920> [東証S]や、今期の増益予想と立会外での自社株買いを公表したMTG <7806> [東証G]が上昇指向を強め、好業績と株主還元の充実を両立させる銘柄への強い物色意欲を印象付ける結果となった。
株式市場ではこの先の相場展望に関して、「トランプ次期米政権が米国景気を押し上げるとの期待が先走り、米国株を巡る楽観的な見方が支配的となっているが、関税強化の話自体は世界景気にはマイナス要因。年明け以降の米国株の楽観ムードの急変リスクには留意が必要だ」(中堅証券ストラテジスト)との声がある。
米国株が崩れれば、日本株もダメージは避けられないだろう。企業の配当政策の変化を予想することは至難の業ではあるが、全体相場が調整色を強めた局面では、業績が堅調に推移し、DOE目標や累進配当制度の導入を公表している銘柄が押し目買いを入れるための有力な候補となっていく。こうした観点から、不安定な相場で存在感を高めそうな銘柄をピックアップしていきたい。
●インカムゲイン妙味の特選株6選
デジタルホールディングス <2389> [東証P]は広告支援などデジタルマーケティング事業と、広告費のBNPL(後払い決済)に関するサービスを展開。26年12月期までは、のれん償却前の当期純利益に対する配当性向20%もしくはDOE3%の「いずれか大きい金額」を配当額とする方針を示している。24年12月期の年間配当は記念配当20円を含めて65円と、前期比で10円減配となる予想だが、配当利回りは5.2%台と高水準である。投資事業では24年1~9月期において、MFS <196A> [東証G]とLiberaware <218A> [東証G]の2社のIPOを実現。1~9月期の最終利益は通期計画を超過している。PBR(株価純資産倍率)は0.7倍台と1倍を下回っている。
コネクターを手掛ける鈴木 <6785> [東証P]は、25年6月期は前期に続き過去最高益を計画。11月11日発表の第1四半期(7~9月)の売上高は前年同期比25.2%増の80億600万円、経常利益は同28.6%増の10億9900万円と大幅な増収増益となった。スマートフォンや車載関連部品の需要が足もとの業績を大きく押し上げる格好となっている。今期から配当方針をDOE4.0%または配当性向50%を目安として実施する形に改めている。配当利回りは4.1%台だ。
東鉄工業 <1835> [東証P]はJR東日本 <9020> [東証P]向けの鉄道工事が主力。DOE3%以上で累進配当をポリシーとし、25年3月期の年間配当予想は前期比3円増配の100円と3期連続の増配を計画する。豊富な繰越工事の順調な進捗状況を踏まえ、今期の業績予想を11月7日に上方修正し、売上高予想は前期比12.8%増の1600億円、最終利益予想は同20.5%増の100億円とした。中期的には羽田アクセス線整備や顧客の耐震補強工事、レール更新などの需要が業績を下支えする見通し。信用倍率は0.69倍と売り長の状況にある。
島根県と鳥取県を地盤とする地銀の山陰合同銀行 <8381> [東証P]は、今期は連続最高益の更新を計画するものの、PBRは0.5倍台にとどまる。日銀の金融政策の正常化に伴い、市中金利に上昇圧力が掛かったことが、地銀全般の業績の底上げに寄与している。昨年5月に累進配当の導入を発表。更に、今年2月には累進配当を維持しつつ、利益還元について総還元性向40%から配当性向40%に変更した。今期は4期連続の増配計画で年間48円を予定。配当利回りは4%近くとまずまずの水準だ。
産業資材の製造・販売を手掛けるコンドーテック <7438> [東証P]は、DOE4.0%以上を目標として継続的に増配を行うという配当方針を打ち出している。12年3月期以降、連続で年間配当を積み上げており、25年3月期は年間46円を計画。本業も成長軌道をまい進し、今期は過去最高益を見込む。特定の業界に依存することなく産業資材を販売しており、業績の安定感が強いのが特徴。株価は7月につけた上場来高値を前に足踏み状態が続いているが、200日移動平均線は右肩上がりを維持している。
広告配信システムなどを展開するCARTA HOLDINGS <3688> [東証P]は変化の激しい広告業界においてDOE5%を目安として配当を実施する方針を示している。24年12月期は減収見通しの半面、営業利益は3期ぶりの増益、最終損益は黒字転換を計画する。7~9月期は広告市場として閑散期にあるものの、インターネット関連サービスが堅調に推移したという。電通グループ <4324> [東証P]の子会社であり、親子上場というテーマもあわせ持つ。信用倍率は足もと0.43倍だ。
株探ニュース
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