1. 営業・マーケティング・カスタマーサービス分野のDX市場がコアターゲット
DX市場は拡大基調である。大企業を中心に業務のデジタル化・非対面化が進展し、市場拡大が今後加速する見込みとされている。これまで紙で作っていたチラシやパンフレットなどのコミュニケーションツールも、急速にデジタル化・動画化(SNS広告、メール・チャット、Webサイト、デジタルサイネージ、オンラインイベントなど)が進展している。
こうした事業環境も背景に、Kaizen Platform<4170>は成長に向けた基本戦略として、DX市場の中でも特に非対面ニーズが高く、市場成長性の高い営業・マーケティング・カスタマーサービス分野のDX市場をコアターゲットとして、大企業向けを中心にリカーリング売上拡大やARPU向上を加速させる方針だ。DXの進展にあたっての最大のボトルネックは人材不足だが、同社には、プラットフォーム上で専門スキルを持った1万人超のグロースハッカーネットワークを構築している強みがある。
2. クロスセル・アップセル戦略でリカーリング売上拡大とARPU向上を推進
同社は、新規顧客獲得によるアカウント数拡大とともに、リカーリング売上拡大やARPU向上に向けて、顧客のDX進展に合わせてUX・動画・DX各ソリューションのサービスを組み合わせて提供するクロスセル・アップセル戦略を基本としている。
2022年12月期の取引ポートフォリオ(アカウント数、ARPU、売上高)は以下のとおりである。3つのソリューションはアカウント数8(2021年12月期比3増加)で売上高6.1億円(同1.5億円増加)、2つのソリューションはアカウント数44(同7減少)で売上高6.6億円(同2.2億円減少)、1つのソリューションはアカウント数445(同34減少)で売上高12.6億円(同4.8億円増加)だった。2023年3月期はさらなるクロスセル・アップセル戦略によって複数ソリューション提供の増加を目指す方針だ。
また、リカーリング売上と単発売上の状況は以下のグラフのとおりである。2022年12月期のリカーリング売上比率は70.9%で2021年12月期比11.6ポイント低下した。2022年12月期は顧客ポートフォリオ組み替えの影響で単発売上からリカーリング売上への転換が伸び悩んだが、2023年12月期はリカーリング売上比率の更なる向上を目指すとしている。
3. M&A・アライアンスを積極活用
さらなるARPU向上戦略として、ソリューションを拡充して顧客の課題に合わせて提供サービスを再編する方針だ。組織再編でセグメントを従来のUX/DX及び動画から、グロース及びトランスフォーメーションに変更し、マーケティングとDXそれぞれの課題に合わせたソリューションを提供する。
さらにM&A・アライアンスを積極活用する方針としている。2021年6月にはアドバンテッジアドバイザーズ成長支援投資事業有限責任組合に出資した。本ファンドの投資先企業に対して売上成長をもたらすDX支援を行うとともに、新たなビジネスモデルやサービスの創出にもつなげる方針だ。2021年7月には内製型DXを実現する「KAIZEN CONSULTING」の提供を開始した。DXの実行に課題を抱える企業向けに、戦略策定から実行までプロジェクトの上流からサポートする。2021年9月には子会社ディーゼロとのシナジー効果を生かし、Webサイトの課題分析からリニューアル・新規開発、長期的な効果改善に向けた運用まで一気通貫で支援する「KAIZENサイトリニューアル」の提供を開始した。2022年5月にはKDDI<9433>と自治体向けWebサイト構築ソリューションの提供を開始した。自治体向けでは既に国土交通省「川の防災情報」Webサイトに一部導入した実績がある。2022年8月には、NTT西日本が取り組むCX(Customer Experience=商品やサービスの利用における顧客視点での体験)改善の一環として、Web上での顧客体験向上に向けたDXプロジェクトを共同で実施した。
2022年10月にはハイウェルを子会社化した。ハイウェルはSES事業、採用支援事業、デジタルプロモーション事業を展開し、特にHR(Human Resources)領域においては3,000社を超えるパートナー、累計3,000名以上のエンジニアネットワークを有している。同社のグロースハッカーネットワークとハイウェルの豊富なリソース及びHR領域におけるノウハウを組み合わせることで、動画/UX/DXというセグメントにとらわれないトータルソリューションや、全社ベースでのクロスセル・アップセル戦略を加速させる方針だ。さらに今後もM&Aを積極活用する方針としている。
4. アクセシビリティ向上も推進
同社は事業展開において、昨今重要性を増しているアクセシビリティ(accessibility=利用しやすさ)向上推進も重視している。デジタル庁が掲げる「人にやさしいデジタル社会の実現」やSDGsの流れも相まって、これまで国や自治体のみが義務化されていたWebサイトなどのアクセシビリティへの合理的配慮が、2021年6月の障害者差別解消法の改正によって民間事業者でも義務化され、公布から3年以内に対応が求められるようになった。現在推計170万以上の企業ホームページのうち、Webアクセシビリティに関するJIS規格を満たしている企業の割合は僅か4.6%に過ぎず、今後95%以上の企業のWebアクセシビリティ対応が急務となることが予想されている。
しかしDX対応と同様に、ここでも多くの企業にとってリソースの壁(ノウハウや人材の不足)が課題となっていることに対応して、同社は2022年1月に、アクセシビリティに関して豊富なノウハウを持つ子会社ディーゼロとともに、アクセシビリティ専門エンジニアやWebサイト改善専門家をグループ内に持つ強みを生かして、より多くの企業のWebアクセシビリティ向上に向けて、課題の抽出、レポートによる診断、必要に応じた課題の改修までトータルに支援するサービスの提供を開始した。
5. 中長期成長ポテンシャル大きい
同社は中期経営計画を公表していないが、当面は売上成長30%、EBITDAマージン率10%を維持しながら、サービスの拡充・高付加価値化や人材採用・育成など、事業基盤を固めるための先行投資を継続する方針としている。グロースハッカーネットワークを活用した独自のビジネスモデルが強みであり、クロスセル・アップセル戦略やグループシナジーによるリカーリング売上拡大・ARPU向上、さらにアクセシビリティ向上に向けた戦略を推進する方針だ。当面は成長投資が先行するが、今後の営業体制強化、サービス再編、M&A・アライアンス活用などの成果で、中長期成長ポテンシャルは大きいと弊社では評価している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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