3. 機能性顔料事業
機能性顔料事業は「Vision2026」において事業の合理化と収益を伴う事業を継続しながら、成長戦略としては脱炭素市場に向け、オープンイノベーションで新素材を供給することで成長を見込む。
1) CO2分離回収材料の開発
機能材顔料事業で培った酸化鉄の技術を生かし、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蔵)に関して、CO2を分離・回収する材料を開発している。日本が2050年までのカーボンニュートラルを目指すうえで、CCUSは産業活動の維持と温室効果ガス削減を両立できる手段と認識されており、2023年3月、経済産業省は「CCS長期ロードマップ」を策定し、2050年に年間1.2〜2.4億トンのCO2を貯留できる体制構築を視野に、2030年までに国内でCCS事業を開始し、年間600〜1,200万トンのCO2貯留を実現するとの目標を発表、2023年度当初予算でCCUS関連予算約80億円を計上している。
同社が注力しているのは、汎用かつ設置台数が多い「ボイラ由来の排ガス」を主たるターゲットとし、革新的なCO2固体回収材を用いることで、CO2排出量の削減に貢献する技術である。同社と埼玉大学が開発した新規CO2固体回収材「Na-Fe系酸化物」はCO2を吸脱着する機能のある酸化鉄系材料「ナトリウムフェライト(NaFeO2)」を基本組成とするものである。鉄、酸素、ナトリウムが層状に配列する層状化合物で、燃焼排ガスや大気中に含まれるCO2を選択的に化学吸着し、100℃程度の加熱で分離回収できる機能を有する。また吸着、分離回収を繰り返しても特性劣化がなく長期間の連続使用が可能となる。実際にはCO2固体回収材として利用可能工場のボイラ等から出るCO2を効率よく分離回収するプロセスとなる。今回、関西万博においてエア・ウォーター<4088>が「未来社会ショーケース事業出展」のなかで「グリーン万博」に出展、同回収材を使ったCO2回収装置の実証機を設置、万博の熱電供給システムからの燃焼排ガスからCO2を回収、回収したCO2は会場内の冷却用ドライアイスとして活用している。今後の取り組みとしてエア・ウォーターと中小規模のCO2回収装置開発も進めている。
2) CO2フリー水素・CNT製造技術の開発
具体的にはメタン直接改質法(DMR法)によるCO2フリー水素の製造プロセス及びシステム開発を推進している。(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業を通じエア・ウォーターと共同で2023年8月に「DMR法」による商用規模の水素製造プラントを北海道豊富町内に設置、メタンを主成分とする未利用温泉付随天然ガスから、CO2を直接排出させずに高純度水素の製造を行っている。同時に製造した水素を近隣需要家へ供給し、地産地消型の水素サプライチェーンの構築を進めている。さらに副生成物の多層カーボンナノチューブ(CNT)は高導電性などを有しており炭素材料として利用できる。今後、豊富町で自噴する未利用天然ガスを用い、DMR法を用いた商用規模の水素及びCNTの製造技術を確立し、併せて、エア・ウォーターが水素の貯蔵・輸送・供給システムを確立させ、域内の水素サプライチェーンを構築、同社がCNT粉体の高付加価値化を進め、CNTの用途探索と顧客での性能評価を実施し、システム全体で早期の社会実装化を目指す。
全体として「Vision2026」で掲げている機能性顔料の次世代技術について、量産までには至っておらず収益に寄与するには時間を要するため、現在掲げている2027年3月期収益目標の達成は難しいものの、収益性目標の売上高営業利益率5%目標については、固定費削減などで4%程度までは達成可能と見られる。さらに2028年3月期以降においては上述した次世代事業の本格収益寄与が始まり、2030年度には営業利益率8%の達成も十分可能と見られ、同社の脱炭素社会、循環型社会の実現に向けた取り組みに期待がかかる。
■株主還元策
連結業績の推移を考慮したうえで早期の復配を目指す
同社は2019年3月期に40円の配当を行って以来、業績低迷もあり無配を継続している。2025年3月期も収益悪化で無配、2026年3月期も無配を継続する予想としている。将来の事業展開と経営体質強化のために必要な内部留保を確保しつつ、早期の復配を目指しているが、復配にはまだ時間を要するだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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