―「地方創生」でもカギを握る、ビッグチェンジに向け行政のデジタライゼーション本番―
デジタル技術を駆使して企業の業務効率化や生産性を高める、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資が活発である。このDXへの取り組みは官公庁や自治体でも重要項目であり、民間企業とデジタルデバイドが生じては、官民が団結して国家的なプロジェクトを協業することなどもできなくなる。
さまざまな分野で国を挙げて取り組むべき課題が山積するなか、民間に劣後することのない行政のデジタライゼーションこそ、まさに今国策として推し進めていく必要性が求められている。民間にDX推進を担う企業は数多く存在するが、そのなか官公庁へのアプローチで確固たる実績を有する企業は、今後マーケットで評価され株価の居どころを大きく変える可能性を内包しており要注目となる。
●ソフトウェア分野が情報化投資の要に
経済の牽引役となっている設備投資需要だが、これまで日本では欧米と異なり企業が攻めの経営に踏み込むことに躊躇している印象が拭えなかった。しかし実際、設備投資額は着実に拡大基調が続いている。設備投資というと、一般的には製造業で使われる工場をはじめ生産設備などに投資するイメージが強いが、近年はソフトウェア分野の投資拡大が顕著だ。2024年版の情報通信白書によると民間企業による情報化投資は22年時点でおよそ15兆8000億円となっている。10年前の12年は12兆円に満たなかった。
そのなか、受託開発及びパッケージソフトなどのソフトウェア投資は22年時点で9兆7000億円となり、情報化投資全体の6割を占めた。パソコンを購入したり、スペックの高いものに買い替えたりといったハード分野への投資ではなく、システム開発やクラウド環境の整備などソフト分野への投資が主軸となっていることが分かる。
また、調査会社のIDCジャパンによると23年の国内ソフトウェア市場は4兆6824億円で前年比9.5%増という2ケタ近い伸びを示している。チャットGPTに代表される 生成AIの導入や基幹システムのクラウド移行、更にサイバー攻撃対策などが市場拡大の原動力となっている。今後もソフトウェア市場は年率2ケタ近い成長を続けていく公算が大きく、生成AIのベースとなる大規模言語モデル(LLM)の開発などが主戦場となっていく。
●「地方創生」「マイナンバー」もDXが後押し
石破茂首相は「地方創生」を優先すべき政策課題に掲げているが、そのなかデジタライゼーションの推進によって地域間の情報格差の是正に取り組む姿勢を打ち出している。その際にガバメントクラウド(政府クラウド)の整備は一丁目一番地といえる重要な課題となる。デジタル庁は11月27日に、政府クラウドの制度整備に向けた法案の概要を固めたことが伝わっている。自治体が情報システムを更新する時に政府クラウドを活用するように検討の努力義務を課す。新法ではなく、情報通信活用行政推進法の改正で対応し、今月上旬の閣議決定を経て臨時国会に提出する方針という。
デジタル庁では25年度予算の概算要求として5960億円を計上、24年度比では約20%増となる。マイナンバー制度の普及促進や準公共・相互連携分野のデジタル化への取り組み、 サイバーセキュリティー対策や共通SaaS活用の推進、加えてネットワーク基盤の共用化などに注力する。
また、マイナンバーカードを核とした保険証や運転免許証一体化などもDX投資を強化する背景にある。今月2日には従来の健康保険証の新規発行が終了し、「マイナ保険証」への移行が本格化することになる。従来の保険証との併用が当面は認められるなか、現在の利用率は15%程度と低迷しているが、政府サイドとしては国民の不安を解消して、いかに利用促進につなげていくかが大きな課題となる。このほか、マイナンバー制度に合わせた行政手続きが可能なオンライン窓口である「マイナポータル」についても、使い勝手の良さを追求し、オンライン申請機能の充実や行政が保持するデータ活用や連携のための整備を進めていく構えだ。
●行政DXによるビッグチェンジはこれから
東京都は行政DXの専門組織「GovTech(ガブテック)東京」に100%出資する形でデジタライゼーションへの取り組みを強化している。直近では、同組織のアドバイザーに7月の都知事選にも出馬したAIエンジニアの安野貴博氏が就任したことが話題となった。世界的にAIの民主化が叫ばれるなか、「テクノロジーを通じて誰も取り残さない東京をつくることを目指す」としており、これはこのまま「地方創生」を看板政策に位置付ける石破政権にも当てはまるテーゼとなる。
行政DXはまだ歴史的な時間軸では黎明期といってもよい。ビッグチェンジはこれからで、それだけに民間企業の活躍余地も大きい。内需のソフトウェア投資需要は国策をフォローウインドに、民間だけでなく官公庁向けで巨大な市場が潜在している。
今回のトップ特集では、DX関連分野で独自の展開力を持ち、行政DXの領域でもいかんなく実力を発揮している銘柄で、収益成長路線をまい進中の有望7銘柄をエントリーした。東京株式市場で日経平均株価はボックス圏での往来が続いているが、それだけに全体相場にとらわれない個別株戦略が重要となる。為替の動向や地政学リスクなどに左右されにくい内需の成長テーマ株で年末年始相場に臨んでみたい。
●独自成長材料を内包する行政DX関連7銘柄
【エルテスは住民ファーストで実力発揮】
エルテス <3967> [東証G]はSNSでの炎上対策などリスク管理を行うネットセキュリティービジネスを民間企業向けに展開するほか、自治体のDX支援などでも高い実績がある。地方自治体向けでは「住民ファースト」のDXを標榜し、スマートシティー化推進などでリード役を担う。住民サービスの向上、行政サービスの効率化を掲げ新たなサービス創出に傾注している。自治体向けDX関連の案件は下期に伸びが期待されており、業績も下期回収型で25年2月期営業利益は前期比81%増の3億3000万円を見込む。26年2月期もトップライン、利益ともに成長トレンドを堅持する見通しだ。
株価は11月19日に創業20周年記念の株主優待発表を好感し、マドを開けストップ高に買われる人気となったが、その後もマドを埋めることなく売り物をこなし、大勢2段上げの機をうかがう。株価は600円台で値ごろ感があり、2月末の年初来高値1018円を目標に中期4ケタ大台復帰も可能。
【チェンジHDは“ふるさと納税”事業の先駆】
チェンジホールディングス <3962> [東証P]はITソリューションによる地方自治体や民間企業の経営課題解決を主要事業とし、ふるさと納税事業として「ふるさとチョイス」の運営も手掛ける。更に、サイバーセキュリティー領域への展開強化を図る目的で、昨年10月にネットセキュリティー事業を展開するイー・ガーディアン <6050> [東証P]を子会社化。これによって収益基盤が一段と強化された。業績は急拡大途上にあり、売上高は24年3月期の85%増収に続き、25年3月期も前期比22%増と高水準の伸びで450億円を見込む。また、今期は営業利益も同72%増の130億円予想と飛ぶ鳥を落とす勢いだ。この収益成長力にして10倍台のPERは割安感が強い。
株価はやや荒い値動きとなっているが75日移動平均線を下回った1200円近辺の水準は押し目買いのチャンス。中期的には9月末の戻り高値1500円を通過点に2月につけた年初来高値1598円払拭を目指す動きが期待される。
【インソースは派遣型研修で抜群の実績】
インソース <6200> [東証P]は法人を対象に派遣型研修ビジネスを展開し、国策の後押しを受けたリスキリング需要を捉えている。企業だけでなく、官公庁や自治体向けなど行政の課題に即した分野でも、講師派遣型研修を軸とした人材サービスで旺盛なニーズを取り込んでいる。ITサービスや公開講座が会社側想定を上回る推移をみせ業績は絶好調といってよく、25年9月期は売上高が前期比16%増の145億円、営業利益が同12%増の55億2000万円といずれも2ケタ成長で過去最高更新が予想されている。
株価は年初来高値圏で頑強だが、週足ベースでここ数年来のチャート推移をみるとまだ安値圏に位置している。22年12月末の株式分割前に修正後株価で1845円の最高値をつけており、収益面で過去最高更新が続くなか株価も最高値を念頭に置いた水準訂正が続きそうだ。株式需給面ではピーク時から信用買い残の整理が進捗していることで、その分上値も軽い。
【TDCソフトは官公庁向け開発案件好調】
TDCソフト <4687> [東証P]は独立系システムインテグレーターとして開発・運用・管理まで一気通貫で手掛けており、金融機関や流通業界向けを中心に自社開発のクラウドサービスやデータ分析で旺盛な需要を獲得している。金融ITソリューション分野が主力だが、公共法人ITソリューションにも傾注、サイバーセキュリティーでも高い実力を発揮する。そのなか、官公庁向け開発案件などが好調で全体収益に寄与している。25年3月期を最終年度とする中期計画を期初に上方修正し、営業利益は40億円から43億円に増額したのだが、更に上振れる公算が大きくなり、11月には再上方修正を発表し47億5000万円(前期比25%増)を見込むなど極めて好調だ。
株価は10月下旬を境に調整を織り交ぜながらも着実に下値切り上げ波動を形成。7月22日につけた上場来高値1399円奪回が視界に入っている。信用買い残も少なく株式需給面は良好で、早晩青空圏への突入が期待される。
【アイネスはWRで不動のポジション確保】
アイネス <9742> [東証P]は情報システム開発やネットワーク構築・運用などワンストップで対応するが、古くから自治体向けのシステム開発で実績を積み上げている。とりわけ同社が手掛ける日本初の自治体向け総合行政情報システム「ウェブリングス(WR)」は販売開始から20年以上にわたる信頼をベースに高水準の需要を囲い込んでおり、今後も成長ドライバーとして期待大。業績面では24年3月期は営業24%減益と低調だったが、これは23年3月期に9割を超える大幅増益を達成した反動もある。25年3月期は新WRの導入進展などで年度後半に書き入れ時を迎え、営業利益は前期比39%増の40億円が見込まれている。更に次世代WRの開発に取り組むなど成長戦略にも余念がない。
株価は1700円台半ばを上限とするボックス圏推移が続くが、上向きの25日移動平均線との上方カイ離が解消された時価近辺は拾い場。再浮上に転じれば、年初来高値1877円奪回も視野に入りそうだ。
【アクシスは公共社会インフラ分野で需要開拓】
アクシス <4012> [東証S]はシステムインテグレーション事業が売り上げの9割以上を占めるシステム開発会社で、金融機関や公的機関向けに業務アプリケーション開発、インフラシステムの構築、クラウド及び情報セキュリティー、ITコンサルティングサービスなどを提供する。業績は増収増益基調が続いており、トップラインは前期まで3期連続の2ケタ成長で、24年12月期も前期比14%増収の75億400万円予想と好調だ。また、営業利益も同15%増の7億5200万円と2ケタ成長を確保する見通し。ITコンサルの大型案件の寄与に加え、公共社会インフラ分野のDX案件が高水準で収益拡大を後押しする。車両の位置情報把握などをクラウドサービスで提供するといったニッチ分野でも需要を獲得。
株価は11月7日に突発人気化し上ヒゲで1411円まで買われた後調整を入れているが、直近底入れ反転の兆しをみせている。PER10倍台と割安で水準訂正余地が大きいと判断される。
【日シス技術は共創DXを標榜】
日本システム技術 <4323> [東証P]は独立系のシステム開発会社で、主力の業務支援ソフト受託開発のほか医療ビッグデータ事業などにも展開を図っている。顧客企業とデジタライゼーションを進める「共創DX」を標榜しているが、DXの事業領域は幅広く、流通、金融、医療のほか官公庁向けソリューションでも実力を発揮している。16年3月期以降、24年3月期まで9期連続で増収・営業増益を続けているが、25年3月期も売上高が前期比9%増の285億7000万円、営業利益が同13%増の31億5000万円予想といずれも過去最高更新が見込まれ、成長路線に陰りはみられない。配当は22年3月期以降毎期増配を続けており、今期は前期比で実質4円50銭の増配となる27円を計画している。
株価は11月25日に1996円で戻り高値を形成した後に下押したが、ここは強気に対処したいところ。早晩切り返し、年初来高値2125円を払拭しての新値街道突入が意識されそうだ。
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