―露呈する生成AIの負の側面、ネット監視や電子署名技術を活用した対策が急務に―
SNS上で拡散される偽情報・誤情報が社会問題化している。 生成AIにより発信されたフェイク画像は、災害発生時における情報収集活動の妨げとなっており、深刻な人権侵害を引き起こす恐れもある。偽情報対策を強化しつつ、望ましいAIの利用環境を整えようとする機運が国内外で強まるなか、ネット監視や電子署名に関連した技術を持つ企業の中期的な業容拡大期待が膨らみつつある。
●「インプ稼ぎ」で氾濫に拍車
1月1日の能登半島地震発生後、短文投稿サイトX(旧ツイッター)では、実在しない住所を記載して救助を要請する投稿が相次いだ。Xの有料プランに契約するユーザーにより、ほかのユーザーに自身の投稿が表示される「インプレッション」回数を増やし、Xを通じて収益を得る目的で投稿されたものとみられている。いわゆる「インプ稼ぎ」の投稿は海外発のものも多く、Xのユーザー数の多い日本における災害や事故などに関連した投稿は、途上国の一部では生活の糧を得るための手段となっているようだ。
生成AIで作成した動画や画像が、偽情報として流布したとみられる事例も後を絶たない。昨年11月にはウクライナ政府傘下の偽情報対策センターが、同国の軍トップがゼレンスキー大統領を批判する動画について、生成AIの技術をもとに作成された偽のものだとして注意を喚起した。イスラエルとイスラム組織ハマスとの武力衝突においても、生成AIで作成されたとみられる画像が情報戦を展開するためのツールとして利用されていると指摘されている。
一方、西側先進国からは、偽情報対策を進めるための強い意志が示されている。昨年5月の主要7カ国(G7)広島サミットでは、「民主的価値に沿った信頼できるAI」という共通ビジョンの達成に向け、国際的な議論を進める方針が提示された。その後、昨年12月に各国首脳が最終合意した国際指針を通じ、AI開発者は市場投入前のリスク評価とともに、生成AIで作成されたコンテンツであることを示すための「電子透かし」技術の導入などを進めることが推奨されるようになった。
日本政府も偽情報対策に本腰を入れている。今年1月25日に総務省は、偽情報などの対策を議論する有識者による作業部会の初会合を開いた。プラットフォーム事業者へのヒアリングなどを進め、今年夏をメドに報告書をとりまとめる予定だ。また、外務省は2024年度予算案のなかで、情報力の抜本的な強化の一環として偽情報の拡散への対策を強化する方針を示している。
●高まる「ファクトチェック」の重要性
偽情報や誤情報が氾濫する背景として、SNSなどのプラットフォーマーが広告収入の一部を投稿者に分配する「収益化プログラム」の存在を挙げる声は多い。Xでは、誤解を招く恐れのある投稿に注釈を加えられる「コミュニティーノート」が導入されるなど、拡散防止に向けた対応策が講じられているが、情報の信ぴょう性を評価する「ファクトチェック」ツールの開発や導入の動きも国内外で加速している。
一例としてインテル
偽情報や誤情報は、企業の製品・サービスのブランドを毀損するリスクを孕む。生成AIによって架空の画像や動画が生み出され、流布される環境がある以上、情報をいち早く検知するためのネット監視技術の重要性が一段と高まっている。更に、人間とAIによる制作物を区別するうえで、制作物の来歴を示すための電子署名技術の需要が一段と高まることも見込まれているようだ。
●ネット監視でイーガーディなどをマーク
イー・ガーディアン <6050> [東証P]はネット上の投稿監視を展開。昨年、チェンジホールディングス <3962> [東証P]傘下に入り、成長分野と位置付けるサイバーセキュリティー事業において顧客基盤の相互活用などを進める方針だ。23年10~12月期の連結決算は18%の経常減益と直近の業況が冴えなかったこともあって、株価は昨年来の安値圏で推移しているが、PER(株価収益率)は小型グロース株ながら13倍近辺と割安感は強い。
エルテス <3967> [東証G]はSNSの常時モニタリングを行い、緊急性の高い投稿が検知された際に企業の初期対応を支援する。同社の23年9~11月期の経常利益は3カ月間として過去最高。業況のモメンタムに勢いがつきつつあるなか、株価は1月に入り25日移動平均線と75日移動平均線がゴールデンクロスを形成しており、中期的な株高シナリオに期待が膨らむ。
同じくSNSモニタリングを手掛ける企業としてアディッシュ <7093> [東証G]の名が挙がる。同社はライドシェア関連銘柄として人気化した経緯があるが、昨年12月にはTikTok向けのコメント監視パッケージの提供開始を発表した。テリロジーホールディングス <5133> [東証S]は、連結子会社のテリロジーワークスがイスラエルSNS調査会社サイアブラの技術を活用し、顧客にとって脅威となりうる情報のモニタリングとアドバイザリーサービスを提供している。
●電子署名でTKCなどが物色候補に
AIが生成したデータであることを示す技術として、「タイムスタンプ」や「電子署名」も、偽情報対策の強化の潮流を背景にニーズが拡大すると期待されている。この分野ではセイコーグループ <8050> [東証P]とアマノ <6436> [東証P]がそれぞれグループ会社を通じて事業を展開。新たな需要獲得につながるか注目される。
自治体向け電子署名サービスを手掛けるサイバーリンクス <3683> [東証S]や、会計事務所向け電子サインシステムの提供実績を持つTKC <9746> [東証P]も関連銘柄と位置付けられるだろう。このうちTKCは、24年9月期において過去最高益の更新を計画。信用倍率は0.4倍台と売り長の状況だ。
デジタルコンテンツの来歴と信ぴょう性の証明に向けた技術標準を策定する国際団体「C2PA」には、日本からソニーグループ <6758> [東証P]やキヤノン <7751> [東証P]、ニコン <7731> [東証P]などとともに、認証・セキュリティーサービスを手掛けるサイバートラスト <4498> [東証G]が参画する。SBテクノロジー <4726> [東証P]傘下にあるサイバトラスは「CentOS7」の延長サポートでの新規大型案件の失注などを理由に、1月30日に今期の業績予想の下方修正を発表。株価に下押し圧力が掛かったが、C2PA参画企業としての技術的な優位性を発揮して成長を遂げるとのシナリオに基づけば、押し目買いの好機が到来したとも言えるだろう。
国内ではセーファーインターネット協会(SIA)がアルファベット
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