―「割安株」宝庫の東証で株主の圧力は一段と上昇中、利益還元ラッシュは継続か―
東証のPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄の「撲滅運動」に乗じる形で、日本国内においてアクティビスト(モノ言う株主)の活動が活発化している。株主側からの圧力を受けた結果、大規模な増配や自社株買いに踏み切った事例が今年も相次いだ。アクティビスト側にしても、資本効率の向上余地がある銘柄が山積みとなっている東京市場はまさに「宝箱」。アクティビストを大株主に持つ企業への市場参加者の関心度合いは、2025年も高い状態が続くこととなりそうだ。
●株主提案は増加の一途
上場会社への株主提案件数は年々増加の一途にあり、今年6月の株主総会シーズンで株主から提案を受けた企業数は過去最多となった。その多くが、アクティビストからの提案である。世界的にみても、日本は株主総会における議題の提案権を比較的容易に行使することができる国とされている。直近では個人投資家が上場企業に対し株主提案をするケースも出てきた。
取得した株式を会社側に高値で売りつけ、短期間で利益の獲得を狙う投資家は「グリーンメーラー」と呼ばれる。企業の持続的な成長の障壁となるとして、こうした存在に対して否定的な意見は少なくない。一方で、近視眼的なリターンを追求するための提案にとどまらず、中長期の観点で企業価値の向上につながるようなアプローチをとるアクティビストも存在する。その代表例が米バリューアクト・キャピタル・マネジメントだろう。19年に同ファンド関係者を経営陣に迎えたオリンパス <7733> [東証P]は、業績のV字回復を果たした。バリューアクトはセブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]に対しても経営改革を要求し、変革への火付け役となった。
生損保や年金基金、機関投資家に「スチュワードシップ・コード」の順守が求められる時代である。ファンドへの資金供給者の利益を最大限にするために、機関投資家らが投資先の企業の経営状況やガバナンス体制を厳しく監視し、適切に対話をする姿勢自体は、国際金融市場のスタンダードとなっており、企業間の「馴れ合い」が通用していた過去の時代に戻ることは難しい。アクティビストの存在についても、日本の上場企業の意識改革を促すうえで、多大な影響力を及ぼしているということ自体は認めざるを得ないだろう。
●関東私鉄再編の思惑も
アクティビストの大量保有が発覚した銘柄は、短期志向の資金流入により株価に強い上昇圧力が掛かることとなる。米エリオット・マネジメントが大株主に浮上した東京ガス <9531> [東証P]、香港のオアシス・マネジメントの5%超保有が判明したメルカリ <4385> [東証P]は11月に入り急騰する場面があった。旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが買い増しに動いた帝人 <3401> [東証P]も、株価水準を大きく切り上げた。
旧村上ファンド系といえば、一部メディアで株式取得が報じられた京成電鉄 <9009> [東証P]と京浜急行電鉄 <9006> [東証P]が急伸したことも記憶に新しい。阪急阪神ホールディングス <9042> [東証P]誕生の契機は村上ファンドによる当時の阪神電気鉄道の株式取得であったことから、関西の例に倣って関東の私鉄各社の再編劇に発展するのではないかと、株式市場ではまことしやかにささやかれるようになった。業績不振に陥った日産自動車 <7201> [東証P]も、旧村上ファンド系が株式を取得したと11月に伝わっており、アクティビストに関するニュースがとみに増えている。
言うまでもないことではあるが、市場が期待するのは株主還元だけではない。自社のリソースを有効活用して業績と時価総額を拡大させるための、魅力的なエクイティ・ストーリーを多くの投資家が渇望している。更なる進化に向けて経営陣が強い意志を持ち、本気になって変革に取り組もうとしている企業を追い求めている。アクティビストとの対話を通じ、蓄積したマグマが噴出するように変貌を遂げる可能性がある銘柄があまた存在する東京市場において、注目銘柄をピックアップしていく。
●進化の期待膨らむ精選6銘柄
◎栄研化学 <4549> [東証P]
臨床検査事業を手掛ける同社に対しては、英ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドとその共同保有者による持ち株比率が22%を超える。25年3月期第2四半期累計(4-9月)の決算は、主力の便潜血検査用試薬で海外の入札前の買い控えや在庫調整などの動きがあって、計画を下振れして着地することとなった。開発費の増加も響き、通期では減益見通しとなっている。しかし世界各国において、がん検診の対象年齢引き下げや拡大の流れが加速すると期待されるなか、検査需要については中期的に増加基調にあることには変化がなさそうだ。来期から始まる次期中期経営計画の期間中の株主還元方針については現在議論をしていると明らかにしている。9月中間期決算と上限200万株の自社株買い発表後もニッポン・アクティブらの保有比率は上昇。株価は200日移動平均線を下回って推移している。
◎アツギ <3529> [東証S]
ストッキングや女性用インナーウェアを手掛ける同社を巡っては、11月27日提出の変更報告書で英アセット・バリュー・インベスターズによる保有株比率が9.95%まで上昇したことが明らかとなった。記録的な猛暑の後に秋冬商品の導入が遅れ、生活防衛意識の高まりも追撃する形となり、繊維事業の9月中間期の営業赤字幅は前年同期から拡大。利益剰余金はマイナスの状態にある。通期では営業・経常損益の黒字転換を計画。大株主には東レ <3402> [東証P]やオンワードホールディングス <8016> [東証P]なども名を連ね、PBRは0.5倍前後にとどまっている。
◎ダイハツディーゼル <6023> [東証S]
船舶用の発電用補機などを手掛け、大型外航船の補機市場において、国内では約49%、海外では約26%と高いシェアを持つという。今期は中小型機関への販売構成シフトが響きながらもメンテナンスは好調に推移する見込み。価格の適正化交渉の進捗などを踏まえて、中期経営計画の目標値の上方修正も行い、28年3月期までのROE(自己資本利益率)目標を従来の6.5%以上から8.5%以上に見直した。同社に対しては米カナメ・キャピタルが断続的に買い増しを続け、11月18日提出の変更報告書において、保有割合が14.37%まで高まったことが判明している。
◎ガンホー・オンライン・エンターテイメント <3765> [東証P]
24年12月期第3四半期累計(1-9月)決算は、スマートフォン向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」と、国内の「ラグナロク」関連タイトルが落ち込み、売上高は前年同期比21.8%減の764億8400万円、営業利益は同32.8%減の158億2200万円と、ともに2ケタの減少となった。もっとも9月末時点で無借金経営であり、利益剰余金は1941億円。キャッシュリッチ企業の部類に位置付けられる。同社に対しては、10月16日にストラテジックキャピタル(東京都渋谷区)の保有比率が5.47%となり大株主に浮上したことが明らかとなった。アクティビストの大量保有を機にキャッシュの有効活用策がどう示されるか、注視されることとなりそうだ。
◎あすか製薬ホールディングス <4886> [東証P]
産婦人科や甲状腺の領域を強みに医療用医薬品事業を展開。 ニッポン・アクティブが12月5日に提出した変更報告書では、共同保有者分を含めた保有比率は14.90%となっている。医薬品、アニマルヘルスともに事業は堅調に推移するなか、今期から連結配当性向30%を目安(前期は15%)とする方針を示した。9月末時点で112億円(貸借対照表計上ベース)、対純資産比率17.5%に上る政策保有株式の縮減も継続する方針。アクティビストの目が光るなかで、企業価値の更なる向上に向けて新たな一手を打ち出せるか、注目される。
◎平和不動産 <8803> [東証P]
東京証券取引所や大阪取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所のビルを含め、都心の一等地に数多くのオフィスビルや商業施設を保有する。旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスと、村上世彰氏の長女の野村絢氏らによる持ち株比率は、11月26日提出の変更報告書によると9.32%まで上昇している。東京市場において最も影響力を持つアクティビストをPBR改善運動の旗振り役の東証とするならば、その東証の大家をアクティビストが標的とする構図は、店子からみてどう映るのだろうか。平和不を巡っては、今年6月に大成建設 <1801> [東証P]が株式を追加取得して筆頭株主となっている。
株探ニュース
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