1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、主力である投資用ワンルームマンションにおける販売戸数の拡大がアーバネットコーポレーション<3242>の業績をけん引してきた。2008年のリーマンショックの影響などによる金融引き締めを背景として、2011年6月期にボトムをつけたものの、金融緩和の動きとともに、順調に開発物件を積み上げることで業績は回復から拡大基調をたどっており、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。2021年6月期以降、業績の伸びはやや足踏みしているものの、高い業績水準を維持しているとの見方が妥当であろう。特に、投資用ワンルームマンションの売れ行きが好調であることや、海外投資家や事業会社等への1棟一括直接販売による販売単価の上昇もあいまって、経常利益率も10%前後の水準で推移している。
一方、財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向をたどってきたが、内部留保の蓄積に加え、2015年6月の公募増資(約13億円)や2019年12月の公募増資等(約20億円)により、自己資本比率は30%を超える水準となっている。なお、2014年6月期以降、その他(固定資産)が拡大しているのは、安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得を進めてきたことや、研究開発として取り組んでいるホテル事業によるものである。用地取得の困難な状況や物件厳選の方針により、2019年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の伸びは若干抑え気味となっているが、固定資産(自社保有ホテルや賃貸収益物件の取得等)の増加などにより資産残高は拡大してきた。
2. 2022年6月期の業績概要
2022年6月期の業績は、売上高が前期比6.4%減の19,606百万円、営業利益が同4.3%減の2,222百万円、経常利益が同4.6%減の1,985百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.6%増の1,314百万円と減収及び営業減益となった。計画に対しても一部プロジェクトの期ずれにより売上高は下振れたものの、利益面では上回る水準を確保することができた。
売上高は、主力の「不動産事業」が減収となった。その内訳を見ると、1)「不動産開発販売」における販売戸数が11棟658戸(前期比25戸減)と期ずれ分(1棟69戸)の影響により減少した。ただ、コロナ禍の影響は少なく、円安を背景とした海外からの資金流入を含め、投資家からの引き合いは好調を維持しているようだ。2)「不動産仕入販売」については、中古分譲マンション等の買取再販が6戸(前期は5戸)とほぼ横ばいで推移。3)「その他(不動産仲介及び不動産賃貸事業)」は、賃貸収益物件の安定稼働や新規取得※により着実に伸びている。
※賃貸用として、中古マンションを戸別に数戸取得した。
「ホテル事業」については、コロナ禍の長期化に伴い、感染者数の増減に稼働率や客室単価が大きく左右される状況が続いており、改善傾向にはあるものの、期を通じて損益分岐点を上回る水準には至らなかった。もっとも、研究開発の一環であるため保守的な計画としており、業績の下振れ要因にはなっていない。
利益面でも、減収による収益の下押しにより営業減益となったものの、販管費の削減により営業利益率は11.3%(前期は11.1%)に改善した。円安による海外からの資金流入等を含めた強い地合いが続くなか、利益面で計画を上回ることができたのは、物件ごとに販売のタイミングを見計らい、プロジェクト利益の最大化(売上総利益率の上振れ)に努めたことが主因である。
財政状態については、現金及び預金が増加したほか、積極的な用地購入による棚卸資産(仕掛販売用不動産)の増加、並びに収益物件の取得に伴う固定資産の増加等により、総資産は前期末比8.3%増の38,090百万円に拡大した。自己資本についても内部留保の積み増しにより同6.3%増の12,795百万円に増加した結果、自己資本比率は33.6%(前期末は34.2%)と僅かに低下した。
キャッシュ・フローの状況については、1)棚卸資産が増加したものの、税金等調整前当期純利益の計上により営業キャッシュ・フローはプラスを確保した。2)賃貸収益物件の取得により投資キャッシュ・フローはマイナス、3)長期借入金により財務キャシュ・フローはプラスとなり、それらの結果、現金及び現金同等物は前期末比1,292百万円増の8,485百万円に増加した。
3. パイプラインの状況
2022年6月期末のパイプライン(開発物件)の状況は、2023年6月期の販売予定分586戸に加え、2024年6月期以降の販売予定分として1,010戸超を確保しており、しばらくは高い業績水準を維持することが可能であると弊社では評価している。都心部における用地の取得競争はさらに激化しており、困難な仕入環境が続いているが、同社では土地仕入要員を増強し、積極的に好立地の用地取得を進める方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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