3. セグメント別業績
(1) ITサブスクリプション事業
ITサブスクリプション事業は、パシフィックネット<3021>が進めてきた中期経営計画「SHIFT 2021」(2018年6月-2021年5月)において最重要施策と位置付けているストック収益部門となる。同事業セグメントは成長率が高く、市場規模も大きいほか、ストック収益化や持続的成長が可能であると言える。情報機器のサブスクリプションでの提供や運用保守・通信・クラウド等のITサービスを提供しており、これまでは事業規模拡大に取り組んでいたため積極投資によるコストが先行していた。
2021年5月期においては、コロナ禍で受注ペースがダウンしたものの、第4四半期にかけ回復トレンドとなり、前期からの受注によるストック積み上げがサブスクリプション収益の拡大につながっているほか、短期レンタルの受注も好調に推移した。これにより売上高は2,945百万円(前期比34.2%増)、セグメント利益は515百万円(同85.7%増)と1.8倍になり、将来収益のストックも拡大した。なお、第4四半期単独では売上高が757百万円(前年同期比27.2%増)、セグメント利益は115百万円(同63.0%増)だった。
(2) ITAD事業
ITAD事業は規模ではなく、収益性の向上、環境変化への対応力強化を事業方針としているため、これに向けた収益構造の改革を実施している。使用済みの情報機器の回収台数は、コロナ禍による第1四半期(6~8月)での減少の影響があるが、第2四半期以降は回復基調にある。とりわけ、米中摩擦による中国の米国からのPCの輸入の減少や半導体不足を背景とするPCの需給ひっ迫等により販売単価上昇が強まっている。また、データ消去の受注は好調に推移しているほか、在庫回転率の向上、業務IT化推進などによる施策の効果により、収益性が向上した。
これにより2021年5月期は、売上高は2,164百万円(前期比4.0%増)、セグメント利益は754百万円(同41.9%増)と収益性が大幅に向上した。なお、第4四半期単独では売上高が694百万円(前年同期比21.2%増)、セグメント利益は231百万円(同37.7%増)だった。
(3) コミュニケーション・デバイス事業
コミュニケーション・デバイス事業については、ワイヤレスガイド無線機「イヤホンガイド®」の販売・レンタル・保守などを手掛けており、コロナ禍による観光需要の減少の影響を受けて大幅な減収となった。しかし、コロナ禍収束を見据えた観光業からの大型受注や国内旅行の一部回復等が見られてきている。
また、コミュニケーション・デバイス事業はコロナ禍の影響を一番大きく受けているが、セグメント規模が小さいことから、コロナ禍の影響を最大限に見積もっても、業績に与える影響が限られよう。2021年5月期における売上高は124百万円(前期比58.1%減)、セグメント損失は33百万円となった。第4四半期単独では売上高が17百万円(前年同期比65.1%増)、セグメント損失は16百万円だった。
足元では海外ツアーが大部分を占めていた「イヤホンガイド®」の観光利用が大幅に減少したが、2020年5月に日本旅行業協会が発表した「旅行業における新型コロナウイルスガイドライン」では、団体旅行での三密を避ける施策として「ガイドレシーバーを利用したガイディング等を行うこと」と推奨された。これにより旅行代理店や観光名所からの「イヤホンガイド®」への問い合わせが続いているようである。今後は感染予防対策ツールとして認知が拡大し、国内ツアーでもガイドレシーバー利用が増加してくるだろう。
さらに、日本の世界遺産での採用が増えており、旅行関連市場トップシェアを有する同社のガイドレシーバーの市場規模の拡大につながると弊社では考えている。2021年7月時点における日本の世界遺産では、「琉球王国のグスク及び関連遺産群(文化)」「知床(自然)」「富岡製糸場と絹産業遺産群(文化)」のほか、2021年7月27日に登録が決定した「北海道・北東北の縄文遺跡群(文化)」の三内丸山遺跡、御所野遺跡で採用されている。現在4ヶ所となるが、この動きは他の世界遺産も追随する可能性は相当高いと見ておきたい。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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